『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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カテゴリ:『寂光の愛・・・生命』 小説( 30 )

一ヵ月後 互いの休みを合わせて 一路 伊豆に向かって車を走らせていた。
彼からは
『兎に角 逢って貰いたい人がいるんだ。』 としか 聞かされてなかった。
多少の不安はあったが 彼を信じると決めたのだから もう 何も迷う事も 悩む事も この瞬間には 必要なかった。
何が待ち受けているのか・・・確かめなければ成らない。
逃げる訳には いかないのだ。
例え それが どんな結果になろうとも・・・・。



着いた所は 『サナトリュウム』の様な 施設だった。
広大な敷地の中に 清潔な佇まいの建物が見え 木々と花で 周りは囲まれ 別世界の様な静寂さと穏やかさが溢れていた。
車を駐車場に停め 車から降りた彼は にこやかに そして慈愛深い微笑で 私を見つめ 
『ついてきてくれる?』 と 呟いた。
私も 彼の心に答える様に 大きく頷き 微笑返した。
『じゃあ 行くよ。』
彼はそっと 私の手を握り 建物へと向かった。
静かに自動扉が開き 受付らしいカウンターへと 向かう。
カウンターに居た女性が気付き
『日下部さん お久し振りですね。チョッと お待ち下さい。あっ、今のお時間だと 裏庭の方を お散歩されていますよ。』
『そうですか。それでは 探してみます。ありがとう。』
今一度 外に出て 彼の手を握りしめたまま 私は 何かに導かれる様に 彼と共に 裏庭に向かった。
穏やかな日差しの中 先程の女性が言っていた様に 何人かの方達が 静かにベンチに坐り 風や鳥達の声でも聴いているかの様に 過ごされていた。
『あそこに居ました・・・・。』
一瞬 心臓が早鐘の様に打つのが分かったが それを察した様に 彼が今一度 強く私の手を握り返してくれた事で 落ち着きを取り戻す事が出来た。
車椅子に乗った女性だった。側には 薄いピンクの上着を羽織った女性が立っている。
私達に気付き 会釈をして 傍らの女性に 何か囁いた様だが 反応がない様に見えた。
静かに私達は その女性の前に 立った。
そして・・・一目で その女性が 彼の母親であることが 分かった。
『お母さん。今日の気分は 如何ですか?今日は お天気もいいし 体調も少しはいいですか?
今日は 僕が将来 結婚したいと想っている女性に 一緒に来て貰いました。僕の一目惚れです。速水美樹さんと言います。』
『速水美樹です。始めまして。突然 押しかけてしまい申し訳ありませんでした。』
けれど・・・・・答えは 無かった。



彼が担当医と話をしている間 私は 園外の花達に見とれていた。
手入れの行き届いた花達。
振り返って見る建物も 贅沢な作りだ。
彼がキチンとした家庭で育ってきた人だと 思ったのは 間違いなかった。
三十分ほどして 彼は 私の元に戻ってきた。
『待たせてすまなかったね。話は車の中でする。もう一箇所 付き合ってもらいたい所が あるんだ。構わないかな?』
『ええ 私は 構いませんが もう いいのですか?お母様とのお時間は?』
『チョッと 部屋にも寄って来たから 大丈夫だよ。それより 美樹さんこそ 大丈夫?驚いたでしょう。さあ 車に乗って・・・・。』
彼の話では 元々 身体の弱いお母様だったのだが ある事が切っ掛けで 心まで 壊れてしまって 今は 自分の息子の事も 時々 思い出す位だと言う事だった。
今は 自分が幸せだった頃・・・子供の頃の時間や結婚当初の時間の中で 生きていらっしゃるらしい。
『着いたよ。』
其処は 先程の場所からそれ程 離れていないお寺さんだった。
先程と同じ様に 彼は私の手を握り 花と線香を買い求め 桶を持って 歩き始めた。
『足元に気をつけてね。』 私の歩調に合わせながら そっと言葉を 掛けてくれる。
ふと 彼が 立ち止った。
見つめた先に見えた文字は 『長谷部家乃墓』
一瞬 意識を失いそうになった私を 彼が受け止めてくれた。



帰りの道中 私は 只 黙って彼の話を 聞いていた。
そして 聴けば聞くほどに 私が 竜司さんとキチンと会話をした時 何処か 懐かしい想いを感じた事を思い出していた。
彼が 今迄 御両親の事を 一度も話した事が無い事も 羽田で私を迎えに来てくれた時 彼の心の痛みに 一瞬触れた様な気がしたのも・・・・全て 辻褄があう。
そして 常務が私を 不倫相手として 抱かなかった理由 何となく 分かる気がする。
『美樹さん 貴方を騙すつもりは無かった。けれど 真実を言えば 貴方が離れていく様で 怖かった。けれど・・・もう 全てを話して 貴方の気持ちを聞きたいと 思った。だから あの日 僕は 聞かなかった。』
静かに車を 路肩に停めて 彼は 覚悟を決めた様に 私を 見つめた。
『どんな答えでも 構わない。今 出来る事なら 聞かせて貰えないだろうか・・・無理を承知で聞いている。』



ひとつ 大きく 深呼吸した私は 
『私の気持ちは もう 決まっていると言いましたでしょう。何も 変わりません。私は 貴方の妻になり 新しい生命(いのち) を 育てるのです。』

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。。。。。。。。☆。。。。。。。。。。。☆。。。。。。。。☆。。。。。。。。。

あとがき:

始めての 長編を 拙い構成と文章ではありましたが 
何とか 最後まで 書き上げる事が出来ました。
応援してくださった方に 感謝いたします。

                                  anjo    
by deracine_anjo | 2005-03-30 18:52 | 『寂光の愛・・・生命』 小説
定刻通り上がった私は 上原さんにそっと 微笑んで 事務所を出た。
心とは 正直なモノで 次第に 足早に成る。
そして 案の定 彼の車も もう 待っていた。
私を見つけた彼は 運転席から出て いつもの 穏やかな眼差しで 私を見つめ 微笑んでいる。
もう 私自身に 迷いは ない。彼を見つめ 生きて行きたいと 想う。
『ごめんなさい。沢山 待ちました?』
『お巡りさんとの 攻防戦は 中々 楽しかったよ。さぁ・・・乗って。』
何もかも そして いつでも 彼は 私に負担を感じさせない様な言葉を掛けてくれる。
何故 この人は こうなんだろう・・・・。
『で・・・・お姫様。どちらに向かえば 宜しいのでしょうか?』
『あっ、ごめんなさい。中華とイタリアン どちらがいい?』
『イタリアンかな・・・道 案内 出来る?』
『大丈夫よ。直ぐ 近くだから。』
『平気なの?会社の人に 見つかったら マズくない?』
『竜司さん 困る?』
『僕は 嬉しいよ。美樹さんを独占している姿を 見て貰えるんだから。』
『ふふっ・・・おかしな言い方。じゃあ そのまま真っ直ぐに・・・』



