『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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カテゴリ:『再会』 短編小説( 10 )

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季節は廻り 晴れ渡った4月の朝・・・・桜は 今とばかりに咲き誇り 『大安吉日』の休日 俺は鍵の引渡しに 向かっていた。
予告通り 現地では 長谷部室長が言ったとおり 新しいコンセプトの一つとして 仲間と撮影人も待っている事だろう。
低金利で 多額の融資を会社側と交渉してくれた 長谷部室長が 喜んでくれればいいのだが・・・・・。
・・・・と此処までは 想うけれど 俺には 今 この瞬間が その全てを忘れてしまうくらい大切な時間だった。
それ以外の事は 後回しでいい。



俺はあの日・・・・保坂先生の電話を受け取り 病院に着くまでの間に どれ程 時間が流れたのかと想うくらい 長い一日を過ごした。 
ナース・ステイションで 保坂先生への伝言を伝え 玲子の病室に向かいドアを静かに開けたが 取り立てて 何かがあった感じではない。
いつもの様に 玲子にKISS した後 ホッと椅子に腰を下ろした途端 
静かにドアがノックされ 顔見知りの看護婦さんが現れ
『保坂先生がお待ちです。どうぞ』と静かに 俺をいつもの部屋に案内した。
相変わらず無機質な部屋だが 逆に今の俺の心境には 代えって丁度いい。
頭を軽く下げ室内に入ると 保坂先生はいつもより少々 雰囲気が違う気がした。
『どうぞ お掛け下さい』そう告げる言葉すら 何処か 違う。
俺の心臓は 又 早鐘の様に打ち始めていた。
『玲子に何かあったんですか?悪い知らせなんでしょうか・・・正直に仰ってください。』
沈黙に耐えかねる様に 俺は 立て続けに質問し 保坂先生に答えを求めた。
『ご安心下さい。お電話で申し上げた様に 命に関わることではありません。唯 ぬか喜びをさせてしまう結果になるかもしれません。実際 私自身がその現場にいた訳では在りませんので・・・・。』
『それは どういうことです、先生。』
『今朝 看護婦が検温後 食事の点滴を交換しに行った時 反応が見られたと言うのです。』
『反応と言うのは?』
『勿論 いつもの様に お声を掛けながら 行なうのですが キチンと焦点のあった視線で看護婦の作業を見つめ 何かを告げるような仕草をしたと言うのです。』
『本当ですか!!』
『いえ 直ぐに 看護婦の知らせを聞いて 私が伺った時には 残念ながら その様な反応は見られませんでしたが ベテラン看護婦の報告でしたから 一応 矢崎さんにはお知らせしておこうと想いまして。』
『それは 意識が戻りつつあると言う事なのですか?』
『いえ 冷たいようですが まだ ハッキリと其処まで申し上げる事は出来ません。唯 可能性が有るかもしれない・・・・医者がこの様な曖昧な言い方をしては成らないのですが。』
『いえ それだけでも 希望が持てます。』
『唯 あくまでも 現場に私がいた訳では在りませんので 他のご家族には今しばらく様子を診てからという事で ご了承下さい。』
『はい 分かりました。ありがとうございました。宜しく御願い致します。』



病室に戻った俺は椅子に腰掛け 玲子を見つめた。
そして 耳元で囁き続けた。
『玲子 もうそろそろ 俺の元に帰っておいで。眠りの森の美女だって 王子様のキスで目覚めるんだよ。玲子 聴こえているんだろ。俺を独りにしないでくれ、玲子。』
そっと 布団の下から手を差し入れ 暖かい玲子の肌に触れた。
柔らかい乳房を手で包み込み 心臓の確実な鼓動を感じていた。
溢れる涙が止め処もなく流れ 俺は玲子の肩に顔を埋める様にして声を殺して泣き続けた。
どれくらい そうしていたのだろう・・・・。
俺は子供の様に泣き疲れて 眠ってしまったようだった。
そして・・・・
俺の頭を撫でる手の感触で 目覚めた。
其処には 微笑みながら 見つめる玲子の瞳があった!!



