『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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『凍えた月を見つめて』 小説 (20)


 一週間は あっという間に過ぎていった。
 
 互いの両親への報告から始まって 細かい手続きや病院周りに 毎日が24時間

 では 足らない様な日々だった。

 拓哉も出来る限り スケジュールを調整して 明子に付き合ってくれてはいたが

 やはり 一週間では 無理だった。

 明日 NYに戻ると言う日・・・・明子は破水した。

 予定はまだ 2ヶ月先だと言うのに。

 携帯を握りしめ 救急車を呼び 拓哉の携帯にも電話を入れた。

 歯を食い縛り 救急車が来るのを待ち

 『水島総合産婦人科に。。。』 其れが 意識が残っている 最後の言葉だった。



 拓哉は院長の言葉を 1つ残さず聞き漏らすまいと 真剣な面持ちで話を

 聞いていた。

 『一度 切迫流産の経験が有った事を踏まえて 8ヶ月ですが 充分に元気

 に育っていますので 産む事を選択しました。

 母子共に 順調です。けれど 暫くは 赤ちゃんは保育器の中。。。と言う事に

 成りますが 到って健康で 今現在 異常も診られませんので 御安心下さい。

 逢って行かれますか?可愛いお嬢さんですよ。』

 拓哉自身が医者である事は 院長も知っている事実。それ故にキチンと事実を

 話してくれてくれている事が 拓哉には ありがたかった。

 『御願いします。妻にも 元気だと 伝えてやりたいので。。。』

 自然と拓哉の口から出た 『妻』 と言う言葉。

 微笑む院長は 保育室に 拓哉を先導した。

 『右手前にいる赤ちゃんが そうですよ。気持ち良さそうに 眠っていますよ。』



 ガラス越しにしか 逢う事の出来ないもどかしさはあったが いつしか 拓哉の

 瞳から 熱い涙が 流れ落ちていた。



 その姿を見つめたまま 『奥様は 503号室ですから。。。。』 

 院長はそう告げると 静かに去って行った。

『凍えた月を見つめて』 小説 (20)_a0021871_1219718.jpg



              『凍えた月を見つめて』 小説 (20)
by deracine_anjo | 2005-11-27 12:22 | 『凍えた月を見つめて』 小説