彼は 直ぐにでも 昨日の話を詳しく聞きたがったが 私は 
『お食事は 楽しみましょう。』 と 先生の受け売りを呟いて 久し振りに逢えた彼との時間を 大切にしたかった。
彼の瞳・・・彼の微笑み・・・彼の仕草・・・全てが 今の私には かけがえの無いものに 思えた。
『どうしたの?美樹さん 全然 食べてないよ。それに 何時もとは 逆だ。』
『えっ?逆って?』
『いつも 僕は 貴方を見つめている。貴方の瞳、貴方の唇・・・貴方の心・・・は 見えないけれど 耳を澄ませてる。でも 今夜は 僕が 見られてる。』
『あっ!!ごめんなさい。食べ辛かった?』
『そうじゃない。嬉しいと言っているんです。貴方が 美樹さんが チャンと僕を見てくれる事が。』
私は胸が一杯で 言葉が 見つからないまま 真っ直ぐに 彼を見つめた。
『兎に角 美樹さん もう少し 食べてください。そして お嫌でなければ 汚い部屋ですが 僕の家に来ませんか?其処で 昨日の話を 聞かせては貰えませんか?』
私は 小さく頷き そのまま レシートを持って 立ち上がった。
『もう 食べられません。今夜は 私に奢らせてください。参りましょう。』
一瞬 彼は何かを言おうとしたが 思い返したように微笑み
『では 今回だけは 御馳走になります。』



彼の住まいは瀟洒なマンションだった。
汚い等と言っていたのも 丸っきりの嘘で 余分なモノは 何一つ無く シンプルだけど機能的でありながら 温かみのある家具でまとめられ 掃除も行き届いていた。
部屋に案内された途端 私は思わず
『竜司さん 何処が 汚いの?私の部屋の方が 雑然としてる。』
『普段は疲れて帰って眠るだけですから 酷い有様ですが 今日は 夕方まで用事が無かったので 久し振りに掃除をしたんですョ。余りにも酷すぎて・・・少々 情けなくなって。』
気が付くと 彼の腕の中に 私は 抱きしめられていた。
『僕は 貴方からの答えをまだ 聞いていません。でも 僕自身も 貴方に聞いて貰い その目で確かめて貰った上で 答えを聞きたいと想う様になりました。でも 僕は 貴方を誰にも渡したくない。何度でも 何度でも言います。僕は 美樹さん 貴方を 愛しています。僕は まだ 未熟です。でも きっと 貴方のご両親の様に 貴方を支えられる男に 成ってみせます。
信じて欲しい。』



あの夜の哀しみの中での一夜ではなく 女として 愛されている実感を 何度も何度も 彼の腕の中で 味わい続けた。
限りなく優しい愛撫・・・私の全てを知っているかの様に 焦らす様に続けられる。 
耳元で囁く声 痩せて見えるが 引き締まった身体・・・看護した動物に傷付けられた傷・・・全てが 愛しく 私も 彼の身体に そっと触れ 唇を這わす。



今は この瞬間だけが 私達の全てだった・・・・。

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by deracine_anjo | 2005-03-30 16:47 | 『寂光の愛・・・生命』 小説
帰宅した途端に 電話が鳴った。
靴を脱ぐのも もどかしく 慌てて受話器を手にした時に 思い切りサイドボードに足をぶつけた。
思わず電話機を握り締めたまま 『痛い!!』 と 叫んで仕舞ってから 慌てて 
『速水ですが・・・』 痛みを堪え 答えると 受話器の向こうから
『美樹さん どうしたんですか?竜司です。何が あったんですか?』
『ごめんなさい。何でもないの。そそっかしいから 受話器を取る瞬間に サイドボードに足をぶつけてしまって・・・・大丈夫です。今晩は。』
『冷やさなくてもいいですか?このまま 待っていますよ。』
『ええ 大丈夫です。こんな事は 日常茶飯事ですから・・・。』
『それなら いいですけど 後で キチンと冷やすんですよ。
あっ、それはそうと 留守電聞きました。どうでしたか?先生とのお話しは?』
彼は どれだけ疲れていようとも こうやって 私の話を 真摯に受け止めて 答えてくれる。
それは 私の記憶の何処かに ボンヤリと残っている何かにふと触れるが いつも 答えが見つからない。
『ええ 決して悪い話では 無かったのですが 余りに突然で 少し戸惑っているのが正直な気持ちです。只 先生に最後に言われた言葉 (貪欲に成りなさい。人生は一度きり。チャンスを その手で掴まないと 逃げてしまう。チャンスを生かすも殺すも それは 自分次第。)・・・重たい言葉でした。とても ありがたい言葉でしたが・・・。』
『素晴らしい先生に巡り会われましたね。その先生も そうして 御自身が その様にして 生きてこられたんだと 思いますよ。
そして 今 美樹さんを 羽ばたかせようとしている・・・僕には そんな気がします。美樹さん 明日 お食事をしながら その話を もっと 詳しく話してくれませんか?僕は 休みなので いつでも 時間の都合は付けられますから・・・。』
『はい・・・私も 逢ってお話しがしたい。此処暫く 竜司さんも私も忙しくて 逢えませんでしたものね。』
『毎日 こうして話していても やっぱり 美樹さんの顔を見ないと 僕は不安で仕方が無い。惚れた弱みですね。』
『又 お上手を・・・では 明日 6時半で 構いませんか?』
『では 事務所の近くまで馳せ参じますから。いいですか?』
『はい。楽しみにしてます。明日は 私が 美味しいお店にお連れしますね・・・と言っても 先生が 連れて行って 下さった所ですが。』
『楽しみにしてます。じゃあ お疲れでしょうから ゆっくり休んでください。今夜は もう 余り考えない事。それと 足を冷やす事。いいですね。』
『はい。先生。では おやすみなさい。』
『では 明日。おやすみなさい。』



