『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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『微睡み(まどろみ)の中で』 短編小説 『告知』

『微睡み(まどろみ)の中で』 短編小説 『告知』_a0021871_12285012.jpg


長谷部 陽子は 自宅の お気に入りのソファーに 深く 身体を横たえ 
窓を伝う雨を 静かに見詰めていた。
もう彼此 こうして 数時間 経っているだろう。。。。
頬を流れた涙も 今は 乾き 少し ココロの 冷静さも 戻ってきていた。
引っ切り無しに 掛かる電話は 全て 留守電に切り替え 静寂の中。。。。。
今日 告知された現実と 向かい合っていた。
こんな時こそ 側にいて欲しい人間。。。。を ふと ココロの中 浮かべたが 誰一人浮かばない。。。
いや 浮かんでいても それは 『甘えにしかならない』と 打ち消していた。
『自分自身』 で 抱えなければ 成らないと。。。



長谷部 陽子  38歳 独身。
大学卒業後 大手商社勤務。 現在 100名余りの部下を持つ 女性管理職。
恋人は。。。。離婚調停中の妻帯者。
都心に近い郊外に マンションを購入 ネコと二人暮らし。
両親は 概に他界。
姉妹は 地方に嫁いだ妹がひとり。
今までは 怖いもの無しの 傍目から観れば 『順風満帆』の 人生。
けれど。。。。それは あくまでも 『他人』。。。。外野席からの 感想。
この時代 世の中 それ程 甘くはない。
けれど 『凛』とした 姿勢を 崩さずに 生きてきた陽子を 妬みも含めて 
『感情の無い女だ』 と 影で 囁かれた来た事も 知っている。
ココロを 許せる 友人の顔を 浮かべようとしても。。。。
正直 浮かばない。
ある意味で 『孤独』 との 戦いの日々でも あった。




そして。。。。今日 それは 残酷にも 『抗えない運命』によって 
余儀なく中断 しなければ成らなくなった。
雨を 見詰め 擦り寄ってきたネコの『リュウ』を 抱きしめながら 自分に言い聞かせた。
『残りの時間を 私は どうやって 生きよう。。。』
残された時間。。。。今日の最終検査結果の診断は
『1年から半年。。。全身に転移した癌細胞の 進行を 抑える手段は 余り期待は出来ないけれど 抗がん剤と放射線治療。』
(インフォームド・コンセント)。。。。患者が 自分の病気に関する医学的処置や治療に先立って それを承諾し選択に必要な情報を医師から受ける権利。
私に与えられた 情報は 余りにも 残酷なものであったが 受け止めなければならない。
そして 進まなければ 成らない。。。




差し当たっての問題から 一つ一つ 考えていかなければ。。。。
仕事の事 この家の事 病院。。。。
そして 彼との事。。。
いえ。。。。その前に もっと 肝心な事が ある。




そう。。。。私に 残された 時間を どう生きるか。。。。


         
          『微睡み(まどろみ)の中で』  短編小説  『告知』
by deracine_anjo | 2004-09-27 13:20 | 『微睡みの中で』  短編小説