『裕也 この方角 マンションに行く道じゃないわよ!!』
助手席に座る玲子が不審そうに俺に呟く。
『ああ、玲子に見せたいものがあるからそこに向かっているんだ。まぁ 楽しみにしててくれ。』
今日は長い間の植物状態から 一転 リハビリを兼ねて入院していた玲子の晴れやかな退院の日でも あった。
『何を企んでいるの?私を驚かす為に 家族みんなで・・・』
そう・・・・玲子には 新居の事を話していなかった。
いや 俺は玲子が眠り続けている間 逐一報告をしていたが 玲子にはやはり分かってはいなかったのだ。
唯 玲子曰く 何処かで自分の名を呼ぶ声や話し声は意識の奥の部分で感じていたが 理解してはいなかったと言う事らしい。
だから あえて それ以後は 俺は玲子を驚かせ喜ばせたい為に 何も言わない事にして 他の家族にも口止めをしていた。
窓もサンルーフも全開にして風を感じている玲子は 本当に嬉しそうだった。
まだ 全ての記憶を取り戻した訳ではないが 日常生活に戻る事で 
リハビリになると考えた保坂先生が 定期的な検査を月に一度行うと言うのを条件に 今日の退院を許可してくれたのである。
『私 随分長い間 眠っていたのね。何だか おかしな感じよ。』
『徐々に慣れてくるさ。焦る事はないよ。俺は今こうして 玲子が俺の側にいてくれるだけで 充分幸せなんだから。』
『裕也 随分口が上手くなったわね。誰に教えてもらったの?』
『本心を口に出してるだけだよ。玲子は幸せじゃないのか?』
『裕也は勿論だけど 皆に感謝してる。幸せで 怖いくらいよ。』
『大丈夫!俺がいつも側にいて 玲子を守ってやるから。』
『裕也・・・・・』
玲子の瞳から 大粒の涙が零れ落ちて 光の中に溶けていった。



『着いたよ!』
『えっ?どなたのお宅?裕也が好きなモダンで でも 木のぬくもりを感じさせる 暖かな家って感じ。もしかして 新しい裕也の設計した家?』
『ああ そうだよ。良く分かったね・・・さあ 車を降りて。』
『ええ・・・・』
不審がる玲子をエスコートして 門まで来た時 玲子は
『YAZAKI』と書かれた表札に気が付き 目を見開いたまま瞬きもせず 表札と俺の顔を交互に見つめていた。
その途端 雪崩の如く 玄関から俺達の家族や会社の同僚達が飛び出してきた。



眩しい程に 輝くような優しさと愛情に満ちた 再会だった。



                    完




。。。。。。。。。。。☆。。。。。。。。。☆。。。。。。。。。。。

  あとがき

 この数ヶ月の間 幾つかの短編小説を拙いながらも書き続け
 いつも 私のココロに在るものは 唯一点
 『生きている事は 満更 悪くないね』 だけでした。
 世間では 災害や事故 事件 そして 病・・・・
 生きている間には 人それぞれに 色んな事に 突き当たり
 迷い 苦しみ 嘆き・・・・
 それでも 『満更 悪くないね』・・・・そう言えたら いいなぁと
 想いながら 書き綴ってきました。


  又  お逢いできる事 を・・・

        ありがとうございました。

                           deracine_anjo

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by deracine_anjo | 2005-01-20 07:35 | 『再会』 短編小説
人には それぞれに 生まれ堕ちた瞬間から抗えない『運命・・・・定め』が あるのは 分かっている。しかし 全てが 神の意志の儘に 唯 黙って 受け入れなければ成らない事だとは俺は想っていない。
偶々 偶発的に 起こった事まで 全て 『これも運命だから仕方が無い』などと 容易く受け入れたくは無い。
俺は 玲子の事故を 俺達の愛が試される試練だとは想っているが 乗り越えられると信じて 今日まで生きてきた。
そして その気持ちは これからも 変わらないだろう。
俺の知り合いに 医者から 『余命3ヶ月』と宣告された末期癌の方が 何の手当てもせず 自宅で半年以上を過ごし その後 入院されたが それでも 延命治療もせず 穏やかに息を引き取るまで 宣告されてから 1年以上を 自分の生命力だけで すごされた方がいる。
それは その時間が その方にとって 必要な時間として 神が与えられたのだと想う。
どれだけ 名医が 多くの臨床結果を基に 判断しても それは あくまでも データーに過ぎない。
他人の目から見たら 俺が 『諦めの悪い男・・・女々しい男』に 写っていても そんな事は構わない。
玲子の運命は あの事故で 終わるとは 信じていないだけだ。
違った意味で 神を信じているだけの事だ・・・無信仰だが・・・。