翌日も 普段通りの一日だった。彼に会うということ意外は・・・・。
けれど 私は 自分の事ばかり 考えていたけれど あの日 彼に言われた言葉の返事をしていない事に 今更ながらに 気が付いた。
今夜 逢った時に 答えよう・・・私の気持ちは もう 決まっていた。
お昼休みに 上原さんから
『美樹ちゃん 普段は勿論 綺麗だけど 今日は一段と綺麗よ。何か いい事あったの?』
上原さんは もうご結婚されていて 私と同様に お弁当持参派なので 事務所では いつも 他愛ない話や仕事の悩み等を 聞いて貰っていた。
『いえ・・・別に これと言って・・・』
『もう 美樹ちゃん 素直だから 直ぐ分かっちゃうの。彼氏とデートなんでしょう。結婚考えてるの?あっ、ごめん。おばさん根性ね・・・この突っ込み・・・。』
『うふふ・・・上原さんには 入社当初から 沢山の事を教えて貰った上に 可愛がって頂いたから 嘘は付けないですね。ええ 今日は 久し振りに 逢えるんです。』
『美樹ちゃんを射止めた彼って どんな人なの?あ~~ぁ 芸能レポーターみたいね。』
『獣医なんです。知り合ったのは こちらで仕事を始めてからなんですけど・・・・』
『獣医さん。開業医なの?』
『いえ まだ 勉強が足りないと言って 先輩の病院を手伝ってます。』
『と言うことは・・・年下?いいなぁ~~~。前途有望な獣医さん。あ、駄目だ。完全に オバサン化してる 私。』
『そんな事 無いですよ。上原さん 私の憧れですもの。家庭も仕事もキチンと両立して まして お子さんがいらっしゃるなんて 思えませんもの。』
『お世辞でも嬉しい。美樹ちゃん ありがと。でも 実は 髪振り乱してるのよ、これで。子供は 何よりも可愛い。ダンナは 学生時代の同級生だから ある意味で この仕事に対して 理解はしてくれてる。あっ、彼は 只のサラリーマンになったけどね。でも 時々 子供が熱なんか出したりすると 後ろ髪引かれる様な思いで 出掛けて来るの。2世帯住宅だから 母に頼んで出てくるんだけどね。家で仕事を請け負う・・・って 考えたことも有るけれど 気が付くと ゴチャゴチャになりそうで こうして 外に出て 自分で けじめを付けてるんだけどね。』
『そうなんですか?全然 そんな風に 見えませけど・・・』
『見せない様に していると言うのが 正しいかな?美樹ちゃんも これから その彼と色んな事があると 思うけど・・・って 脅かしてる訳じゃないのよ・・・相手とどれだけ 色んな困難にぶつかっても 互いに助け合っていける・・・『人』という字は そうでしょ。彼が そんな人であって 欲しいな~~。結婚式には 呼んでね。ふふっ。』



何気ない 上原さんの言葉が 何故か とても 大切な宝物に 思えた。

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by deracine_anjo | 2005-03-30 15:07 | 『寂光の愛・・・生命』 小説
富山から戻り 私は 新たな気持ちで 仕事に没頭した。
それは 自分の力を過信しているのでは無く ある意味で 原点に戻れた様な気持ちからだった。
あるのは 私には 多くの人達の支えがあると言う自信だった。
そして 御迷惑をお掛けした先生やスタッフの皆さんに キチンとした形で恩返しが出来るのは 仕事以外には無い。
何処かで吹っ切れた形で 私の仕事は 想ったより順調に進み 何とか 遅れも取り戻し 尚且つ 一段とこの仕事が 面白く成ってきていた。
父達が 丹精籠めて酒造りをする事に 何処か似ているとさえ 思える様な 日々を送っていた。
物を作り上げるというのは こういう事なのだと 思う。
自分自身で 何処か妥協したら その妥協は 確実に形として出てくる。
それを 例え人が 『面白い』 と 賞賛してくれたとしても 自分自身の中に 澱となって残る。
反対に 自分自身がどれだけ満足していようが 商品価値として認められなければ それは 単なる自己満足の世界。
どこで 折り合いを付けるかが ある意味で 物を作るという事において 重要な部分だった。
けれど それでも 面白さと挫折の狭間の中 暗中模索とはいえ 充実した日々を送ることが出来た。
季節は廻り あっという間に 新しい季節を迎えていたある日 浦賀先生から お声が掛かった。
『久し振りに 私の車で ドライブはどう?何か 予定は?』
『いえ 取り立てて ありません。あのオープンに 乗せていただけるんですか?』
『美樹さん よっぽど 気に入ったみたいね。じゃあ 用意してくるから 待ってて。』
『はい、わかりました。』
携帯で 竜司さんに電話を入れるが 繋がらない。
仕方なく 伝言だけ入れ 窓際でボンヤリ外の景色を見ていると
『お待たせ。行きましょう。』
相変わらず歯切れのいい 先生の言葉に背中を押される様に 地下駐車場の先生の車の前に立っていた。
『美樹さん。免許は?』
『ありますが・・・』
『運転してみる?最近 してない?』
『いえ 一応 小さな車は 所有していますが とんでもありません。』
『じゃあ 大丈夫。少しは 冒険心 持ちなさい。はい これ キー♪』
放り投げられた鍵を 辛うじて受け止めたまま 唖然としている私を尻目に
『早く ドアを開けて下さらない?』
ドキドキと心臓は早鐘の様に打ち続けているが 兎に角 運転席に坐った。
『取り立てて 注意する所はないわ。只 軽よりは 加速が違うだけかしら・・・始めは アクセルとブレーキの感覚を 身体で覚える為に ゆっくりで構わないから。』
心臓の高鳴りが収まった途端 不思議に私は 楽しくなっていた。
側で微笑んでいらっしゃる先生も 
『美樹さんなら 大丈夫。』と 歌う様に 呟く。
鍵を回した途端 身体の奥深くに響くエンジン音。
サイドブレーキを ゆっくりと下ろし それでも慎重に 駐車場を出る。
そして・・・・少しづつ 身体に刻まれる車の特性。
『美樹さん 思った通り 貴方は 感がいいわ。あっ、あのお店に 入ってくれる。』



