『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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カテゴリ:『約束』  短編小説( 11 )

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『ポトリ。。。』 と小さな音を立てて 書類が 
ポストに吸い込まれていった。
(慶子。。。これで いいのね。)
ココロの中で そう呟き 暫く 人並みに圧されながら ポストの前に
私は 佇んでいた。



『美子様へ』

何から 書けばいいのか 何度も何度も書いては破り 破っては書き。。。
幾夜。。。こんな日を 続けた事かしら。。。
言葉と知識を使って日々戦い 書類を書くのが 私の仕事なのに
いざ 自分の事を 綴るとなると 中々 上手くいかないものね。


まず 『私の母』の事を 少し 書く事にするわ。


正直 長い間 私は (私を捨てた人)を 怨んでいた。
憎んでいたと言っても 過言ではないくらいだった。
記憶の中から(と言っても 何一つ 知らないのだから) 
私には そんな人は『いないもの!』だと 抹殺して 
考える回路を 遮断していた。
けれど 沢山の事件事故に遭遇し 多少なりとも 私自身が
大人になった時点で 『何故 私を 捨てたのだろう。。。』
それだけは 知りたくなったの。

そして。。。知った。
『私の母』は 私が 生きてる事を 知らないで 
これまで生きてきた事を。。。。
まるで ドラマ でしょう。。。
町の有力者だった親と医者が 結託して 当時 高校生だった娘には
『死産だった。』と 言い含め お金の力で
あの施設に 私を 預けていたの。
その後 お決まりのパターンで 大学を卒業し 花嫁修業。。。結婚。
相手の男は その町に居られなくなって その後 消息は 分からない。
『母』は夫に先立たれ 未亡人になったけれど
二人の子供と孫に恵まれ 幸せに暮らしている様子。
逢うつもりは 無いし その報告書と共に
長い間 私のデスクに 仕舞いこまれていた。


こんな所かしら。。。。


それから もう一つ 美子に言わなければいけない事がある。
もう 思い出したくも無い過去の出来事。


私は 逢って 仕舞ったの。。。。因果な 商売ね。
彼らは 結局 辿るべき道を辿り。。。今現在は
『懲役10年』。。。で 服役している。
私のなど 覚えては居なかったけれど
『国選弁護士』として 私が 担当したの。
まだ 暫くは 出て来れないだろうし 又 彼らは 
同じ道を 辿る事になると思う。
私の様な仕事をしていると 段々に 判って来るの。
『立ち直れる人間』 と 『立ち直る事を拒絶し 後戻りする事で
逃げる人間』 が いる事が 少しづつ。。。。ね。
彼らは 残念ながら 後者の方ね。
唯 己を傷付け 人生を捨てるのは勝手だけど
『人の人生』 を 踏みつけにして欲しくないとは 願うけれど。。。。



最期に。。。。

美子。。。。貴方には 言葉では 書き尽くせない位 感謝してる。
近い年齢で 同じ日に あの施設に 預けられ
姉妹の様に 過ごしてきたこの数十年間。
6畳一間の部屋を 二人で借り 貴方は事務員として働きながら
私を支えてくれた。。。
一日でも早く 貴方に恩返しをしたくて 在学中に 
『司法試験』に合格した時も 本当に 心から 私を祝ってくれた。
慣れない仕事に クタクタになって戻ってくる私を
暖かな食事と 微笑で いつも 迎えてくれた。
私は この仕事を目指した時から 独身で生きていく事を 
決めていたけれど
美子が 素晴らしい男性と巡り会い 結婚 出産。。。。
本当に 嬉しかった。
そして 『家庭』の仲間入りを 貴方達家族が 
いつも 当たり前の様に 自然に迎えいれてくれた事。。。
どれ程。。。私にとっての 『安息の場所』だった事か。。。。


結局 恩返しをしたくて 頑張ってきたけれど
最期の最期まで 守られていたのは 私だったね。


最後まで 私の我儘も聞いてくれて。。。。


我儘ついでに もう一つ 御願いがあるの。。。。
陽子ちゃん。。。。頭のいい子よ。
出来る事なら 私の後を継いで 『弁護士』 を 目指して欲しいと
伝えてくれないかしら。。。。
あの子なら きっと 『いい弁護士』に成れる!!
私が 保証するわ。
其の為に 必要なお金が掛かったら この通帳のお金を使って。
先行投資!!ョ。



