『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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『紅涙』 短編小説 『第一章』

辻井恭介 35歳 妻 恵美 30歳 子供は 長男恭哉 長女愛美 の 4人家族。
青山に輸入雑貨家具店を構えて 早いもので10年になる。
今程 『アジアン・テイスト』に脚光が浴びる前だったが それなりに乗り越え 漸く本当の意味で仕事が面白くなっていた時だった。
子供もそろそろ大きく成ってきた事だし 一軒家を建てる時期かなと思っていた矢先 兄の洋輔から一本の電話が入った事によって思いがけない渦の中に 巻き込まれる事になろう等とは その時は 思いもしなかった。



『ありがとうございます。リファインでございます。』
電話に出ようとした女子店員を手で制して 俺が出たのも今にしてみれば 運命の始まりだったのかもしれない。
『おお 恭介か?俺だ 洋輔だ。』
『何だ 兄貴なのか。悪い電話を切り替えるから 待っていてくれ。』
置くの社長室兼事務所に電話を切り替え 側にいた山下さんに 
『長引くかも知れないので宜しくね。』・・・・そう 告げて 俺は 奥へと引っ込んだ。
正直 兄とは余り仲のいい兄弟ではない。
兄は 父の跡を継いだ形で 銀行員になり 自慢の息子だった。
俺はと言うと 大学時代から 世界各国を バックパッカーの様に放浪して それでも 何とか大学だけは卒業したと言う 放蕩息子のレッテルを家族から 貼られた息子だ。
父は亡くなるまで 俺の仕事を 認めてはくれなかった。
もう 今となっては どうでもいいことだが・・・・。
そして 今は父の残した家を改築して 家族と母と暮らしている。



『もしもし・・・待たせて 悪かったな。今日は どうしたんだい?』
努めて明るく話し掛けようとするが どうも 上手く行かない。
客商売をしている癖に 情けないな!)などと想いながら 相手の言葉を待った。
『ちょっと 話しがあるんだ。今日時間あるか?』
『分かった。スケジュールを見てみるから 待ってくれ。・・・ああ 今夜なら大丈夫だ。』
『じゃあ 新宿のリオンで 8時・・・で大丈夫か?』
『出来たら9時の方が 助かるんだけどな。一応 店が8時までだから・・・・』
『分かった。じゃあ 9時に。』
そのまま電話を切ろうとする兄に慌てて
『何か困った問題でも 起きたのか?お袋の身体の調子が悪いとか・・・・』
『兎に角逢ってから 話す。じゃあな。』
幾つになっても 相変わらずだ。
後味の悪さに 俺は 煙草に火をつけて 溜息を付いた。




言葉では言い表せない 荒涼とした想いが 胸の中一杯に 広がった。


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             『紅涙』  短編小説 『第一章』 

            
by deracine_anjo | 2005-01-30 17:08 | 『紅涙』 短編小説