『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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「風を感じて』 短編小説 (8) 『それぞれの願い』

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翌日は 気持ちのいい五月晴れだった。
久し振りのドライブに ミクは朝から大ハシャギ。
母は早朝から作ってくれた愛情たっぷりのお弁当と水筒を私に手渡しながらも 不安げに何度も何度も
『無茶はしないでね。チャンと定期的に 連絡してよ。』と繰り返していた。
出社を送らせて玄関で見送る父も又 言葉に出来ない思いを私に伝えていた。
私は にこやかに微笑み
『今迄だって そんなに心配しなかったのに・・・変よ、パパ、ママ。
お土産 楽しみにしててね。
じゃあ 行ってきま~~~す。』
私は 心地よいエンジン音を聞きながら 隣の優香に そっと
『久し振りのドライブ。楽しもうね。』
そう声を掛け 静かに発車した。
バックミラーに いつまでも 両親の姿が写っていた。



山中湖近くにあるその公園は 北海道程の大規模なモノではないが 
私達は気に行って 免許取立ての頃良く 互いの運転で通った想い出の場所だった。
サンルーフを全開にし 優香の好きなB’zの曲をBGMに 快適なドライブは続いた。
空は何処までも 青かった。
インターチェンジで トイレ休憩を取り おもむろに私は『賭け』に出た。
無謀な賭けだと 分かっていた。
一歩違えば 私達二人の問題では済まされない事は 百も承知していた。
昨夜一晩 考えに考えて それでも私は優香を信じる事に賭けてみたかった。
『優香 交替!!疲れたら 又 私が運転するから。』
突然 私に放り投げられた鍵を何とか受け止めた優香は 一瞬何を言われたのか分からない様子で 私を見つめた。
元々 私より 運転の好きな子だった。
ふらりと1人で ドライブをして帰ってきては 良く母に叱られたものだ。
けれど 片足になり バランス感覚も崩れているだろう優香に運転させるなど 幾らオートマチック車といえども 無謀以外の何ものでもない。
でも 私は『命』を預ける覚悟で このドライブを実行したのだった。
優香がもし 全てに悲観して そのまま谷底に 私とミクを道連れにダイブしても構わないと  私は 優香を見つめながら 心の中で 呟いていた。



運転席に身を沈めた優香は 久し振りの心地よい振動に 暫くの間 何かを感じている様だった。
私は黙ったまま ミクの頭を撫でながら その時を静かに待っていた。
ゆっくりと ギヤーを入れ サイドブレーキが解除された。
発進した車は 案の定 不安定な走行だった。
それでも 私は 怖くは無かった。
少しいい子ぶった言い方をすれば 『嬉しかった』
左斜線を危なっかしく走っていた車が 少しづつ 安定し始め 優香の感覚
が目覚めた様に少しづつ 加速されていった。
流れてゆく景色が 滲んで見えた。



料金所を過ぎた所で 静かに車を左に寄せ ハザードを出して私に振り向いた優香の瞳は 心なしか 輝きを取り戻したように私には思えた。
『お疲れ様。腕 鈍ってないね。それじゃあ 交替しよう。』
横を通り過ぎる車が 運転席から出てきた優香が松葉杖を突いて 助手席に移るのを 不躾な視線と驚きで 見つめながら過ぎていった。
けれど 私は 逆に 妙に 誇らしく思ったのを 今も覚えている。
優香は少し疲れたのか 公園に着くまで 瞳を閉じ眠っている様だった。
到着し車を駐車場に停め 私は小走りに管理人室らしき場所に走っていった。
『すみません。車椅子の人間と介助犬・・・・入園できますか?
ハーネスを忘れてしまったのですが・・・・キチンとした介助犬ですので 御迷惑はお掛けしませんが。』
自分でも呆れるほど スラスラと言葉が流れるようについて出た。
相手は一瞬 躊躇したが 私の態度に好感を持ってくれた様で 許可が下りた。
『いいでしょう。でも 今後はキチンとハーネスを何処に出掛けられるにしても 忘れないように。楽しんできてください。』
『ご無理を言って申し訳ありません。妹が喜びます。ありがとうございました。』



車に戻った私は 優香に
『えへっ。ミクは介助犬になったから 取り敢えず 車椅子に乗ってね。
中に入っちゃえば 松葉杖でも どちらでも構わないわ。
あ~~お腹空いちゃった!!!
早く ママのお弁当 食べましょ。』
いくら 今年は 暑い日が続いたとはいえ まだまだ 若いひまわり畑の中を 私達は 思い思いの心を抱いて 一歩一歩 歩き始めた。
無垢な心のミクを お供に・・・。



 
そして ホンの僅かだけれど・・・・・
私は 優香の心が 確かに動いてくれたと 信じる事が出来た。 

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         『風を感じて』 短編小説 (8) 『それぞれの願い』
by deracine_anjo | 2004-12-30 01:15 | 『風を感じて』 短編小説