もう 一通の封筒の中には 貴方の『お母様』の報告書が入ってる。
読むか 破り捨てるかは。。。。貴方自身で 決めて頂戴ね。
勝手な事して ごめんなさいね。




『ありごとう。。。。美子。
 いつまでも 貴方達家族を
 少し離れた場所からだけど 見守っているわ。

             本当に ありがとう。。。。美子。』


                              2004年1月1日

                                    安部 慶子 


      上田 美子様

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               『約束 短編小説 『最終章』 』 
by deracine_anjo | 2004-08-14 15:26 | 『約束』  短編小説
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親族でもない私が 困る事の無い様に
慶子は 全ての準備を 見事なまでに成し遂げて 私の元から
突然 姿を 消してしまった。。。。



辛うじて やって来た葬儀社の人間に
『薔薇100本とカサブランカの花』を用意して貰う事を 頼んだのが
私が出来た唯一の事だった。
慶子は この『ホスピス』に入院した時点で 洗礼を受け
小高い丘の上にある墓地に 埋葬された。
手入れの行き届いた 海の見える静かな場所だった。。。
『眠りの森の美女』 永久の眠りについた。。。 私を独り残し。



慶子が残した物を 全て 私の自宅に送る手配をし
お世話になった ドクターや看護婦さん ボランティアの方々に
お礼を告げ 坂道を下る時。。。
一瞬 『陽炎』 を見た様な 気がした。。。
そう。。。『陽炎の中 微笑む慶子の姿』を。。。。。
ハラハラと。。。。桜が。。。。散っていた。

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デパートで 四国名産物を適当に 買い求め
陽子が 学校から戻る前に。。。とタクシーを拾い
胸には 慶子から 預かった『ブリーフ・ケース』を抱え 急いで帰宅した。
幸いな事に 陽子は まだ 戻っていなかった。
何とか 『四国遍路』のお手伝いをして戻ってきた事を 装う為に
洗濯機を回し 喪服を タンスに納め。。。
引き出し奥深くに ブリーフ・ケースを仕舞った途端
『ただいま~~~ママ、帰ってるの??』
いつもと変わらぬ 無邪気な 陽子の声が 玄関で聴こえた。



夕食時 夫と慶子に 不自由をかけた事へのお詫びを言いながら
必死に 嘘を 付き続けていた。。。。
嘘を付く事で 私は 現実から 逃げられる様な気がしていた。
『慶子の死』を 認めないで済むような気がして。。。。
『大変だったね。お疲れさん。僕達は 結構 楽しんで過ごせたよ。な、陽子。』
『うん、ママ。パパの お料理 チョー美味しかったよ!!
ママ ウカウカ してられないよ~~~♪』
穏やかな 笑い 穏やかな会話。。。。
この輪の中に 居る事が 幸せだと感じながらも
私のココロは 目の前にある現実とは かけ離れた処に在った。



慶子が 最期に呟いた言葉。。。。

       『お母さん。。。ありがとう。』



『やだ ママ。何 泣いてるの?』
『えっ??家族って いいな~~~って 想っちゃったら 
急に 涙が 出てきちゃった。
(四国遍路)する方達。。って 色んな想いを 胸に秘めて
回られるんですもの。。。
陽子にも いつか 分かる日が 来るわ。
。。。。ね、パパ。』
『そうだね。。。家族があるから パパも 頑張れるんだものな!!』
『は~~~い。ごちそうさまでした~~~♪』
笑いながら 陽子は 自室へと向かい 私は改めて 夫に お礼を告げた。



             『約束 短編小説 (10) 『母恋詩』 』
by deracine_anjo | 2004-08-13 20:26 | 『約束』  短編小説
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 ひとつ 深い大きな息をした。。。。



 『慶子 慶子 駄目よ。まだ 駄目よ!!逝かないで。。。慶子!!』
 側にいた看護婦さんに促されて 一歩 後ろに 身を引いた。
 ドクターが 手順に従って行われる診察を 私は成す術も無く
 モノクロームの世界の出来事の様に ボンヤリと 眺めていた。。。。
 『5時17分。。。永眠されました。ご冥福を お祈りいたします。』
 牧師でもあるドクターは そっと 『十字』を切って
 頭を下げ 静かに 去っていった。。。。
 『ありがとうございました。』 辛うじて そう 告げるのが精一杯だった。



 『すみませんが 暫く 外で お待ち頂けますか?』
 一瞬 私は 看護婦さんから 何を言われたのか 分からず 
 呆けた様な顔をして 振り向いた。。。。
 『お体を 綺麗にして 差し上げますので。。。』
 辛うじて 何とか 彼女の言っている事が理解できた私は
 言われるままに ノロノロと 外へと 向かった。
 私は 何故 泣いていないのだろう。。。。
 まるで 『感情』が 凍り付いた様に 何も 感じない。
 まだ 慶子の『死』を 認めていない!!認めたくない!!
 私は ここで 何を しているのだろう。。。。
 慶子の側に 付いててあげなければ!!