『美樹さん 好き嫌いは 余り無いって 言ってたわよね。中華で食べられない物は ある?』
『いえ・・・・大丈夫です。』
まだ 興奮醒めやまない私は 自分で 何を答えているのか 良く分かってはいないまま 答えていた。
『じゃあ 適当に注文していいかしら?今 貴方に聞いても 無理そうだから・・・』
『あっ、すみません。まだ ドキドキしてて・・・・』
『気にしないでいいの。私が 悪戯心 出したんだから。でも 充分 素質ありよ!!』
先生は 店員に適当に 注文をした後 少し真面目に
『じゃあ 少し落ち着いた所で 食事が来る前に 肝心な話しだけ 済ませましょうね。それから 楽しいお食事。いいかしら?』
『はい。もう大丈夫です。』
『そう じゃあ 美樹さん 3年間 うちのスタッフとして頑張ってくれて 
どうも ありがとう。実の所は 3年を 少し 過ぎちゃったんだけど ごめんなさいね。何かと忙しくて。』
『えっ?もう 私 お世話になって 3年が経つのですか?皆さんに ご迷惑を掛けずに 一日でも早く 仕事としてキチンとした物を 作りたい・・・・そう思って 過ごして来たのは 正直な気持ちです。でも そんなに 生半可なものではないと 何度も何度も 落ち込みました。でも 上手く言えませんが 出来上がった時の嬉しさに 又 頑張ってみよう・・・そう思って日々暮らしてきましたので 3年の月日が・・・・もう 過ぎたなんて・・・。』
『美樹さんらしいわね。でも 私が見込んだだけの事は あったわよ。
貴方のお陰で 私の感性も刺激されて その評価も 歴然と出てきた。
だから 正直 手離すのは痛手。でも 女に二言は無い。約束通り 貴方がこれから先 この世界で生きていける道を 私なりに 用意するから 今しばらく 我慢してくれる?絶対に 騙したりしないから・・・信じてくれるかしら?それと 今度は 『速水美樹』 個人として 我が社とも 契約して欲しいと思っているの。』
『そんな 大それた事は・・・まだ 何も恩返しも・・・』
『美樹さん 貴方 もう 30よね。綺麗事じゃなくて 貪欲におなりなさい。人生は 一度きり。チャンスは その手で 掴まないと 逃げてしまう。
そして 私に出来る事は 貴方にチャンスを与える事まで。
そのチャンスを 生かすも殺すも それは 貴方次第!!分かって貰えた?』
ドアがノックされ 食事が運ばれた瞬間に 先生の口調は 今迄とは 別人の様に穏やかになり
『さぁ・・・難しい話は 此処まで!!食事は 美味しく頂かないと 損よ。頂ききましょう。』



先生の言葉が ズッシリと心に 楔を打ち込まれた様だったが 努めて明るく 食事を楽しもうとした。
余り 器用では なかったけれど・・・・。

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by deracine_anjo | 2005-03-30 06:56 | 『寂光の愛・・・生命』 小説
到着ロビーは もう そろそろ 人影も少なくなる時間。
けれど 私には 直ぐに彼を見付ける事が出来た。
そして 彼も同様に 一直線に 私に向かって 駆け出してくる。
眩しい程の微笑で・・・・。
そして 次の瞬間 私達は もう何年も 逢って居なかった様に 人目も憚らず 抱き合っていた。
『お帰り。いい顔してるね。皆さん お元気だったんだね。』
耳元で優しく呟く声。
『ええ。母も元気でした。こちらが ハラハラするほどに。』
『それは よかった。思い立って 帰ってよかったね。でも 疲れただろう。食事は?』
『私は お昼にたんまりと 母の手料理を食べさせられたので もう 充分だけれど 竜司さんはお腹が空いているのでは?』
そう言った瞬間 一瞬だが 彼の 心の痛みが 伝わった。気のせいかもしれないが・・・・。
『実の所 今日は オペが続いたから 倒れそうな程 空いてるんだ。少し 付き合ってくれるかな?』
大らかに 答える彼の言葉には もう あの感触は見当たらない。
『ええ。勿論 お付合いさせて頂きますわ。』
『じゃあ 行こう!!』
彼は私の手荷物を片手で持ち 左手で そっと 私の腰に手を添える様にして 歩き始めた。



食事中も笑いの絶えない時間だった。
弟の康孝も 気持ちの良い位に 食事を楽しみ 見事な食べっぷりだが 彼も又 この細い身体の何処に入って行くのだろうかと 想うほど 見ていて楽しくなる食欲。
けれど 育ちというものが こういう時に 案外出るものだ。彼は紛れも無く キチンとした家庭で育ってきた人なのだと想う。
けれど ふと 今更ながらに気が付くと 彼は余り 自分のご両親の事を 話さない。
空港で感じた 彼の痛み・・・・なのかと ボンヤリ考えていると
『どうしたの?疲れが出てきたかな?』
そう・・・・この 繊細さも もしかすると 其処に あるのかと想いつつも
『大丈夫。竜司さんの 食欲 弟の康孝より 凄いかも・・・と 想って。何処に 入るの?』
『ああ・・・昔から 痩せの大食いとは よく言われたな~~。でも 獣医はある意味で 肉体労働的な部分があるから。それに ほら・・・・』
そっと シャツの袖を捲って見せられた物は まだ 新しい傷。
『それって・・・・前 話してたみたいな事?』
『そう。人間だって あちこち 訳の分からない検査されたりすると 不安になるよね。まして 動物にとっては 恐怖以外の何ものでもない。
細心の注意はするし 時には 口輪もはめる。でも逆にその瞬間が 危なかったりする。僕が犬でも 噛むと想うよ。』
彼と逢い 彼と語り合えば 合うほどに 私は 彼に惹かれて行くのが分かる。
『さぁ・・・美樹さんと一緒に食事も出来たし 満腹にもなったし 送ります。行きましょう。』



