『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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『☆深紅の薔薇とおわら風の盆☆』 (27)



 『ホスピス』 での 日々も 母の体力と気力を次第に奪っていったが それでも
 
 静かで 穏やかなものだった。

 『☆深紅の薔薇とおわら風の盆☆』 (27)_a0021871_13172139.jpg
              規制は 殆んど無い。
              母も可愛がっていた
              先代のフランコも 
              一緒に母を見舞った。
              父と私の役割も
              何一つ変わらず
              唯。。。
              一つ 変わっていった
              のは 私が帰るのを
              少しづつ 嫌がる様に
  成っていった事だった・・・・。

  母の夕食に付き合いながら 共に 晩酌を楽しむ。

  食も細くなっていたが 他愛の無い話をしながらの時間が 私の帰宅と共に 

  終わるのを 嫌がり始めていたのだ。

  一本 一本と 帰宅の電車を遅らせる事に成った。

  パートナーには その分 迷惑を掛ける事になったが もう 残り時間のない

  母を最優先する事が 私達にとっては 選びようの無い現実だった。



  まだ 『モルヒネ』 を 使用する事無く 何とか お正月を迎えた。

  大晦日から 父が泊まり 元旦を迎えた。

  屋上で 初日の出を観たそうだ。

  朝食には 小さな器に 心の篭った お節料理とお雑煮も出され

  『ホスピス』 に居る人達に 暖かいもてなしがあった。

  けれど 現実には 見舞う度に 部屋が開け放たれ 整理された病室が

  増えてゆく・・・・。

  ある時 私の中で 小さな予感が 芽生えた。



  ボランティアの中に 母と とても話しが通じる方がいらっしゃった。

  その方も 富山県 八尾市の 『おわら風の盆』 を ご覧に成ったそうで

  母の事を 何くれと無く 気遣ってくれていた。

  本当に ありがたかった。

  けれど 心の中に 元来 社交的で 人様に 出来る限り迷惑を 掛けたくない

  母の意地が 身体の弱りと共に 想う様に成らなくなってきた時点で 腹を括る

  時が来た気がした。

  

  それは ある日 突然 遣ってきた。。。

  睡眠薬で朦朧としたまま トイレに行こうとして 粗相をしてしまったのだ。

  母は シーツを剥がし ベットパットも剥がし 自分で 洗おうとしていた所を

  当直の看護婦さんに気が付かれ 本人としては とても傷付いていた。

  我が家では パートナーにそれとなく 母を引き取る話しをしていた矢先だった。

  いつもの様に 新しい花と母の好きな刺身を買って 病室に出向くと 心なしか

  元気がない。

  詳細を聞いた後・・・静かに 母に語りかけた。

  『これから どうしたい?我が儘 言っていいよ。』

  暫くの沈黙の後 母は

  『此処で 死にたく無い。此処の人は とてもいい方達ばかり。

  だから 最期を見せたくない!!』 

  『そう・・・分かった。で・・・家に帰る?うちに来る?』

  『あんたの所に 行きたい。』

  『分かった。先生と話して 出来るだけ早く うちに来れる様に 手配するから。』



  当時 私は 一軒家だが 社宅に住んでいた。

  誰にも知られず 母を向かい入れる為に ケアセンターを訪ね ベットを搬入し

  そして 何よりも 往診してくれるドクターを探す・・・・それも 

  『延命治療ではなく 緩和治療を 考えて下さるドクター』 を 見つける。

  追い詰められていた。
  
  誰一人 相談する事も出来ず 何とか 用意が整ったのは 

  1月も末に成っていたが 奇跡の様な巡り会わせで 母を迎える事が出来た。

  前日 泊まっていると 担当医のドクターから

  『脳に転移があるかもしれませんし 肺炎も起こしかけています。

  最悪の場合 帰路の途中で・・・それでも 連れて帰りますか?』 と 

  尋ねられたが 私は もう その事も 母に正直に話し 連れて帰る事を

  決めていた。

  何かあっても 互いに 悔いはない!!



  その一念は 皆 同じだった。

『☆深紅の薔薇とおわら風の盆☆』 (27)_a0021871_1717382.jpg
 
 
by deracine_anjo | 2006-02-03 13:55 | ☆深紅の薔薇とおわら風の盆☆