『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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『鏡の中の女』 小説 (17)


ただただ 静かに東郷の言葉を待っていた。
『はははっ・・・優子。そんな 泣きそうな顔をする事はない。
唯の過労と面倒な定期検査だ。
お前さんの倍 生きてきた身体だ。多少のガタが来て当たり前だ。
そんな 不安そうな顔をして 心配せんでいい。
ただ 政治家じゃないが 今こうして 病院に入っている事自体は 悟られる事を避けるに越した事がないのが 私の立場だ。
予定では 1週間の検査だ。
お前さんの事だ。毎日 見舞いに来るつもりだろうが 今回は 静かに自宅で 待つんだ。
私は 直ぐに 戻る。言っている意味が 分かるな、優子。』
喉まで 出掛かっている言葉を 飲み込む様にして 静かに優子は 頷いた。
『処で 警察は動き出した様だな。いつ何時 連絡があるかも知れんから 優子も出来るだけ 自宅で待機しておくんだぞ。
あの弁護士の杉浦は 俊腕弁護士だ。信用して大丈夫だ。上手く警察と話を付けてくれるから 安心して 吉報を待つんだ。
それに 警察もお前さんが持ち込んだ証拠で 深田興業を叩けると 喜んでいる様だ。
少々 奴らも やりすぎたよう様だな。はははっ・・・。
己を知らん奴は いつか 思い上がって 足元を掬われる。』
東郷の言葉は 幾つもの 深い河を渡って来た男の真実の言葉だったのだろうが 正直 優子は東郷の体の事が心配で 成らなかった。



帰宅して 自室に戻った優子は ボンヤリと花瓶に生けた花に目をやった。
ポトリと落ちている花弁を 見つけ 思わず 花瓶から全ての花を抜き取り ゴミ箱に捨てた。
(本当に 定期検査なのだろうか・・・。あの物々しい機械に囲まれた東郷の姿。此処最近の 東郷の様子・・・。何度か尋ね様としては 止められた。けれど 東郷の言葉を信じたい!)
優子は今一度 出掛ける準備をして 全ての部屋を 見て回った。
幾つか もう 生気を失い掛けている花もある。
ここ数日 バタバタとしていた所為だ。
お手伝いの人に声を掛けて 優子は 花屋へと向かった。
ジッとしていられない自分を 励ますように 一抱えの花を注文し 配達して貰う様に手配した。
届いた花の中から 一番最初に 茶室に花を活けた。
活けながら 優子は 声を殺して 泣き続けていた・・・・。
この部屋で 幾度 東郷の為に 茶を点てて来た事か。
この静かな場所に 東郷の姿が無い事が これ程までに 胸を締め付けられるとは 自分でも思いも寄らなかった。
(お帰りをお待ちしております。)
何度も何度も 心の中で 呟く優子だった。



警察からも杉浦さんからも何の連絡もない儘に 一週間が過ぎた。
部屋に引き篭もりがちに成っていた優子の部屋のドアが 静かにノックされた。
『はい・・・どうぞ。』
『失礼致します。今 お電話がありまして ご主人様が お戻りに成られるという事です。』
思わず椅子から立ち上がり 
『何時ごろですか?それは・・・』
『夕食時までには お戻りに成られるという事でしたが。』
思わず時計を見ると もう 3時近い。
『分かりました。直ぐに出入りの魚屋に電話をして 粋のいい物を刺身で届けさせて下さい。それと 小鉢のお料理は 私も手伝いますので 何か旬のものを買って来てください。
直ぐに 私も用意をして 下に参りますので 御願いいたします。あっ!!お肉も 取り敢えず 用意しておいて下さい。』
『はい。分かりました。』
優子は 直ぐにシャワーを浴び 手際よく着物に着替えて 明るめに化粧を施し 急いで階下に降りて行った。
直ぐにでも 茶が点てられる様に 一番最初に 茶室を覗き それから キッチンへと向かった。



帰宅した東郷は 事の他 機嫌が良く 心配していた程 疲れた様子もなく 優子が用意した食事も 久し振りに綺麗に平らげてくれた。
『やはり 優子の料理は 美味い。それに 自宅は いいものだ。
優子 茶を 点ててくれるか?』
『はい・・・ご用意させて頂きます。』
茶室で 静かに東郷を待っていると 暫くして東郷が 穏やかな顔をして現れた。
『優子。心配掛けたようだな。随分と痩せた様だが・・・・』
『お帰りなさいませ、東郷様・・・』



それ以上 言葉に成らず 両の掌に 真珠の様な雫が ハラハラと 舞い降りていた・・・・。

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             『鏡の中の女』 小説 (17)
by deracine_anjo | 2005-04-30 12:17 | 『鏡の中の女』 小説