『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31

『耳朶 (8) 短編小説  『憐憫』  』



バブルが弾けた今でも (接待)は付きもの。。。。
『戦場』と言っても過言でない世界では 男も女もない。
必然的に いつの間にか 私も 何度か苦い思いをしながら
少しづつ お酒にも 強くなり 自分をコントロールする事が
出来るようになった。
しかし 今夜は 正直 自信はなかった。

a0021871_107076.jpg


何杯か カクテルを頼んだが 
結局 ココロと同じ様に 絡み付くような不快感に
ブランデーを注文した時だった。
その男は さりげなく 私のテーブル側に佇み 
『宜しければ ご一緒させて頂いても 構いませんか?
お独りが 宜しければ 退散しますが。。。。』


振り向いた私の目に映った男は
一目で ある程度の地位にいる人間だと 見て取れた。
着こなされたブランドのスーツに包まれた 柔らかい雰囲気の中に
幾多の荒波を潜り抜けてきたであろう 厳しさが感じられた。


一瞬躊躇ったが 私の口から出た言葉は
『構いませんよ。』。。。。予感がした。
『それでは お言葉に甘えて。。。。』
その仕草すら 全てが完璧に近いもので
待ち合わせ時間に 遅れてきた人間のような自然さだった。


『申し送れました。。。私は。。。』と名刺入れから出された名刺に
書かれていた文字を一瞥して。。。。やはり。。。と 思った。
しかし 今の私には 彼が 何者だろうと どうでもよかった。
私は 名のらず 名刺入れに その名詞を収めた。



シャワーを浴び 化粧を一通り直して バスルームから出てきた時、
彼は ガウンを羽織り 夜景を見つめていた。
もう。。。随分 車も 少なくなったようだ。



『じゃあ 私はこれで。。。。』
そう言い掛けた時、ゆっくりと彼は振り向きながら
『僕は この部屋を 住居代わりに使っている。
君とは 又 会いたい。 僕の個人用携帯番号だから。。。。』
そう言いながら 私に メモ用紙を 手に握らせ。。。


ふと。。。。微笑んで
『君は 左の耳朶に触れるのが 癖なんだね。』
と 包み込むように私を抱きしめ ドアまで 付き添って送り出してくれた。



タクシーで自宅前まで乗りつけ 見上げた夫の部屋の電気は
薄ボンヤリと明かりが 漏れていた。。。。
(帰って来ているのね。。。。)そう呟いた言葉が
自分でも 冷たい言葉になって出てきた事に 
もう 何かが終わり 何かが始まったんだと。。。感じた。





      今度は 震える事無く 鍵穴に鍵を差し込んだ。

             玄関では リュウが 待っていた。。。。


                 
                   『耳朶 (8) 短編小説 『憐憫』  』
by deracine_anjo | 2004-07-26 10:54 | 『耳朶』  短編小説