『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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『風を感じて』 短編小説 (9) 『誤算』

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帰りのインターチェンジで休憩を摂った私達は 燃える様な夕焼けを 黙って見つめていた。今日一日の事が走馬灯の様に私の心を駆け巡り 夕焼けが滲んで見えた。
帰りも優香が運転していた。
行きに比べると 数段の安定感を取り戻していた。その事だけでも 私は充分嬉しかったし
『希望』という文字が 心を一杯にした。
私達は 心地よい風に吹かれながら いつまでも夕焼けを眺めていた。



今回のたった一回の外出で テレビドラマでもあるまいし 画期的な変化が優香に現れる等とは 私は始めから思ってはいなかった。
唯 自分の好きな場所に 自分の足で立ち 好奇と同情の入り混じった他人の視線に晒され
それでも 充分に私は優香の心に 小さな変化があったと思っている。
いつか 言葉も感情も 取り戻してくれる。
焦らずに ゆっくりと歩めばいい。
優香の心は『死んでなどいない』・・・私は それが分かっただけで 充分だった。



自宅まで優香に運転させても構わなかったが 少々疲れた様子だったので 交替して帰宅の途についた。
定期的に電話連絡を入れていたにも拘らず 父も早く帰宅していた様で 車を車庫に収めた途端 二人は玄関で待っていた。
『ただいま、パパ、ママ。とっても 楽しかったわ。はい これお土産ね。』
『お帰りなさい。大丈夫だったの?怪我なんかしなかった?』
『勿論この通り 皆元気に帰ってきました。ママ 心配性なんだから。
ミク 少し汚れちゃったから 先にお風呂に入れちゃうけど いいかしら?
それに お腹もぺこぺこ。』
『優香も着替えていらっしゃいよ。』
何の返事もなく 松葉杖で自室に向かう優香の姿を見て 父は一度に劇的な変化が見られるとは思ってはいなかった様子だが 母の落胆は心に痛かった。



食卓を囲んで 食事を始め様とした時に その事件は起こった。
キッチンで揚げ物をしていた母。
何気に優香が水を取りにキッチンに入った途端 
『キャーァ、ママ 危ない!!!パパ お姉ちゃん 早く来て!!』
椅子を倒す様にして キッチンに飛び込むと 優香はママに飛びつき倒れこみ 天麩羅鍋から火柱が立っていた。
父は慌てる事無く 側に置いてあった消火器で直ぐに火を消し止めた。
私は直ぐに ママと優香の側に駆け寄って
『怪我は?何があったの?ママ!!どうしたの??』
矢継ぎ早に質問するが 母はボンヤリとしたまま何も答えない。
そして 優香が・・・・



『私の所為だわ。私がママを苦しめた所為だわ。』
泣きじゃくりながら そう叫んでいた。



母は 軽度だが火傷をおい 救急車で運ばれ そのまま 入院する事になった。
母の心が 壊れてしまったのだった・・・・。


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           『風を感じて』 短編小説 (9) 『誤算』
by deracine_anjo | 2004-12-30 14:15 | 『風を感じて』 短編小説