 その時 静かに 病室のドアが 開いた。
 『どうぞ お入り下さい。』
 そう 促されて 病室に入った私は 一瞬 目眩を感じ 看護婦さんに
 支えられ 慶子の側に 一歩 一歩 近づいて行った。
 『不謹慎な言い方かもしれませんが まだ いつもの様に
 眠っていらっしゃるだけの様ですね。
 仕事柄 多くの方との お別れを経験してきましたが
 慶子さんのような方は 初めてです。
 最期まで 『凛』としていながら お優しく 美しい方。。。。
 残念で なりません。。。。ご冥福を お祈りいたします。』
 最後は。。。涙声に なりながら そっと頭を下げ 
 病室から去っていった。
 

     『眠れる森の美女』。。。。

  誰かの 口づけで 目を覚ましてくれる。。。。。


 そう 思った瞬間。。。
 私の号泣が 病室の中で うねりとなって 心を 粉々にした。。。。



           『約束 短編小説 (9) 『グリム童話』 』
 
 
 
by deracine_anjo | 2004-08-12 15:48 | 『約束』  短編小説
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 『パパ 前 話した 『四国遍路』のお手伝い しても構わないかしら?』
 『え~~~ズル~~ィ、ママだけ 旅行に行くの?私は~~~?』
 無邪気にチャチャを入れる陽子に
 『アナタが行ったら お手伝いじゃなくて 足手まとい!!
 お遊び気分なんだから。』
 『ハハハ。。。ママの言うとおりだ。『お遍路』の意味も
 分かってないんだろう?』
 『パパまで ひど~~~ィ!じゃあ みっちやんちの別荘に 
 泊りがけで遊びに行くの 許してくれる?』
 (少しづつ こうやって 子供は 親の手から 離れてゆくのね。。。
 そう思いながら)
 『それは パパ に チャンと 説明して 所諾して貰いなさい。』
 『ママ 応援してね♪ パパ 駄目??』
 『分かった 分かった。。。それは 後で チャンと話しを聞くから。
 今は ママの話が 先だろ。』
 『ホントね。チャンと 話し 聞いてね。わ~~~ぁ 楽しみだなぁ~~♪』
 陽子のココロは もう 友人達との小旅行の事で一杯になったように 
 光り輝いていた。



 『で。。。それは いつからって言っていたっけ?
 ここの所 忙しくて ママの話し 上の空だったから。。。
 ごめん ごめん。』
 『明後日から 2泊3日なの。。。。始め パパに迷惑掛けるから 
 お断りしていたんだけど。。。。お手伝いする方に 欠員が出て 
 どうしても。。。。って 御願いされちゃったの。』
 『行かれる方が 年配の方ばかりだから 手伝いをする人間が少ないと 
 大変だろう。
 僕の事は 大丈夫だから お手伝いしておいで。。。。
 陽子も いいだろ。パパも 出来るだけ 早く帰ってくるから 
 一緒に 食事を作ろう。』
 『え~~~パパ。 お料理 出来るの~~~。ファミレスの方が 
 美味しそ~~~う。』
 『ハハハっ。。。。驚くな~~~これでも 学生時代は バイトで 
 コック見習いしてたんだよ。案外 ママより 美味いかもしれないぞ!!』
 『じゃあ 私も 今度 食べさせて頂こうっと。。。。』
 (夫の優しさと陽子の無邪気さに 心の中で そっと手を合わしながらも
 私は 慶子の事で 胸が張り裂けそうだった。
 昨日。。。ドクターから 
 『もう 余り 時間がありませんので 出来るだけ側に
 居てあげて下さい。』。。。。と言われた言葉が 
 私の心と身体を 粉々にしてしまいそうだった。)



 翌日 夫が出勤し 陽子が 学校に出掛けたのを見計らって
 洋服タンスから 『喪服』を出し 風呂敷に包んで 鞄の一番下に
 そっと しまった。。。。
 後は 『バス遍路』なのだから 軽装な洋服を用意すればいい。
 いつの間にか 幾筋もの涙が 私の頬を伝い 哀しみの渦に
 巻き込まれそうになっていた。。。。
 いったい 何時間 そうしていたんだろう。。。。
 10分間だったのかもしれない。。。
 ボンヤリと この 『家・家族・家庭』。。。というものを 見渡していた。
 私が生まれた時には 何一つ 無かったものが ここには ある。。。。
 『平凡』だけれど 確かな 現実の形として
 私は 手に入れたんだ。。。。
 『母親』。。。。一瞬 この言葉が 浮かんだ!



