『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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『風を感じて』 短編小説 (7) 『小さな賭け』

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定期検査が終わった後 数日間 私達はそれぞれに自分の心の中で 
色んな思いの中 葛藤を続けていた。
そんな中・・・次第に ボンヤリと過ごす事が多くなった母に対しての配慮が欠けていたのは事実であった。
優香は母の血を継いだんだ・・・と言わしめるくらい社交的だった母までも 
気が付くと閉じ篭もり 息を潜めているような生活だった。
何故 悪い事をしている訳でもない私達が こんな状況に追い込まれなければいけないのであろうか!!
腹立たしさに 不覚にも涙してしまう日もあった。
そして ある夜 優香が病院から出されている睡眠薬を飲み グッスリ眠った事を確認した私は 夜遅く帰宅した父の書斎に向かった。
退院後 私は俄か看護婦の様に 『薬』に関しては 注意をしていた。
それは・・・・・万が一にも優香が・・・という 杞憂が正直 あったからだ。



静かにノックをした。
『はい?美香かい?どうぞ・・・』
父は私がいつか 何かを言って来ることを予測していたかの様に 暖かく部屋に招きいれた。
小さな会社だが 取締役という立場の父と心を閉ざした優香と 家庭も不安定な状態のまま数ヶ月が過ぎていった状況下の中 父は正直疲れていた。
けれど 私を暖かく部屋に向かい入れ ソファーに深く腰を沈め 私の言葉を待っていた。
『パパ 私なりに考えた事を お話ししたいの。』
『うん?続けてくれて構わないよ。最後まで 美香の話を聞く事にするから。』
『ありがとう、パパ。
私なりに 病院から戻って色んな事を考えたわ。自然に任せた方がいいのかとか 担当医の先生が仰っていた様に 優香を病院に連れて行ったほうがいいのか・・・・毎日毎日 堂々巡りの様に 答えが見つからなかった。
でも 漸く 一つの結論を私なりに 出したの。
拒絶反応でも パニックを起すかもしれないけれど 私は優香を外に連れ出してみようと思うの。
好奇の目に晒される事も 百も承知。
それで 優香の心に何かが芽生える事が出来るかもしれない。
今迄みたいに 息を殺した様な生活を 変えてみたいの!!
それで 優香を傷付けてしまったとしたら 私 一生を賭けて償うわ。
勿論 その時は 専門家の力を借りる事も考えている。』
堪え様としても 溢れる涙が頬を伝ってゆく。
静かに 私の言葉に耳を傾けていた父の瞳からも 光るものが零れ落ちた。
『それは 大きな賭けだね。
優香の心を もっと頑なにしてしまう事も考えられる。
今以上に 傷付いてしまうかもしれない。でも パパも考えていたんだ。』
一呼吸おいて
『どんな事があっても パパが美香も優香も守る。だから 美香 頼んでいいかい?』



出掛ける前日 夕食の準備を手伝いながら 母にも私の考えを伝えた。
一瞬 母は顔色を変えたが何も言わず それから
『じゃあ ママは明日の弁当を用意するわね。ママは行けないけれど 大丈夫?』
苦しそうにそう呟いた。
『ありがとう、ママ。今回は優香と二人 優香の好きな『ひまわり』を 見てくるわ。
心配しないで。ちゃんと 連絡も入れるから。
お弁当楽しみにしてるわね。』
私は努めて明るく答え 優香に夕食が出来た事を知らせにキッチンを離れた。



その時の 母の苦渋に満ちた瞳の色に 気が付く事が出来なかった・・・・。



テーブルを囲んで食事をしながら 優香に明日の事をさりげなく切り出してみた。
『優香 明日 私とドライブしない?
この分だと お天気も良さそうだし・・・。
気分転換に私に付き合ってくれないかしら?ミクも連れて。
ママが 美味しいお弁当を作ってくれるって。二人で出掛けるなんて久し振りじゃない?
どうかしら・・・。』
相変わらず黙ったままの優香とは反対に 自分の名前が出た事でテーブルの下で寝ていたミクが 訳が分からないながらも喜んで 大きく尻尾を振り優香に甘えていた。
そのミクを撫でる優香に ひとすじの期待を込めた。



そして 心の中で私は
『どんな状況になっても 優香は私が守る・・・』と 心の中 呟いていた。





          『風を感じて』  短編小説 (7) 『小さな賭け』
by deracine_anjo | 2004-12-29 09:43 | 『風を感じて』 短編小説