自宅に戻った私は バスにお湯を張りながら 彼との別れ際のkissを 思い出していた。
そして 彼の言葉・・・・。
『僕はまだ まだ 獣医として半人前です。美樹さんも 今の仕事を大事にしている。だから 焦りはしません。けれど 僕の気持ちは 決まっています。あの日の言葉以上に 今は もっと 貴方を愛しています。
もっと 正直に言えば 僕が一人前に成る前に 誰かが さらって行ってしまうんじゃないかと心配しています。
美樹さんの気持ちは どうですか?今夜は 疲れているでしょうから 聞かずに帰ります。でも 今度 お逢いした時に 答えを聞かせて下さい。おやすみなさい。』 
『今日は迎えに来て下さって ありがとうございました。とても 嬉しかった。今考えると ロビーで抱き合った私達を 周りの方 唖然としてましたわね。国際線ならいざ知らず・・・。でも あれが 私の正直な 気持ちです。おやすみなさい。』
『待って下さい。』
彼は 私の全てを包み込む様な 優しさで 抱きしめ 真っ直ぐに
私を見つめ
『心から 愛しています。』
そして 甘い口付けを 交わした・・・・・。



微笑むように 月だけが 私達を 見つめていた。

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by deracine_anjo | 2005-03-29 13:12 | 『寂光の愛・・・生命』 小説
たった 一時間余りのフライトが これ程までに 心を切なくする等と 父が病に倒れ そして『身体の丈夫なだけが取り得よ。』と いつも 私達を安心させてくれていた母が 病に侵される迄 思いもしなかった。
どれだけ 両親に守られてきていた事か・・・今更ながらに 心が締め付けられる。
私が 東京で羽ばたいていられるのも・・・それよりも この世界に生を受け 時に迷い 時に愚かな失敗し それでも 唯一無二の慈愛で 私達を守って来てくれた両親。
隣に坐る母子も きっと 同じなのだろう。
優しく語り掛ける まだ 若い母親に 思わず 微笑が零れる。
そして・・・いつか 私も 母の様な人に 成りたい・・・と ふと 想った。



何時もの様に 康孝は微笑みながら 私に近づき 頭をクシャクシャ・・・と 撫でながら 
『姉貴は いつまで経っても 母さんっ子だからな~~。もう べそかいてるぞ!!』
『康孝に言われたくない!あんたこそ いつも お母さんの後ばかり 追い掛けていたんじゃないの。泣き虫だったし。』
『そんな事 あったかな~~。年取ると 物忘れ 酷くなるからな~~。』
『調子のいい事ばっかり言って。御免ね。私ばっかり 勝手して。』
『ああ・・・もう その話は 無し無し。俺は 生まれた時から いつか 親父の様に成りたいと思っていたんだから・・・。その前に ちょっと 違う世界も見れたし。』 
そう・・・・私には 康孝もいる。
そして 長年 父と共に 少しでも美味しいお酒をと 日々 子供を育てる様に育くみながら年勤め上げてくれている杜氏さんと 私を可愛がってくれる奥さん達。
私は 改めて 自分の幸せを胸一杯に 抱えていた。
『姉貴 何か いい事でも あったのか?今日は 一段と いい女に見えるぜ。』
『うん・・・色んな事が 幸せだな~~って 想って。お父さんたちの子供であった事も 康孝と一緒に生まれてきた事も・・・全部に 感謝してる。』
『何だか 気持ち悪いな~~。頭 打ったのか?』
『煩い!!あんたには デリカシーってモノが ないの?』
『姉貴にデリカシー 感じても 仕方ないしなぁ~~~』
こんな他愛の無い会話の中 見慣れた家が 見えてきた。



母は案の上 起き上がって 私の為に 私の好物を作って待っていてくれた。
母の姿を見た途端 私は 母の胸に飛び込んでいた。
『あらあら・・・美樹は 又 子供に戻っちゃったみたいね。ほら 母さんは 元気よ。心配掛けたわね。経過も順調。何も 心配要らないのよ。
康孝から 聞いているでしょ。何で 泣いたりするの。おかしな子だね。』
抱きしめた母は 少し 痩せて小さくなっていた。
けれど 顔を見た瞬間 元気そうで 一安心した途端に 不覚にも涙が零れた。
『動いて大丈夫なの?』
『美樹 頭 古いわね~~~。今の医学は 進歩しているのよ。母さん程度の手術だと3~4日で 状態によっては 管を抜いて 自分で おトイレに行くの。それは 長く寝ていると 筋力が衰えてしまうからなんですって。始めは 痛いけれど 自分の足で 歩けるのが こんなに嬉しいなんて 病気をして 始めて分かったのよ。だから 無理し無い程度に 自宅に帰っても 普段通りの生活に 少しづつ戻す事が 薬なの。
又 元気に働ける事が 嬉しいのよ。まだまだ 皆さんに 助けられながらだけどね。
そんな事より 今日は 杜氏さんや おかみさんさん達も 一緒に 食事をする事にしているんだから・・・・。これで 皆 揃って 全快祝い。』



あっという間の 楽しい数時間を過ごし 後ろ髪を引かれる様な私に 
母は キッパリと
『美樹。貴方には 今 遣らなければ 成らない事が ある筈でしょう。
気丈に見えて 美樹は弱い所があるから 職場の方々にも 御迷惑をお掛けしたんだろうと 想う。
もう 母さんは 大丈夫だから シッカリ 自分の人生を お歩きなさい。
ご迷惑掛けた この数ヶ月を キチンと仕事で お返しするのよ。
分かったわね。』
そっと 手に氏神様の御守りを私の手に握らせて 母は 微笑んだ。
私は 深く お辞儀をして 康孝の車に乗り込んだ。