建て前も無事終わり 着々と 俺達の家は 形を見せ始めていたある日 玲子の両親がマンションに突然 尋ねてきた。
俺は 玲子の病院に行く用意をしていた時だった。
慌ててとり散らかった部屋を片付け 御両親を招き入れるだけで 一汗かいている自分が 滑稽でたまらなかったが 神妙な面持ちで尋ねてこられたご両親の手前 何とか その場を取り繕った。
馴れないながらも 御両親にお茶をもてなし 人心地着いた俺に 義父は徐に
『これを 使ってくれないだろうか』
と 預金通帳をテーブルの上に差し出した。
不審げな顔をしている俺に
『これは 裕也君が玲子の慰謝料を渡してくれたものだよ。一切 手をつけていない。家の資金に当ててくれないだろうか。』
相手の親は自分の馬鹿息子可愛さに多額の慰謝料と以後10年間の治療費その他一切を責任持つと言う事で 弁護士を立てて 言って来た当時 俺は 
『弁護士を立てて話をする前に 親が出てくるのがスジだろう!!』と 怒鳴り散らしたのを思い出した。
それでも 周りの説得もあって 慰謝料を受け取り それを そのまま 玲子のご両親に渡したのだった。
俺は 一呼吸置いて 出来るだけご両親の気持ちを傷付けない様に けれど ハッキリと
『お気持ちは 本当にありがたく受け取らせて頂きます。けれど このお金を使わせて頂いたら 玲子に怒られる様な気がするのです。いえ 玲子が 元気にあの家に戻ってきてくれない様な気がするのです。ですから これは このまま 玲子が元気に成るまで 今まで通り お義父さんが 持っていて下さい。御願いします。』
『裕也君は 本当に信じているのかい?玲子が 目覚めると・・・』
『はい。疑った事はありません。俺達の人生は これからですから。』
傍らで 涙を拭く小さくなった義母の為にも
(玲子 皆の願いが分かるだろう!!このまま このご両親と俺を残して お前は・・・)
心の中で 俺は何度も 呟いていた。



ご両親を送り出し 俺は 改めて玲子の病院に行く準備をしていた。
此処最近は 一段と仕事も忙しく それに自分の家と玲子の病院通いと タフを自慢していた俺でも 些か疲れを感じ始めていた。
けれど 玲子の暖かいぬくもりに触れると 苛立った神経が穏やかになるのが自分で分かる。
俺にとって 玲子は 『運命』 なんだと 改めていつも想う。
だから 尚更 その 『運命の糸』 を 赤の他人の所為で 切られてたまるか!!
そう 想いながら いつの間にか ソファーで 俺は うたた寝をしてしまった。




一本の電話で 俺は 起された。
ボンヤリとした頭で 時計を見ながら 受話器を取った俺の耳に
『○○総合病院 脳神経外科の保坂ですが 矢崎さんのお宅でしょうか?』
俺の心臓は 早鐘の様に鳴り響き 声もかすれ それでも 何とか
『はい 矢崎です。玲子に 何か あったのでしょうか?』
『今日 これからいらっしゃいますか?詳しいご説明は その時に・・・・』
『分かりました。 命に別状があった訳では ありませんね。』
『ご安心下さい。そうではありませんから。』
『分かりました。直ぐに 伺います。では 後ほど。』




