『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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『鏡の中の女』  小説 (14)


優子は 疲れた心と身体を 深く座席に沈め 上空から見える景色を静かに見つめていた。
今度 この地に来る時には きっと あの男の答えを聞きだす為だろう・・・と思いながらも 哀しみが 心を痛めつけていた。
『お父さん、お母さん・・・・』 ふと 口をついて出た言葉・・・涙を堪える様に 優子は きつく瞳を閉じた。



帰宅した優子を 驚いた事に東郷が 外出せずに待っていた。
『ただいま戻りました。此の度は 本当に ありがとうございました。』
『些か 疲れた様だな。着替えをして 一息ついたら 茶を点ててくれるか?』
『はい。直ぐに 用意いたします。少々 お待ち下さいませ。』
『急がんでもいいからな。』
自室に戻り 鏡の中の顔をチラリと覗くと 憔悴しきった見知らぬ顔が 淋しそうに優子を見つめていた。
嫌々をする様に頭を振り 急いで着物に着替え 少し濃い目の化粧を施して 茶室へと向かった。
茶室に入り 用意をしている間に 少しづつ穏やかな気持ちが 優子を包んでいた。
この茶室は 東郷の妻がやはり 東郷の為に 茶を点てていた場所だ。
きっと この場所での東郷は 妻が茶を点てる姿を 穏やかな瞳で 見つめていたのだろう。
戦い抜いてきた男の唯一の安らぎの時間であったのだろう。
そんな事を思いながら 用意をしていると 静かに東郷が 現れた。
『少しは 気分が落ち着いたかな?』
『はい。この茶室の穏やかな静けさに 漸く 安堵致しました。』
『そうか・・・。それでは 上手い茶を 点てて貰おう。』
『はい。』
静寂に中 優子のささくれ立っていた心が 少しづつ 浄化される様に 静かな時間が流れた。
そして 改めて 影の大物と言われ恐れられている東郷の 人間的な懐の大きさにも 安心感を覚える優子だった。



『電話で大体の事は分かったが 落とせそうか、優子。』
『何よりも 私の出現に怯え そして あの男に放火を依頼した人間に脅えておりました。喋れば殺されると口走っておりましたから 私が考えている相手だと確信致しました。』
『そうか。お前さんには悪いが よくある話だ。』
『自分の身に起こるまでは それは まるで テレビドラマか 小説の世界だけかと思っていましたが これが 現実なんですね。
でも 現実ならば 私と同じ様な想いをされた方も 他にもいらっしゃるやも知れません。ならば 尚更 私だけの為では無く 許す訳には 参りません。必ず 証言台に 立たせてみせます。その為にも お力をお貸し下さいませ。 』
『はははっ・・・麗香に戻ってきたようだな。他の事は何も 心配せんでいい。刑務所での男の保護には 充分注意する様に話しもつけてある。
自殺もさせんようにな。』
『自殺・・・・。』
『それ程の覚悟の出来る男ではあるまいが 追い詰められれば 人間は 分からんもんだ。証言する事によって奴は 放火並びに 殺人の罪が問われる事になる。』
『はい・・・その時は 減刑の嘆願書を出すからと 申してきました。』
『そうか。では 余り 時間を置かずに 又 出向く事だな。』
『東郷様 本当にありがとうございます。東郷様に巡り会わなければ・・・・』
『もう その話は いい。私の酔狂だ。さて もう一服 茶を点ててくれ。』



優子が 心を籠めて 東郷の為に 茶を点てる姿は 一点の曇りも無い 清楚な姿だった・・・。

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             『鏡の中の女』  小説  (14)
by deracine_anjo | 2005-04-27 12:58 | 『鏡の中の女』 小説