羽田では 彼が待っている・・・・。


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by deracine_anjo | 2005-03-28 16:36 | 『寂光の愛・・・生命』 小説
彼の寝息を 確かめながら ベットからそっと抜け出し バスルームに向かった。
嗚咽を殺す様に シャワーを顔から浴びるが 涙は 止まらない。
何故 こんなに哀しいのだろう。
私は 長谷部常務を愛していた訳ではない。
只 あの穏やかさ 包み込むような面差し 私の他愛無い話を 大らかに笑って下さった姿が 目に焼きついて 離れない。
母の病気の話をした時には もう 既に 常務の身体を 病魔が蝕んでいたなど・・・知らなかった事とはいえ どんなお気持ちで 聞いておられたのかと思うと 胸が締め付けられる様だった。
バスローブを羽織り 足音を忍ばせて そっと窓辺に立ち 眼下の光りの虹を見つめていると 後ろから 優しく 抱きしめられた。
『まだ 泣いているのかい?何が哀しいのかは 今は聞かないでおくよ。
でも 僕は決して 君を泣かしたりはしない。大切に僕が 守る。
だから もう 泣かないで欲しい。』
耳元で そっと彼は囁きながら 私を振り向かせ 優しいキス重ねながら バスローブの紐を解き ゆっくりと 全身に 唇を這わせてゆく。
首筋 肩 乳房・・・そして 静かに跪き 少し細すぎる私の腰へと 唇は這ってゆく。
思わず 小さな溜息が 私の口から 漏れる。
彼は そのまま 私を ベットまで抱き上げ そっと 横たえさせる。
私は 彼に全てを任せたまま 今一度 甘い時間へと誘われていった。
一筋の涙と共に 何もかも 今は忘れて 彼の心も身体も受け入れ この時間の中だけで 生きていたいと 思いながら・・・・。



翌朝 一度自宅に戻って 洋服を着替えて出社する為に 午後からの出勤にして貰う様に 自宅に帰って 事務所に連絡を入れ 暫く ボンヤリと部屋の中で 座り込んでいた。
彼は 直接 病院に行くというので タクシーで帰ろうとすると 兎に角 近くまでは送ると言って引かない為 私は 根負けをして全てを 彼の望むままに任せた。
正直 疲れ果てていて 今は 議論をする元気も無かった。
車を降りる瞬間
『今夜 電話します。僕の気持ちは 変わらない。だから 逃げないで下さい。』
『ええ、分かりました。じゃあ 気をつけて。』
『美樹さんも 気をつけて・・・。愛しいます。心から・・・。』
小さく頷いて 地下鉄の階段を 私は降りて行った。
(今度の休日には 富山へ帰ろう。母に会いたい。)
午後から出勤した私の顔色を見て スタッフの皆が 一同に心配してくれ 申し訳なく思いながら デスクに向かって 仕事に取り掛かった。
不思議と心は 少しだけ 落ち着きを取り戻していた。
ふと 昨日の彼との一夜を思い出したり 長谷部常務の訃報を想い出しながらも もう 人前で取り乱す事は なかった。
午前中の遅れを取り戻す為に 多少の残業をして 帰宅すると 三件程 彼から電話が入っていた。
私は 時計を見ながら 実家に電話を入れた。
案の定 康孝が電話口に出た。
『あっ、私。もう 皆は 休んだ?』
『ああ・・・・姉貴か。今 帰ってきたのか?遅いんだな。身体 大丈夫か?親父達は もう 休んでる。何か あったのか?』
『ううん。来週 又 日帰りだけど 一度 帰ろうと思って。又 康孝 空港に迎えに来てくれる?』
『ああ、それは 構わないけど あんまり無理するなよ。こっちは 大丈夫なんだから。お袋も 元気だし 親父も チャッカリしたもんで 元気だぜ。
見てて こっちが アホらしくなるよ。』
実際 順調に母は回復に向かっているのだろう。
だから 無理をして迄 帰省しなくても大丈夫だと・・・私を気遣う康孝の気持ちが 手に取るように分かる。
『そう。よかった。じゃあ 余計 その熱々振りを 見に帰らなきゃあ。』
『うん、分かったよ。きっと お袋も喜ぶよ。で・・・・いつなんだ 帰れるのは。』
『今度は 平日の木曜日。朝一の 飛行機で帰るから 御願いね。』
『お迎えに 馳せ参じます、姉貴殿。』
『何 茶化してんの。じゃあ 悪いけど 宜しくね。遅い時間に 御面ね。おやすみ。』
電話を切ろうとした瞬間
『姉貴?何か あったんじゃ 無いだろうな?大丈夫か?』
『大丈夫よ。何も無いわよ。只・・・会いたいのよ。元気に成った姿。』
『分かった。じゃあ 木曜日。おやすみ。』



弟が 決して 感受性の強い人間だとは 思わない。
一緒に暮らしていた時など 良く 喧嘩もした。
それなのに 今の康孝は 一歩も2歩も私の前を歩いている様に 大人に成っていた。
そして 家族のありがたさを 今一度 私は心から 感謝した。
そして 始めて 長谷部常務のご冥福を祈った。感謝を籠めて・・・・。
その時 電話のベルが鳴った。
きっと 彼だろう・・・。



私は 静かに 受話器を取った。

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by deracine_anjo | 2005-03-27 03:55 | 『寂光の愛・・・生命』 小説
母は予定通りの日に 無事 退院した。
私が杞憂していた事も 昔から店で働いてくれている杜氏さん達の奥さん達が 交代で自宅の事や父母達の面倒を 見て下さっていると康孝から聞かされて ありがたいと思う反面 実の娘が何一つ 出来ない腹立たしさで 私は自分自身に苛立っていた。
尚且つ 母の状態も 順調な回復だと聞きながらも 私は 仕事で ミスを犯してしまう不安定な精神状態に陥ってしまった。
ミスは何とか 挽回出来たが 心が晴れないまま 久し振りに買い物でもして帰ろうと 銀座に足を向けた。
けれど 何を見ても 心が 晴れない。
ボンヤリと歩いていると 遠くから 私を呼ぶ声が聴こえた。
『速水先輩。お久し振りです。お元気でしたか~~~。』
同じ部署だった小野美智子だった。側には 彼氏らしい人が居るにも拘らず 駆け寄ってきて さも 嬉しそうに私の手を 握った。
『小野さん、お久し振りね。お元気そうで 何より。あちらにいらっしゃるのは・・・・彼氏でしょ。今夜は 彼氏に 何か おねだり?』
『あはっ、バレちゃいましたか?実は 今度 結婚退社するので 今日は 婚約指輪の下見なんです。』
『それは おめでとうございます。お式はいつ?』
『6月の花嫁に憧れていたんですけど~~結局 10月なんです。ここだけの話し 出来ちゃった結婚で・・・うふふっ。』
『あら 二重のおめでたね。幸せに成ってね。』
『ありがとうございます。あっ・・・先輩 長谷部常務 御存知でしたよね。
実は 亡くなられたんです。何度か入退院を繰り返して 手術も受けた様なんですけど・・・結局は 全身に癌が転移してしまったらしくて・・・・。』
『それは いつの事?』
『え~~~と・・・2,3ヶ月前だったかな?当時 もう 会社は 大騒ぎでしたよ。』 
『お~~い、美智子~~。』
『すみません、先輩。もう ダンナ気取りで 煩くて。それじゃあ 失礼します。』
小野さんの婚約者が痺れを切らして 彼女を呼んだ為に 詳しい事は それ以上聞く事は 出来ずに 彼女の姿を 呆然と見送った。