 『行かなくちゃ!!』
 心の声に 突き動かされたように 私は 我に返り
 慶子の元に行く為に。。。。。
 あのなだらかな坂道を 小走りに駆け上がっていた。。。。



    
            。。。。。。 『慶子』が 私を 待っている!!!



             
               『約束 短編小説 (8) 『四国遍路』 』
by deracine_anjo | 2004-08-11 14:13 | 『約束』  短編小説

突然 夕食の準備をしていた背後から
娘の陽子が お気楽モードで 声を掛けて来た。
『夏休み 慶子おばさんの所に 行きたいな~~~~♪』
さっきまで 慶子と一緒に過ごした時間を 思い出していた私は
危うく 包丁で 自分を傷付けてしまう所だった。
一呼吸 深く深呼吸をして 振り向き
『陽子。慶子は勉強の為に アメリカ留学したのよ!!
お遊びじゃないの。だから 今回は 我慢しなさい。
落ち着いたら きっと 誘ってくれるから。。。。ね。』
一瞬 不貞腐れた顔をしたが 根が 素直に育ってくれたお陰で、
『は~~~い。じゃあ 今回は 我慢しま~~す。でも ママからも 御願いしてね♪
お腹空いちゃったから。。。早く 呼んでね!』
そう言い残すと 自室にと 戻って行った。


私は 辛うじて 自分の身体を支え。。。。夕食の準備をする事に専念する事で
今日 慶子と話した会話。。。の事を 少しの間
ココロの隅に 追いやろうと 努力をしたが。。。。
無駄な抵抗だと 自分の ココロ が 囁いていた。


『もう。。。。私には 遺された時間が ないの。
だから 美子。。。聞いて貰いたい事が あるの。。。』
苦しい息の中 慶子は 搾り出す様に 私に 最期の力を振り絞って
語り始めた。。。
『私は あの夏の夜以来 『勝ち組』に成る為に 精一杯 生きてきた。
貴女と一緒に 東京に出て 部屋を借り 学業とアルバイト。。。
貴女の協力と努力のお陰で 卒業前には 『司法試験』にも 合格し
念願の法律事務所にも 就職出来た。
私が 担当した事件事故は 大半が 『女性を守る為の仕事』だった。
何一つ 悔いは 無い。。。。
美子も 素敵な家族に恵まれて 偶に 私も その幸せのお裾分けを
して貰ってきた。。。
本当に ありがとう。。。』


苦しいのだろう。。。。
一気に ここまで 喋ると 大きな深呼吸を繰り返し 暫く 目を閉じた。。。
私は 身じろぎせず 唯 黙って 慶子の手を 握り締めて 待った。
ゆっくりと 瞳を 私に向け 微笑みながら
『御願いがあるの。。。これ以上 貴女を 困らせる様なら 断ってくれていいの。』
私も 微笑みながら
『ここまで 話して。。。。ズルイわョ!苦しいのなら 明日にする?』
子供が 嫌々をするように 首を振って
『ありがとう。今 話しておかなければ 時間がないの。
実は 私 見つけたの!!私を 『捨てたヒト』を。。。。
そして。。。。ごめんなさい。美子の 『ヒト』も。』
一瞬 何を言っているのか 私は混乱したが 慶子の弱弱しい。。。
けれど 強い意志が 繋いだ手から感じられた時
冷静さを 取り戻す事が 出来た。


『仕事柄 色んな 人脈があるの。それを使って 漸く 探し当てたの。
5年 掛かったけどね。ふふっ。。。
逢っては いない。遠くから 見た事もない。
手元にある 書類だけの関係。。。。
そのロッカーの 『ブリーフ・ケース』の中に 全ての書類が 入っている。
鍵は これ!』
そう言いながら 枕の下から 小さなキーホルダーに付いた鍵を 私に渡した。
『私が 死んだら その中にある 『山崎様』と書かれた書類を
送って欲しいの。
安心して。書類上見る限り 決して 不幸な生活を送ってる 『ヒト』 では ないから。
『怨み辛み』 も 書いてはいないから。』
優しげな 微笑み だった。。。。


