『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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『風を感じて』 短編小説 (2) 『微笑を忘れた天使』

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 優香が退院してくる迄に 我が家は知り会いの工務店に 家の改装を
 至急頼み 慌ただしい日々が流れていった。
 優香は長野の病院から ある程度安定した時点で私達が通える総合
 病院に転院していた。
 母は 毎日 改装の合間を縫って優香の側に付いていようとしていたが 
 少しづつ 哀しみと疲れに 押しつぶされそうになっていた。
 それは 優香の今回の事故に遭遇した事とは別に 家族の根本を今更
 ながらに 突きつけられた様な気がして 今となっては私にはならない。
 『母親の存在』・・・は 当然の安住の場所として育ち その母が 心を
 失いかけてるなど 考えも及ばない程 甘やかされて育ってきたのだと
 今更ながらに 思う。



 あの日の事故は 完全に相手の過失だった。
 アイスバーン状態の峠を下ってきた相手は 大きく膨らんで優香達の車
 に衝突した。
 それも 彼らは飲酒をいていた状態だった為 スピード感覚も 薄れてい
 たという 心のやり場のない事故だった。
 横転した優香の乗った車は 炎上し 相手の車も 辛うじて途中の崖で
 停まったけれども 同乗者の一人は 亡くなった。
 運転者は これから 法的な罰則を受けるだろう。
 優香のボーイフレンド・・正哉Kんは 全治2ヶ月・・・・肋骨と左手を骨折
 に火傷。
 そして・・・・優香は 左足を失った・・・・言葉と一緒に・・・・。



 身長168cm 綺麗にしまった身体に 人を振り返らせる容貌・・・
 取り立てて美人という訳でもないが 輝くような何かを持った優香が
 あの日以来 片足と『言葉』を失い 冷たいセルロイドの人形の様に
 微笑を忘れてしまった。
 担当の先生の話では 片足を失ったショックから一時的な『失語症』
 になったという説明だった。
 幾箇所かの火傷は 今後 『成形美容』という形で ホロー出来るが
 心のケアは 『心療内科』の門を尋ねるしかないと・・・到って事務的に
 突き放された。



 私は優香が退院してくる前に 会社に退職届けを提出した。
 『結婚退職?』・・・・等と はやし立てられたりしたが 所詮 いち事務員
 の私が 退職したところで 何が変わる訳でもない。
 代わりはいくらでもいる。
 けれど・・・・今の私の家族にとって 少なくとも私は 必要な筈。
 退職の事は 父に相談した。
 父は涙ぐみ 『頼むな・・・』・・・そう言って 私を抱きしめてくれた。
 それだけで 私が選んだ道は 間違いない・・・・と 思えた。 



 急遽作った 『バリアフリー』の家に 優香が戻る日が決まった。
 何回かに分けての 火傷の手術は順調に成功し 後は 時間が経てば 
 殆んど分からない状態に成るだろうと ドクターも太鼓判を押してくれたが 
 相変わらず 笑わない人形は・・・・・変わらなかった。



 そして・・・・・もう1人 壊れ始めた人形・・・・・
 『母』は 少しづつ 優香の病院に行く事を 拒み始めていた。
 責めるつもりなどない。
 煌くような娘を 誇らしく思っていた母が 心を閉ざした娘に対して
 戸惑い 迷い 嘆く余りに・・・・心を少しづつ 失い始めていた事に
 家族がもっと 早くに気が付いてあげさえすれば・・・・
 と 思うばかりである。



 全ては 始まったばかり・・・・



     微笑む事を忘れた天使達・・・・に    幸あれ。




          『風を感じて』  短編小説 (2) 『微笑を忘れた天使』
 
 
 
by deracine_anjo | 2004-12-23 00:13 | 『風を感じて』 短編小説