私は 携帯を暫く見つめていたが 登録した番号に電話を入れた。
数回のコールで 彼は出た。
『速水です。今晩は。今 お話ししても・・・・』
それ以上 言葉が 続かなかった。
『今 何処ですか?』
『銀座三越です。ごめんなさい。突然 お電話してしまって・・・・。』
『そんな事は どうでもいいです。嬉しいくらいです。今なら 車を飛ばせば 30分で行きます。それまで待てますか?』
『はい・・・。』
『では 待ってて下さい。何処かで お茶を飲んでても構わないですし・・・三越の前で電話を入れますから。それじゃあ。』
暫く 私は切れた電話の音を 聴いていた。
何故 私は 日下部竜司に電話をしたのだろう。
何を こんなに動揺しているのだろう・・・・もう 私には 思考能力が 無くなっていた。
通りすがる人達が 不審げに見て行くのを 感じる。
けれど 私は 流れる涙を止める事も その場から離れる事も出来ずに 只 携帯を強く 握り締めていた。



私は ホテルのラウンジで 日下部竜司と向きあっていた。
三越の前で 彼の姿を見た途端 私は 倒れこむ様に 彼の胸に崩れ落ちた。
一瞬 微かな コロンの香りがした。
そのまま 彼の車に乗せられ 連れてこられたのは 赤坂プリンスだった。
ラウンジに流れる 静かなJAZZ の調べの中 私は 少しづつ 落ち着きを取り戻していた。
『大丈夫ですか?』
静かで 穏やかな声が 長谷部常務の面影に 重なる。
目の前にあったカクテルを 一息に飲み干す私を見つめ 日下部竜司は 
『今夜は 貴方を 一人にする訳には いきません。非常識ですが 部屋を取りました。一晩中でも 貴方の話をお聞きします。どうしても 嫌なら 仕方がありません。お送りします。まだ 僕は 飲んでいませんから。』
『ふしだらな女だと 思わないで下さい。でも 今夜は・・・出来れば 一緒に居てください。』
もう 私には 言葉は 必要なかった。
あの日 偶然に再会してからも 幾度か逢った彼に対して 私は 確実に 好意を感じていた。
それ以上に 今夜 一人で 過ごしたくはなかった。
卑怯かもしれない。
感情に流される 愚かな行為かもしれない。
けれど・・・・私は 彼の胸に飛び込み 癒されたかった。



私は 彼の腕の中で 何度も絶頂感を感じながらも 泣いていた。
その涙を 唇で 優しく受け止めて 彼は 何度も耳元で 囁き続けた。
『美樹さん。貴方の事は 僕が 守るから・・・だから もう 泣かないで。安心して。』
その言葉が 明日になれば 泡沫の夢の如く消えても構わなかった。
私は 彼の胸に 飛び込んだことを 後悔はしない・・・・そう思いながら 
彼の愛撫に 深く 甘く沈んでいった。

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by deracine_anjo | 2005-03-26 01:40 | 『寂光の愛・・・生命』 小説
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日下部竜司との食事は 正直 思いもよらぬほど 楽しい時間だった。



『自己紹介を改めて させて頂きます。名前は日下部竜司。年齢26歳。独身。職業 獣医。まだ 技術も能力も足らないので 今は先輩の病院に勤務してます。よって 薄給取り。彼女は現在 おりません。家族は父親と母親と3人。一応 独立してます。何か 御質問は?』
『ご丁寧な 自己紹介 ありがとうございます。では 私も 言わなければなりませんね。名前は速水美樹。OLを退職して 今は デザイン事務所に勤務。もう直ぐ 3年になります。独身。年齢は 日下部さんより 少し 年上。家族は 両親に弟・・・と言っても 二卵性双生児で同じですが・・・・。他に 御質問は?』
お互いに 微笑みあった。
『では 不躾な質問をしてもいいですか?』
『答えられる範囲でしたら・・・』
『では 単刀直入にお伺いします。今現在 お付き合いなさっている方は?それに デザイン事務所というのは?』
『そうきましたか~~。仕事が楽しくて・・・と言えば 強がりになりますね。今現在 お付き合いしている方は 残念ながら おりません。デザイン事務所と言うのは 彫金教室で先生にお声を掛けて頂いて そちらの事務所に。』
『では デザインを・・・それで スケッチブックを・・・。僕は 絵心は とんと無い人間ですから 尊敬してしまいますね~~。もう お店に 速水さんがデザインした物が 並んでいるのでしょう。』
『趣味で始めた事が 仕事に成る等と 思いも寄らなかった事ですから 何の勉強もしておりませんでしたので 今が勉強中の毎日です。』
食事が運ばれてきて 話は一旦 中断したが それでも 久し振りに穏やかで 楽しい食事が出来た気がしていた。
考えてみると 母の病気を知ってから今日まで 張り詰めていた心が 久し振りに潤いを得た様な感覚を感じていたのだった。
それは ふと 長谷部常務の事をも 思い出させた。
そう言えば あの日以来 連絡がない。お元気なのだろうか・・・・。
お逢いした時 随分 お痩せに成っていたが・・・。
『どうかしたのですか?急に 黙りこんでしまって。又 僕が 失敬な事を 言ってしまいましたか?』
『あっ、ごめんなさい。何でもありません。只、こんなに 穏やかな気持ちで お食事をしたのは久し振りだな・・・なんて 思ったものですから・・・。』
『よかった。どうも 僕は 動物相手の生活で 女性に対してデリカシーに欠ける部分が 有るんじゃないだろうかと・・・内心 冷や冷やしているものですから。』
『でも 動物相手だと 逆に 本当の優しさなんかが 必要でしょう。』
『ええ・・・動物はデリケートです。だから 飼い主さん達の考え方や扱い方によって 凶暴に成ったり 神経質になったりします。中には いい加減な飼い主さんもいらっしゃいます。そうすると やはり 一言 苦言を吐いてしまって 怒らせる事も・・・』
『その様なものなのですか?』
『ええ・・・・極端な話しだと 余り大きくなると困るから 食事を減らせばいいか?等と 訳の分からない事を言って来られる方もいらっしゃいます。
そうすると 今 お世話に成っている先輩も 本当に動物を愛している方なので どちらかが先に キレますね。』
『まぁ・・・その様な事を・・・。』
『そんな事 言うのなら ぬいぐるみか あのアイボか何かを 手に入れればいいんだ!って・・・あっ、すいません。熱くなってしまって。』
『いえ・・・・お人柄が 良く分かって 充分 お話し楽しいですわ。只・・・お休みの度に あの公園に・・・と 仰ったのは・・・。』
『すみません。あれは 失言でした。気持ち悪いですよね。この名刺に書かれていますが 病院は 日曜祭日 は 休みではありません。一ヶ月に一度 交替で 休日に 休みを取れますが・・・。それが たまたま 今日だったのです。』
『そうだったのですか・・・・・一瞬 ドキッと致しましたので。』
『でも 正直 今日 もしかしたら 逢えるかな・・・と思って 公園に足を向けたのは 事実です。』