『もう 一通は 美子 貴女の事。読むか 捨てるかは 美子が 決めて!!
でも 中に 貴女宛の 『手紙』 が 入っているから
それだけは 読んでね。』 
そう言い終わると 疲れたのだろう 
『私 少し 休むわ。美子も 今日は このまま 帰ってくれて構わないから。。。。』
もう一度 私の手を 握り締め 静かに 目を閉じた。


『陽子~~~ご飯の用意が出来たから 並べるの 手伝って頂戴!!
パパも もう直ぐ 帰ってくると思うから。。。。』
ワザとの様に 空元気を出して 陽子に声を掛けた。
『シッカリしなければ!!』。。。。ココロ に 何度も 言い聞かせながら。。。。


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             『約束 短編小説 (7) 『手紙』 』
by deracine_anjo | 2004-08-10 17:59 | 『約束』  短編小説
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 刻々と 残酷に 時間は 流れて行った。。。。
 先日は いつかは 聞かされるであろう 『ドクター』からの
 『宣告』を 聞かされたばかりである。
 ロビーで 一頻り泣き 洗面所で顔を洗って 病室に戻った私に
 慶子は 精一杯の想いを籠めて。。。
 『ごめんね。』 と 私を労わる様に 優しく微笑んで 目を閉じた。


 ここ1ヶ月程 私は 唯一出来た 隣の部屋の友人に
 協力を頼み 毎日の様に 慶子に逢いに来ていた。
 夫は 中堅会社の部長職に就いており 私が 働く事は嫌っていた。
 しかし 運良く 町内で 『ボランティア活動の話し』が 持ち上がり
 私は それを 利用する事にしたのである。
 夫も 子供の頃の病が元で 少し 左足を 引きずるハンディを 
 持っている為 この話しには 直ぐに 賛成してくれた。
 陽子の 受験までには まだ 一年ある事でもあるし。。。と。


 この新築のマンションに同じ日 引っ越してきたのが
 お隣の『長谷川家』だった。。。。
 男の子二人の母親にしては 物静かな 少し淋し気な感じのする 
 『秀美さん』さんとは 始めは 会えば 挨拶をする程度の
 お付き合いだった。
 しかし 弟の健太くんが 自転車と車の接触事故に
 私が 遭遇した事が切っ掛けで 急速に 仲良く 
 お付き合いする事になった行った。


 お付き合いを始めて 次第に 『淋しげな人』だと 
 第一印象を持った理由が 分かってきた。。。。
 私とは 違う形ではあったが 『家族』に恵まれなかった生活を
 結婚生活まで 耐えて生きてきた人であった。
 それ故に 私と同じ様に 今の『家族』を 本当に大事にし
 ご主人に感謝していた。。。。
 と言っても お互いに 『もう忘れてしまいたい過去』の話しは。。。。
 暗黙の了解の様に 深くは 互いに聞かず、
 私も 慶子以外で ココロを 許して 話しが出来る友人が出来た事が
 何よりも 嬉しかった。
 秀美さんも 同じだったようであった。


 そして 私は 始めて 夫にも陽子にも。。。。そして 秀美さんにも
 『嘘』を付く事になった。
 秀美さんには
 『親友が 入院して 独身だから 私しか頼る人間がいないの。
 夫に 正直に言えば良い事なんだけど。。。もう 子供が産めない手術を
 受けた事。。。やはり 知られたくは 無いと 思うの。
 だから あの『ボランティア』に参加するという形で 私は 
 暫く彼女に付き添ってあげたいの。。。。
 秀美さんも 時間が 空いた時は 遣っていると 
 もし 何かで 夫に聞かれたら 口裏を 合わせて下さらないかしら?
 絶対 ご迷惑は お掛けしないから。。。。』


 色んな思いをして生きてきた人だけに 感じる何かを
 秀美さんは 言葉には出さずに 感じてくれたようで
 にっこりと 微笑み
 『共犯者ね♪』。。。冗談めかしながら そっと 私の手を強く握って
 『そのお友達が 一日も早く 元気に成られる事。。。。祈っているわ。』
 そう。。。呟いた。
 お礼を行って 自宅のドアを開けた途端。。。
 溢れ出す涙に 声を殺して その場で 泣くだけ泣いた。。。
 秀美さんの優しさに 感謝しながら。。。



