『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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『鏡の中の女』 小説 (13)


部屋でボンヤリしていると 東郷から電話が入った。



『ああ 私だ。今日の首尾は どうだったかい?』
『東郷様のお力で お陰様で 会う事が叶いました。ありがとうございました。
相手は 始め 単純に私の事を 不審がっていましたが 最後は 脅えておりました。』
『ふむ。で・・・もう 全てを話したのか?』
『いえ・・・明日 行って 話すつもりで 殆んど 今日は何も・・・』
『なるほど・・・一日 取り敢えず 考えさせる事にしたのか。相手は 今夜は 眠れないだろうな。』
『はい。東京と言う言葉だけで 脅えておりました。それに 刑務官の態度にも・・・』
『そうか・・・。で お前さん 食事はしたのか?』
『いえ・・・まだ。』
『そんな事だろうと思った。キチンとドレスアップして レストランで食事をして ラウンジでお酒でも飲むんだ。これは 命令だ。
一日目で それ程 ダメージを お前さんが受けている様では これからの長丁場 戦う事は 出来んぞ。もっと 強く成れ!いいな!』
『はい、東郷様。ありがとうございます。仰る様に 致します。』
『じゃあ 明日又 夜 電話をする。ゆっくり 休むんだぞ。』
『はい。お休みなさいませ。』
『ああ おやすみ。』
電話を切った後 ノロノロと立ち上がり 優子はバスルームに行き カランを思い切り開いて 湯船に湯を張った。
東郷の言葉一つ一つを 心の中で 刻み込みながら・・・。



翌日も優子は 静かに男がドアから出てくるのを待っていた。
小さく音がして ドアが開かれた。
東郷が言っていた様に 一夜にして 男は焦燥しきっていた。
昨日の様な態度は見せずに 静かに優子の前に坐り 死刑判決でも受ける様な面持ちで 優子の言葉を待っていた。
『こんにちは。昨夜は 余り 眠れなかったみたいですね。大丈夫ですか?』
『そんな事は どうでもいい。アンタは何者なんだ。俺に何が 聞きたくて こんな事をしているんだ。』
苛立ちと怯えが混じった声は かすれ 途切れ途切れになる。
『今日は キチンとお話し致します。出来れば 直ぐにでも 私の質問に正直に答え 協力をして下さるとお約束して下されば 一番良いのですが・・・それは 昨日も申した様に 貴方次第です。
協力して下されば 貴方の事は 私の後ろ盾に成って下さる方が 御守りいたします。』
『そんな事は 分かったから 兎に角 アンタは 何者なんだ!それから 答えろ!』
『原宿で自動車整備工場を営んでいた 上原章人の一人娘 上原優子です。覚えていらっしゃるでしょう。』
『上原・・・・』
男は震えが止まらなくなり ガチガチと歯の音が 静かな部屋に 不気味に こだまする。
『あの日の夜の事を 忘れた事は 無い筈です。私は一日たりとも あの炎に包まれていく家の無残な姿を 忘れた事はありません。如何ですか?私が 何の為に ここに来ているのか 少しは 察しが付きましたでしょうかしら?』
『オ・・・オ・・・オレは何も知らない。上原なんて 名前も聞いた事が無い!原宿なんて行った事も な・・な・・ない!』
『では 何故 そんなに 震えているのですか?何度も 申し上げましたでしょう。私の後ろ盾に成って下さる方が 私を此処まで 導いてくださったと。それは 貴方の嘘が通用しないという事ですよ。』
一呼吸置いて 優子は言葉を続けた。
『貴方は麻薬か何か欲しさに単純に頼まれただけなのでしょう。
隣家までに災いしなかった事だけが救いでしたが あの火事で 私の両親は亡くなりました。それも 御存知ですよね。
そして 貴方自身も あれ程の惨事に成るとは思わなくて 自分の犯した罪が怖くなって この地に舞い戻ってきた。勿論 お金を渡されて・・・。
貴方に それを頼んだ相手は 誰ですか?
貴方が正直にその名前を告白して 法廷で証言して下さると言うのなら 私は 貴方を許します。減刑の嘆願書も出しましょう。』
『オ・・オ・・オレは 知らない。何も 知らない!!言えば 殺される!!』
『貴方は残りの人生を そうやって 脅え 息を潜めて 生きるのですか?
大きな力に守られて 人生を 今度こそ 一からやり直してみる気は無いのですか?今も貴方は もうその力によって 守られているんですよ。
近い内に 又 来ます。其の時までに 答えを出しておいてください。』



タクシーを待つ間・・・見上げた空が 余りにも 哀しかった・・・・。

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             『鏡の中の女』 小説 (13)
by deracine_anjo | 2005-04-25 11:24 | 『鏡の中の女』 小説