『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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『風を感じて』 短編小説 (5) 『誤算』


数ヶ月前と何が変わったのか・・・それは 優香が事故にあい 左足の膝から下を失ったが・・・今にして思い返せば とても 重大な事ではあるが 命を失った訳でもなく 半身麻痺だとかいう 日常生活が全て一転してしまう事でもなかったと 思えるが・・・あの時は 正直 優香にどう接していいのか 家族全員が迷っていた。
私自身 ありとあらゆる書物を買い求め 『心のケア』だの『心理学』等を読み漁ったが 結局 優香が退院してくる直前に 全て捨てた。
付け焼刃で答えを探す事が 私の性格からは性に合わない事と『心の痛み』に関して まだ鈍感だったのだと想う。
人間というのは 『ジブンの痛み』に関しては 過敏だが 哀しいかな『人の痛み』に対しては鈍感に出来ている事を 改めて思い知らせられた。
『思いやり』と『同情』も そう言った意味では 紙一重だと今は 想う。



とはいえ・・・優香が退院してきた事によって 形だけは 『元の家族』に戻った。
出来るだけ 特別扱いは避けようというのが 父、母、私達の暗黙の了解で 今迄と変わりなく・・・というのが これ程までに 空々しいものになるとは想いもよらなかった。
変わらないのは ミクだけだった。
仕事を辞めた私は 出来るだけ優香の側に居ようと思っていたが それがかえって 優香の心を頑なにしたような気がする。




ある日の午後だった。
ミクの声に驚いた母と私は 慌てて優香の部屋に向かいノックもせず ドアを開けた。
其処には 車椅子から転げ落ちた優香の姿が目に飛び込み 床が濡れていた。
出来るだけ気をつけて声を掛けていたのだが 優香なりに自力で何とかしようとしていたのを私達が手を出す事で 優香の心を傷付けていたのだった。
優香を抱き起こした私が松葉杖を渡すと 優香はクローゼットから下着と着替えを自力で用意し バスルームへと向かった。
『大丈夫?』・・・・後姿にそう 声を掛けたい思いを我慢して 母と共に汚れた床の掃除を済ませた。
退院以来 優香は 自力でお風呂に入るようになっていた。
勿論 家族は息をひそめる様に 優香の行動を見つめていたが 今にして想えば やりきれなかっただろう。
その日以来 優香は松葉杖を使いながら 出来る事は 自分でやろうとしていた。
それを 私達は単純に 喜んでいた・・・。
しかし・・・・・。



それとは別に 私達は地元で生まれ 育ってきた環境から 思いもよらない試練を受ける事になった。
『世間』という壁だった。
地元で『美人姉妹』と言われ続けてきた私達を 世間がそっとしてくれる訳は無かった。
悪意に満ちている訳ではない。
唯 人間というのは 『興味本位』という 悪魔を心に飼っている。
暫くは親戚が引っ切り無しに訪問し 次はご近所の方々が お見舞いと称して 尋ねてくる毎日が続いた。
『優香ちゃん 退院したんだって。良かったわね~~。今日は 居ないの?』
『下半身麻痺になったりしなかっただけでも 幸せよ。』
『いつか いい人に 巡り会えるから 頑張ってって 伝えてね。』
部屋に居る優香に聴こえるのではないかと ハラハラしながら対応する母と私。
人の不幸は『蜜の味』・・・私は 腹立ち紛れに塩でも巻いてやろうかと思う生意気さがあったが 母は次第に疲れ果てていっていた。



父はそんな私達を見かねて 秘かに住居を探していた。
父の書斎に呼ばれた私は 思いもかけない言葉を聞く事になった。



『美香・・・・パパは 仕事でいつもママや美香達の側で 皆を守ってあげる事が出来ない。
でも 皆が色んな風にさらされて 疲れ切っているのは分かる。
この際 この家を売って 誰も知らない所にいかないか?
まだ ママには 話していないが 美香の意見をパパは聞きたいんだ。
どう思う?』
若気の至りだと言われるかもしれない・・・・けれど 私は この数ヶ月でめっきり白髪の増えた父を真っ直ぐ見つめ 微笑みながら 答えたのだった。



『パパ。私達は この家から お嫁に行くのよ。苦しまないで・・・大丈夫だから!!』




・・・・・今でも この決断を私は後悔していない。

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           『風を感じて』  短編小説 (5) 『誤算』



  
by deracine_anjo | 2004-12-28 04:45 | 『風を感じて』 短編小説