 この 『嘘』 が 神に 罰せられるのなら
 私は いくらでも 甘んじて その罰を 受けよう。。。。
 唯 私の家族と秀美さんの家族には 
 『手出しはさせない!!』


 神様は。。。

 『私の片羽根』 を もう直ぐ 奪い去ろうと しているのだから。。。。



                 
            『約束 短編小説 (6) 『嘘』 』
by deracine_anjo | 2004-08-09 13:19 | 『約束』  短編小説
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 そこは 人目に余りつく事のない 小さな教会の様な
 静かな佇まいの 『ホスピス』だった。
 細い山道を 少し下ると 真っ白な砂浜に出る。
 まだ 何とか動ける人達の 散歩コースになっている。
 一日中 お天気のいい日は 車椅子を押して貰い 砂浜に出て
 海の絵を 黙々と 書き続ける若者もいた。。。。


 慶子は あの日逢ってから 一ヵ月後に ここに入所した。
 それまでに 予定通り 
 『海外留学と言う形での依願退職』を 何とか 会社側に 納得させ
 購入していたマンションも 売却し
 『忽然』と 全ての人間関係の中から 姿を 消した。
 私以外を 除いて。。。。


 私自身 夫にも陽子にも 最後まで話す事をしないと決めていた為
 毎日 慶子を 見舞う事は出来なかったが
 慶子からは 一日に一度。。。電話連絡が入ってきていた。
 日によっては 言葉を紡ぐ事すら 辛そうな日もあれば
 『気分が良くて 今日は 海辺まで 散歩に出掛けてきたの。。。』
 そんな 他愛の無い 一日の報告を
 私は 今すぐにでも 側に駆けつけたい『ジレンマ』に苛まれながら
 受話機を痛いくらい 耳に押し付け話に 耳を 傾けていた。


 慶子が 体調の変化に気が付き 最新医療の検査を受け
 『余命 半年から1年』と 宣告されたのは
 私と逢う 一ヶ月前の事だった。
 そして 強靭な精神力と行動力で
 私に 話すまでに ある程度の 段取りを 決めていたのである。
 今となっては『幸か不幸か』。。。。係累がいないという私達のような
 人間には この世の中で 『人間が1人』いなくなる事など。。。
 ある意味で 簡単だと。。。改めて 分かった。
 。。。。そう。。。そうして 私達は 捨てられてのだから。


 
 あの日。。。。慶子は 
 私達の『約束』を 出来る事なら 果たして欲しい。。。と告げたのである
 それは。。。高校生の頃だった。
 当時 男子生徒の 『羨望の的の慶子』と『平凡な高校生の私』は
 町の夏祭りの帰りに 不良グループに絡まれ
 挙句の果てに  『レイプ』されたのである。
 『警察に。。。。』 そう言った慶子を 推し留めたのは 私だった。


 施設の方針で アルバイトで 収入を入れる事で
 高校まで 行かせて貰え 住まいも確保されている 今のこの環境。
 あと一年 我慢すれば 自由になれるというこの時期に
 この小さな町で 『レイプ』事件が起こった。
 相手は 町の 有力者の息子達。。。私達は。。。。。
 負けるに決まっている!!
 。。。。引き千切られた衣類を集めながら 黙って私の説得に
 耳を傾けていた 慶子が ポツリ。。。呟いた。
 『力の無いものは 踏みつけにされるのね。
 私は きっと (勝ってやる!!)。美子。。。。貴女もね。』


 私達は 暫くの間 互いを抱きしめ 涙が枯れるまで 泣いた。
 そして 誓い合ったのである。
 『この事は 生涯 互いの胸にだけ 収めておこう。そして 生涯 
 友として 付き合っていこう。。。。』と。
 そして 最後に 慶子が。。。。
 『もし 互いに 配偶者や家族が 出来なかった時には
 最期を 看取りあいたい。。。』と。


 そう。。。。あの時 慶子は 生涯 独身で生きる決意をしたのである。
 『勝ち組』として 生きる決意を。。。。
 私には それだけの 決意は出来てはいなかったが、
 どちらにせよ 『約束は誓う』。。。と
 改めて 互いを 懇親の力で 抱きしめた。



