『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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『風を感じて』 短編小説 (6) 『定期検査』

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もう 初夏を感じさせる様な晴れ渡った月曜日の朝。
一ヶ月検診の日 珍しく母も同行して 父の車で出かけた。
取り敢えずトランクの中には車椅子を積んでおいたが あの日以来 優香は余り使う事が無かった。
そして 何よりも優香にとっては久し振りの外出だった。
幾ら誘っても家から出る事を拒んで一度も退院以来 外出をしていなかったからだ。
しかし 車が自宅から出る瞬間に 私達は不躾な目に晒されているのを否応無しにそれぞれが感じていた。
そっと横に座る優香を見たが 何の感情も表情から うかがい知る事は出来なかった。
助手席に座る母の背中が 小さく見えた。



病院に到着して 優香は検査とリハビリセンターに向かい その間に私達は担当医に呼ばれた。
『今 お嬢さんの検査結果が上から降りてきました。
順調な回復です。それに 右足の筋力が随分付いていますね。
左足に関しても 問題はありません。この分でいくと そう遠くない時期に義足の検討に入りたいと思いますが。その後 お譲さんの状態は如何ですか?』
父は正確に今の優香の状態を伝えようと 言葉を選びながら一つ一つ報告した。
『自宅では 自分の事は自分でやろうとしていますので 殆んど車椅子を使わず松葉杖で生活しています。 それで 右足の筋力が付いているのだと思います。
しかし 自宅に戻ってからも一度も外出はおろか やはり言葉も発しない状態で 自室に閉じ篭もったきりで過ごしております。
心療内科に連れて行くことも考えは致しましたが まだもう少し待ってやりたい気がして そのままの状態です。』
『そうですか。その他に 何か変わったことはありませんか?』
『当然の事なのかもしれませんが あれだけ社交的だった娘は 誰とも会う事は勿論 連絡もしていないようです。今はメールという手段があるのですから 言葉を発する事が出来なくても連絡を取ることは出来る筈ですが それも していない様子です。』 
『私は心療内科医では在りませんので 正確な事は申し上げられませんが やはり閉ざしてしまった心のケアは 専門家に任せるというのが いい様な気が致しますが。
それに 今のお話ですとこれからの治療に関しても 拒絶反応を起す事も考えられます。
皆さんでもう一度 検討してみてください。
決して心療内科は 怖い所ではありませんから。』
そう優しく諭す様に私達に告げると 
『もう直ぐ リハビリセンターから戻ってこられると思いますので 待合室でお待ち下さい。
では 又 一ヵ月後にいらして下さい。』



私達は待合室で優香を待ちながら それぞれに自分の心と話している様だった。
アメリカでは 『カウセリング』等というものは 日常的な事だと言うこと位は知っている。けれど 父が言うように 優香に『心療内科に行かないか?』などと言う事で 一段と優香を追い詰めてはしないだろうか・・・・。
私自身だったら・・・・と考えてみるが 結局 堂々巡りで答えが出ない。
『遠藤さん・・・終わりましたよ。』
看護婦さんから声を掛けられるまで 互いに言葉もなく考え込んでいて 優香が戻ってきた事に誰も気が付かなかった。
『優香 お疲れ様。先生が凄く順調だって仰ってくれたわよ。良かったね。』
優香の車椅子に駆け寄り 明るく声を掛け 看護婦さんに頭を下げた。
『では お会計を済ませて 今日はこれで終わりですので。お大事に。』
優香と同年代だろう彼女は 軽やかな足取りで去っていった。
一瞬 胸を締め付けられる様だった。
『じゃあ パパは会計を済ませてくる。玄関で待っててくれ。』
そう言って立ち去る父の背中が 泣いている様に見えた。
『優香・・・折角だから 久し振りに外食でもして帰らない?私 お腹ぺこぺこ。ママもでしょ。』
ボンヤリとしていた母も慌てて 
『そうね。ママもお腹空いちゃった。優香そうしましょう。パパにうんとご馳走して貰いましょうよ。』



けれど・・・・
いつもの様に 無言のまま 優香は遠くを見つめていた。


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           『風を感じて』 短編小説 (6) 『定期検査』
by deracine_anjo | 2004-12-28 16:40 | 『風を感じて』 短編小説