『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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『寂光の愛・・・生命』 最終章

一ヵ月後 互いの休みを合わせて 一路 伊豆に向かって車を走らせていた。
彼からは
『兎に角 逢って貰いたい人がいるんだ。』 としか 聞かされてなかった。
多少の不安はあったが 彼を信じると決めたのだから もう 何も迷う事も 悩む事も この瞬間には 必要なかった。
何が待ち受けているのか・・・確かめなければ成らない。
逃げる訳には いかないのだ。
例え それが どんな結果になろうとも・・・・。



着いた所は 『サナトリュウム』の様な 施設だった。
広大な敷地の中に 清潔な佇まいの建物が見え 木々と花で 周りは囲まれ 別世界の様な静寂さと穏やかさが溢れていた。
車を駐車場に停め 車から降りた彼は にこやかに そして慈愛深い微笑で 私を見つめ 
『ついてきてくれる?』 と 呟いた。
私も 彼の心に答える様に 大きく頷き 微笑返した。
『じゃあ 行くよ。』
彼はそっと 私の手を握り 建物へと向かった。
静かに自動扉が開き 受付らしいカウンターへと 向かう。
カウンターに居た女性が気付き
『日下部さん お久し振りですね。チョッと お待ち下さい。あっ、今のお時間だと 裏庭の方を お散歩されていますよ。』
『そうですか。それでは 探してみます。ありがとう。』
今一度 外に出て 彼の手を握りしめたまま 私は 何かに導かれる様に 彼と共に 裏庭に向かった。
穏やかな日差しの中 先程の女性が言っていた様に 何人かの方達が 静かにベンチに坐り 風や鳥達の声でも聴いているかの様に 過ごされていた。
『あそこに居ました・・・・。』
一瞬 心臓が早鐘の様に打つのが分かったが それを察した様に 彼が今一度 強く私の手を握り返してくれた事で 落ち着きを取り戻す事が出来た。
車椅子に乗った女性だった。側には 薄いピンクの上着を羽織った女性が立っている。
私達に気付き 会釈をして 傍らの女性に 何か囁いた様だが 反応がない様に見えた。
静かに私達は その女性の前に 立った。
そして・・・一目で その女性が 彼の母親であることが 分かった。
『お母さん。今日の気分は 如何ですか?今日は お天気もいいし 体調も少しはいいですか?
今日は 僕が将来 結婚したいと想っている女性に 一緒に来て貰いました。僕の一目惚れです。速水美樹さんと言います。』
『速水美樹です。始めまして。突然 押しかけてしまい申し訳ありませんでした。』
けれど・・・・・答えは 無かった。



彼が担当医と話をしている間 私は 園外の花達に見とれていた。
手入れの行き届いた花達。
振り返って見る建物も 贅沢な作りだ。
彼がキチンとした家庭で育ってきた人だと 思ったのは 間違いなかった。
三十分ほどして 彼は 私の元に戻ってきた。
『待たせてすまなかったね。話は車の中でする。もう一箇所 付き合ってもらいたい所が あるんだ。構わないかな?』
『ええ 私は 構いませんが もう いいのですか?お母様とのお時間は?』
『チョッと 部屋にも寄って来たから 大丈夫だよ。それより 美樹さんこそ 大丈夫?驚いたでしょう。さあ 車に乗って・・・・。』
彼の話では 元々 身体の弱いお母様だったのだが ある事が切っ掛けで 心まで 壊れてしまって 今は 自分の息子の事も 時々 思い出す位だと言う事だった。
今は 自分が幸せだった頃・・・子供の頃の時間や結婚当初の時間の中で 生きていらっしゃるらしい。
『着いたよ。』
其処は 先程の場所からそれ程 離れていないお寺さんだった。
先程と同じ様に 彼は私の手を握り 花と線香を買い求め 桶を持って 歩き始めた。
『足元に気をつけてね。』 私の歩調に合わせながら そっと言葉を 掛けてくれる。
ふと 彼が 立ち止った。
見つめた先に見えた文字は 『長谷部家乃墓』
一瞬 意識を失いそうになった私を 彼が受け止めてくれた。



帰りの道中 私は 只 黙って彼の話を 聞いていた。
そして 聴けば聞くほどに 私が 竜司さんとキチンと会話をした時 何処か 懐かしい想いを感じた事を思い出していた。
彼が 今迄 御両親の事を 一度も話した事が無い事も 羽田で私を迎えに来てくれた時 彼の心の痛みに 一瞬触れた様な気がしたのも・・・・全て 辻褄があう。
そして 常務が私を 不倫相手として 抱かなかった理由 何となく 分かる気がする。
『美樹さん 貴方を騙すつもりは無かった。けれど 真実を言えば 貴方が離れていく様で 怖かった。けれど・・・もう 全てを話して 貴方の気持ちを聞きたいと 思った。だから あの日 僕は 聞かなかった。』
静かに車を 路肩に停めて 彼は 覚悟を決めた様に 私を 見つめた。
『どんな答えでも 構わない。今 出来る事なら 聞かせて貰えないだろうか・・・無理を承知で聞いている。』



ひとつ 大きく 深呼吸した私は 
『私の気持ちは もう 決まっていると言いましたでしょう。何も 変わりません。私は 貴方の妻になり 新しい生命(いのち) を 育てるのです。』

『寂光の愛・・・生命』 最終章_a0021871_18395890.jpg



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あとがき:

始めての 長編を 拙い構成と文章ではありましたが 
何とか 最後まで 書き上げる事が出来ました。
応援してくださった方に 感謝いたします。

                                  anjo    
by deracine_anjo | 2005-03-30 18:52 | 『寂光の愛・・・生命』 小説