       『暑い夏の夜』 だった。。。。 



         『約束 短編小説 (5) 『夏の夜』  』
 
by deracine_anjo | 2004-08-08 05:48 | 『約束』  短編小説
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 帰宅を急ぐ人並みに押される様にして 駅へと向かう私の瞳からは
 止め処も無く 涙が流れ
 すれ違う人々は 『好奇心と無関心』 『憐憫と不快感』を
 あからさまに見せながら 通り過ぎて行った。
 電車に乗った頃には 少し落ち着きを戻し。。。
 それと同時に 私の中には
 『やり場のない 怒り』が ココロを 占領していた。
 信仰を持っている訳ではないが 
 始めて 『神を 怨んだ。』


 明かりの点いた家に入った途端、
 お腹を空かせた陽子が 玄関先まで来て
 『おかえりなさい。』よりも先に ブツブツと文句を言い始めたが
 私の様子に 子供なりに 何かを感じたんだろう。。。
 ピタリと 愚痴を 止めた。
 一呼吸をおいて 何も無かった様に
 慶子からの 手土産を見せると 安心したらしく
 相好を崩し。。。キッチンへと 鼻歌交じりに着いて来た。


 『流石 慶子おば様♪やる事が スマートよね~~~。』
 持ち帰った料理を見て 私自身 驚いた。
 慶子のココロが 痛いほど 伝わる 私達への 『愛情』 だった。。。
 涙を 陽子に 気付かれぬよう。。。
 『ママ お洋服 着替えてくるから 自分で用意して 食べてて。
 あっ、パパの分まで 食べちゃ 駄目よ!!』
 何とか 冗談めかしに 自室に入り
 ドアを閉めた途端
 口を押さえ 歯を食いしばり。。。。
 私は 全ての話が 『嘘であって欲しい!』と
 先程 怨んだ 『神』 に祈りつつ。。。。。泣いた。


 主人の声に 我に返り。。。。
 慌てて 普段着に着替え。。。『鏡』に写る顔を見て。。。。
 私の 『ココロ』 は 改めて 決まった。



 『お帰りなさ~~い。お疲れ様。』
 ワザとの様に 明るく 出迎えた私の ココロ を知るはずも無い夫は
 いつもの様に おっとりと微笑みながら。。。
 『ただいま。。。ママ 少し顔色 悪いけど 大丈夫かい?
 慶子さんは 相変わらず 仕事に私生活に。。。。大活躍で
 変わりなかった?』
 『ええ。。。。ごめんなさい。話し込んじゃって 遅くなっちゃったけど、
 慶子が 気を遣って お土産を持たせてくれてるの。。。
 陽子は 先に 食べ始めちゃったけど パパも それで 構わない??』
 『いつも 慶子さんには 気を遣わせてばかりだね。
 今度は 我が家に 招待しようよ。』


 
 夫が着替えてる後姿に 感謝をしながら。。。。
 『二度と その時間は ありえない!!』と ココロの中で 呟きながら
 『ありがとう!!そうすれば パパも陽子 嬉しいものね♪』
 冗談めかしに そう答える 私の『声』とは 裏腹に



         ひとすじの 『涙』 が 『怒り』と共に 頬から 流れた。。。



             『約束 短編小説 (4) 『怒り』 』
by deracine_anjo | 2004-08-07 11:45 | 『約束』  短編小説
 
 慶子が 宿泊している部屋は 『スィートルーム』なんだろう。
 この部屋に 独り 不安な夜を過ごしたのかと思った瞬間
 不覚にも 涙ぐみそうに成ったが 後ろを向いていた慶子には
 見られずに 済んだ。
 振り向きざまに 私達は いつもの様に 互いの存在を確かめる様に
 しっかりと 抱き合っていた。
 これは 昔から 私達の儀式のようなもの。。。。
 しかし 私を抱きしめた力は 余りにも弱々しく 誤魔化せないほど
 痩せていた。。。。
 淋しそうに微笑んで 私から離れた瞬間 ドアフォンが鳴った。

 
 『ルームサービスをお持ちしました。』
 『はい。今 ドアを開けるわ。。。美子。。座って。』
 言われるままに 椅子に腰掛けながら ドアに向かう慶子の後姿に
 これから聴かされる話の内容は もう 察しが付いていた。
 後は 私が取り乱さずに 愛護まで慶子の話を 聴く事だけだ。


