『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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『寂光の愛・・・生命』  (11)

毎日 平凡な生活の中に埋もれていると 1ヶ月という時間は ある意味で 単調で長く感じるものだが 正直 この1ヶ月は 本当に嵐の様に過ぎ去ったような気がする。
いつもの様に 仕事には出向き いつもの様に 仕事に向かい 帰宅後は 引越しの手配から始まり 片付け。休日には 引越し先の掃除やチェック。そして 泥の様に疲れて 眠り 又 仕事に出かける。
何とか遣り繰りして 富山の実家にも 日帰りで報告にも出向いた。
粗方の説明に 父は言葉にこそ出さないけれど 多少の落胆・・・それは 『結婚』という 事ではない事と 安定した生活から 先の見えない生活に不安を感じる当たり前の感情だと想った。
母は 何よりも 私の身体を心配し 弟は・・・・(後の事は 俺に任せろ!)と 応援して 私を空港まで 送ってくれた。
別れる際に これ・・・と言って 白い封筒を渡された。
『お袋からだ。困った事があったら 直ぐに連絡してくるんだぜ、姉貴。妙な意地張るなよ。その方が よっぽど 俺達は 心配なんだからな。』
涙ぐみそうな私の頭を グイグイ。。。っと 撫でて 微笑む弟が 大きく見えた。
弟と私は 二卵性双生児なのだ。
『ありがと。今度帰ってくる時は 康孝の結婚式かな~~?』
『まだまだ・・勉強する事が多すぎて それど頃じゃないよ。姉貴と競争だな。あっ そろそろ時間だな。兎に角 身体に気をつけて 無理するなよ。チャンと 連絡もな!!』
シートに坐り、離陸するまでの間に 母からと言って渡された封筒を開けてみた。
その中には 通帳とカード・・・それに 手紙が一通 入っていた。
私は それ以上 その手紙も通帳も見る事が出来ず そのまま バックにそっと仕舞った。
隣の座席に坐った男性に気付かれぬ様に 声を殺して 泣き続けた。



東京に戻り 慌ただしい日々の中 等々 退社の日を迎えた。
これは 恒例の様な物だから 今迄に 何度も経験し 私は 送り出す方だった。
けれど 今回は 私が 送り出される。
私は 出来るだけ 華やかに 部署の皆さんにお礼を告げ 無事 退社した。涙は 無かった。
私の心には もう 新しい道への思いで 一杯だった。
会社を後にした私を迎えてくれた空は 何処までも碧く 私の門出を 祝福してくれているようだった。
その時 携帯がなった。
何気なく出た私の耳に 長谷部常務の声が聴こえた。
『とうとう この日が来たんだね。今夜は 時間があるだろうか?』
『長い間 お世話になり 本当にありがとうございました。折角のお誘いですが 今日はこれから帰宅して 明日の引越しの準備など まだ 沢山 遣らなければ成らない事が ありますので 申し訳ありませんが・・・』
『そうか・・・残念だな。しかし 引越しとは?』
『はい。心機一転です。』
『そうか・・・では 又の機会に 楽しみにしておくよ。身体に気をつけて 頑張るんだよ。』
『はい。ありがとうございます。では 失礼いたします。』
思いの他 すんなりと 引いてくれた事に 少々 拍子抜けした感はあったが 今は それど頃ではない。
踵を返して 自宅に向かう駅へと足早に向かった。



翌日の引越しの日も 門出を祝福してくれる様な 晴天だった。
朝まで掛かって 片付けをしていた私は 眩しいまでの朝日を見つめ 心の中でそっと呟いていた。
『速水美樹。おめでとう。これからも 宜しくね!!』
晴れやかな 気持ちだった。不安が無い訳ではない。不安だらけだ。
けれど・・・私は 負けない。あの日 母から渡された一通の手紙を 胸に 私は 呟いていた。

『寂光の愛・・・生命』  (11)_a0021871_8161535.jpg

by deracine_anjo | 2005-03-15 08:17 | 『寂光の愛・・・生命』 小説