そして 彼は 言葉を続けた。
『もし 今 お付き合いしていらっしゃる方が 居ないのでしたら 僕とお付き合いして頂けませんか?』
予期せぬ告白だった。
by deracine_anjo | 2005-03-25 09:05 | 『寂光の愛・・・生命』 小説
東京に戻った私は 一週間の不在の穴埋めをする様に がむしゃらに 仕事に没頭した。
毎日の康孝からの連絡は 兎に角 携帯でも自宅でも 直接 話を聞きたいからと 告げていたので 時として まだ 一人 残業を事務所でしている時に 受け取ったり 自宅に帰った途端に鳴り出した電話に 飛びつくような日々だったが 兎に角 母の状態を キチンと聞きたいが為に時間は関係無しに 待ち続ける中 唯一 仕事に向かっている時は 不安から 逃げる事が出来た。
退院まで 側に付いていて遣れない事は 自分の 親への甘え。
それなのに 自分を責める・・・ジレンマ。
けれど そういう時に限って 普段なら 単純なミスも 犯してしまいそうだが 研ぎ澄まされた感覚が 思い掛けない 作品を 生むこともあった。
母の回復は 順調にだった。
退院の日も決まり 一瞬 ホッとしたけれども 次に 心配に成るのが 母の性格。
自宅に帰れば 無理をするに決まっている。
康孝に お嫁さんでも居れば 少しは 楽に養生出来るのに・・・・と 勝手な事まで 考えてしまう。
本来ならば 私が 戻ればいい事なのに・・・と 思いながら。



鬱々とした気持ちの儘 久し振りの休日 お気に入りの公園に 知らず知らずのうちに 足が向いていた。
今更ながらに 気が付くと 季節は 確実に 変わっていた。
眩しい日差しの中 日陰を求め ベンチに腰掛け ボンヤリと公園で遊ぶ 人達を 見つめていた。
いつもの様に スケッチブックは持ってきたが 今日は 傍らに置いたまま 開く気も起きない。
足元に転がってきたボールにも気付かず ボンヤリしていると 聞き覚えのある声が背後から聞こえた。
『今 蹴ってやるから・・・・チョっと 其処で 待ってナ!』
驚く私に あの日 空港で見せた爽やかな微笑みで 私の足元に転がって来ていたサッカーボールを 少年達に 蹴り返してやった。
『ありがとうございました。』
『おう!』
驚いた私は 一瞬 言葉を失っていたが 我に返り 即座に立ち上がって 先日のお礼を改めて告げた。
『本当に あの日は ありがとうございました。何とお礼を申し上げてよいやら・・・でも 又 この様な形でお逢いできるなどと思ってもみませんでした。』
『それは 残念だな。僕なんか いつ逢えるだろうと 休日の度に この公園に 来てたのに。』
『又 冗談ばかり・・・。』
『冗談じゃありませんよ。あの時 又 あの公園で お逢い出来るかもしれませんと 申し上げましたでしょう。』
確かに その様な事を 言われた様な気がしないでもないが・・・・まさか 休日の度に 公園にやって来ていたというのは・・・・。
『お隣に坐っても 構いませんか?今日は 描かないんですね・・・スケッチ。』
『あっ 気が付かなくて ごめんなさい。どうぞ お掛けになって・・・。ええ 何だか今日は 描く気になれなくて。』
『何か 心配事ですか?あっ 余計な事を言ってすみません。初対面の様な人間に 相談できれば そんな 淋しそうな顔 する訳ないですよね。
あっ!又 失言だ。すみません。』
私より 幾つか 年下だろうが 振る舞いや身なりからして見ても キチンとした家庭で育った感じだ。
ウイットもあるし 涼やかな目元に 端正な顔立ち。
私との最初の出会い方の様でなければ きっと女性にモテるタイプだろう・・・。
そんな事を 考えていると 突然 彼は
『お腹空きませんか?どうも 僕は根が単純に出来ているので お腹が空いていると ネガティブに 成っちゃうんです。一人で食べるのは ツマラナイですから お付き合いして貰えませんか?』
その途端 私のお腹が 不覚にも 鳴ってしまった。
『決まりですね!!行きましょう。近所に いいお店が あるんです。イタリアン 平気ですか?』
耳まで赤くなりながら 私は 頷いた。

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公園を後にした私達は 日下部竜司に案内され こじんまりとした でも 清潔感のあるお店のテーブルに 向き合っていた。
『休日ですから 少しくらいいいでしょ。』
悪戯っぽく微笑んで ワインを頼み 
『お付き合い頂いて ありがとうございます。再会を祝して 乾杯♪』
始め出会った時は 単に軽いナンパ男だと 思っていたが 今 目の前に居る彼の 言葉一つ一つが ある意味で 私に対しての 思いやりの様な気がしてきていた。
正直 彼の明るさに 私の心は 次第に晴れやかになって行った。



けれど この再会が 運命的な物に成るとは まだ 私自身は 何も気が付いてはいなかった。
by deracine_anjo | 2005-03-24 04:52 | 『寂光の愛・・・生命』 小説