『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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『凍えた月を見つめて』 小説 (17)


 翌日 拓哉は 久し振りに晴れ晴れとした心で 病院へと向かっていた。



 拓哉の気持ちには 一点の曇りも無い。
 カンファレンスの最中に 同情的な視線を受けても もう 負けはしない。
 NYからの朝早い明子からの妊娠の報告を受けた 拓哉は 戦いに挑む 
 孤高の獅子の様だった。
 明子と生まれてくる子供の為に そして 何よりも 自分が生きていく証は
 1%の確立であろうと 今 投げ出し逃げる訳には行かない。
 負け犬に成るのは いつでも成れる。
 部長の説明通り 拓哉は 外来と後任の指導に徹しながら 自宅に帰っても
 リハビリを続けていた。
 今一度 この手に メスを握り 多くの命を救う為に。。。。



 伯母の陽子は 明子の言葉を 爽やかな風の吹くセントラルパークの片隅で
 何も語らず 黙って聴いていた。
 母に成った強さなのか 拓哉への愛なのか 何と あの幼なかった姪が これ程
 逞しく成長していた事に 驚きと喜びを感じながら。。。
 『陽子伯母さん 我が儘を今回は 許してください。
 お腹の赤ちゃんは 絶対に 私が守ります。無茶はしません。
 拓哉にも 怪我の事は 知らないまま 赤ちゃんの事だけ 報告します。
 彼は 神から与えられた天職を 諦めたり 自暴自棄に成る人間では 
 ありません。
 私は 信じています。彼が 又 メスを握れる事を!
 そして 微笑んで 私とこの子を 迎えてくれる事を!』
 『不安は無いの?彼は 神ではないわよ。』
 『不安なら NYに行きを決めた時から 沢山の葛藤がありました。
 この妊娠も 予期していなかった事では ありません。
 でも。。。』



 
 一呼吸置いた後 涼しげで聡明な瞳で 陽子を見つめ
 『この子が 信じる力を 与えてくれます。今は どんな 結果も 
 怖くはありません。』
 


 
 漆黒の闇に浮かぶ 月の様な 美しさを秘める明子だった。

『凍えた月を見つめて』 小説 (17)_a0021871_2471822.jpg



            『凍えた月を見つめて』  小説 (17)
by deracine_anjo | 2005-10-30 02:49 | 『凍えた月を見つめて』 小説