 運び込まれてきた料理に 驚いている私に 悪戯っぽく微笑みながら
 『偶には 少しくらい 贅沢をしても バチは当たらないわョ。
 ご主人と陽子ちゃんの分は テイクアウト出来る様に 頼んであるから
 遠慮しないで 食べてね。』
 俊腕のエリート管理職に就いているだけの気配りではなく
 私と私の家族を 自分の家族の様に思ってくれている慶子の想いが
 いつもながらに 嬉しかった。
 『ええ。。。遠慮しないで しっかり頂くわ。あら、これは?』
 『ふふっ。。。シャンパン♪ 偶には いいでしょ。。。これ位なら。』
 『まぁ。。。。でも 勿論 頂くわョ。』


 『何ヶ月振りかしら?』
 少し シャンパンに 口をつけただけで 
 グラスをテーブルに置いた慶子が
 私に気を使って ナイフとフォークを取り 一口 料理に口を運んで
 話し始めた。。。。
 私は 少し考えて。。。『今回は 3ヶ月振りかな~~~。』
 気を遣わせまいと 私も 料理に口をつけたが。。。。
 何も 味が しなかった。
 私達は それぞれの道を歩き始めてからも
 何十年と こうして 数ヶ月に一度は 慶子と逢っていた。
 時には 我が家に招待したりもして。。。。
 陽子は 事の他 『慶子お姉さん』と言って 慕っていた。
 人付き合いの苦手な夫ですら 慶子には 相好を崩して 饒舌になる。
 私は こんな日々が これからも続くと信じていた。
 願っていた。。。。
 しかし 『神様は 私達に 残酷な仕打ちをした。』

 

 『美子。。。嫌なら 正直に答えてね。無理強いは しないから。
 あの『約束』。。。。忘れてくれても 構わない。
 私にとって どんな答えを 美子が出したとしても 
 何も変わりはしないから。。。。。』
 真っ直ぐに見つめる慶子の瞳に キラリ。。。。と光る物が
 一瞬 見えた気がした。。。(涙 だったのだろうか。。。。)
 私は 精一杯 微笑んで
 『見損なわないでね、慶子。貴女は 私の家族よ!!』



      『開幕ベル』は。。。。逢った瞬間から 感じていた通り
               (別れの予感)。。。。と共に 
                       そして。。。。『幕』は 上がった。


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               『約束 短編小説 (3) 『開幕ベル』 』
 
by deracine_anjo | 2004-08-06 03:53 | 『約束』  短編小説
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結局 慶子と別れたのは 予定を大幅に過ぎた 夕暮れ時だった。


お互い 示し合わせた様に 10分前には ロビー着いて
久し振りの再開を 笑いながら 果たした。
(少し痩せた慶子が 気になったが)
相変わらず セミロングの髪を 緩やかにカールした面長の顔は
人を 思わず降り返らせるほど 綺麗だった。
それに引き換え 相変わらず 私は 地味な『主婦』そのもの。。。といった処だろう。


『行きましょう。。。』。。。と 微笑みながら (ウィンク) ひとつ。。。
相変わらずの慶子の仕草に 私まで 微笑まずにはいられなかったが
慶子が 進んだ先は エレベーターだった。
『レストランで ランチでは。。。。??』
(ココロの 何処かで こうなる事を 予想しなかった訳ではないが。。。。
やはり 慶子の身に 何かが起こったんだ。。。
その緊張感と脅えに 一瞬 戸惑いを感じた。)
『ごめん。。。ゆっくり 話したいから 部屋を取ってあるの。。。。
と言っても 昨日から 泊まっているんだけどね。
お食事は ルームサービスを 頼んであるから 安心して!!』
ぺロリ。。。と舌を出す癖も 昔のまま。。。。
そう思った瞬間 エレベーターのドアが 開いた。


カードキーが差し込まれ 慶子が宿泊した部屋のドアが開いた途端
慶子の愛用する香水の香りが 鼻腔を微かに霞めた。。。。
『奥様 どうぞ。。。。♪』
おどけてみせる慶子の影が 一段と 遠くに消え入りそうな
錯覚に 私は 正直 たじろいだ。
『では お言葉に 甘えさせて頂きます。』
そう答えながら 私は ココロの何処かで
(引き返した方が いい。)。。。という声を 聴いた。
しかし。。。。私は 一歩 前に 歩み出た。。。。


その時から 慶子と 私の 『約束』は
本当の意味で 始まった。。。。。


     
                 『約束 短編小説 (2) 『ホテル』 』
by deracine_anjo | 2004-08-05 03:48 | 『約束』  短編小説