ドアに鍵を掛けるのも もどかしく 駐車場に降り 車にキーを差込み発車し マンションの出口で一旦停止をした瞬間 
(真昼の月) を 俺は久し振りに・・・・・観た。

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           『再会』  短編小説 (9) 『真昼の月』
by deracine_anjo | 2005-01-19 04:17 | 『再会』 短編小説
俺の実家は チャキチャキの江戸っ子。
代々 材木屋を営んでいる。
本当だと 長男の俺が 跡を継ぐべきなのだが 弟が今やオヤジの片腕になって店を切り盛りしている。
俺が設計者に成りたいと告げた時には 始めオヤジは 落胆し俺に対して腹を立てて この店も『俺の代で終わりだな!!』なんて事を 口にしていたが 散々親に心配を掛けて来た弟の健が 
『オヤジ 子供は 兄貴だけじゃないだろ!俺が 跡を継ぐんじゃ 不満か?』
家族は 正直驚いたが 健の意志は 半端じゃなかった。
ある時 二人っきりで話す機会があって 俺が
『健 すまないな・・・』
と言った瞬間 俺は 殴られた。
『俺は 兄貴の為に やってんじゃねぇ!!俺が好きな仕事として選んだんだ。俺はオヤジみたいになりたいんだ!!二度と そんな事 言うな!!』 
健は5年間 外に出て みっちり腕に力を付けて 実家に戻り それ以後 本当にオヤジの片腕となって 店を切り盛りしている。
あの殴られた痛みが 今では 嬉しい想い出だ。



案の定 家では 家族全員が 首を長くして待っていてくれた。
玲子の実家とは 全然違う雰囲気に 思わず俺は一人 笑いを噛み締めていた。
挨拶もそこそこに 食卓につくと
『おかえり、お腹空いたでしょ。少し痩せたんじゃないの?』
『俺に頼みごとってぇ~のはなんだ。』
『兄貴 玲子さんの様子は その後 どうなんだ?』
『お義兄さん ビールでいいかしら?』
『おじちゃん 今晩は~~~優香 3歳になったのよ。』
もう ゴチャゴチャに話しかけられて 俺は どれに答えていいやら・・・・。
でも この暖かさが 心底 嬉しかった。
家族のぬくもりが 俺の心を癒してくれるのが わかる。
だからこそ 俺も玲子とこんな暖かな家庭を絶対に作る!!
改めて 心に誓い 病室で眠っている玲子に 心で話しかけていた。
一通り食事も済んで 俺は全てを正直に 両親と健夫婦に話した。
玲子の両親から 『離婚』 の話もした。
その上で 畳に両手をついて 
『俺の遣りたい様に遣らせて欲しいんだ。この通りです。』
暫く 何も言わず 俺の話を 黙って聞いていたオヤジが
『ダメだと言ったって 俺の子だ。言うことなんか 聞きゃしないのは 分かってる。健 いい材木 集めて遣れよ!!』
『流石 オヤジ!!そうこなくっちゃぁ 江戸っ子の名が廃る。兄貴 俺に任せろ!!』
『ありがとうございます。』
俺は涙を見られたくなくて そのまま 頭を下げたままだった。



翌日 室長室の前に立った俺は 静かに ノックした。
『どうぞ』
『矢崎です。失礼します。』
『おお 矢崎か。何だ 妙に神妙な顔をして・・・まぁ 其処に座れ。』
『お時間を 少し頂けますか?』
『矢崎の頼みなら 嫌とは言えん。で・・・・どんな 相談事だ?』
『はい 実は 家を建て様と想いまして 会社からの 融資を御願いしたくて。』
『奥さん 良くなったのか!!』
『いえ まだ 何も変わりません。でも 妻が目覚めた時に・・・・見せてやりたいんです』
暫く 沈黙があった。
そして 長谷部室長は
『会社から借金したら お前さんは もう 独立できないぞ。お前さんの腕は 会社の大黒柱だ。出来るだけ 多額の融資が出来る様に 上に報告する。少し 時間をくれ。』
『ありがとうございます。独立など考えた事もありません。俺はこの会社が好きなんですから。』
『分かった。その言葉 信じるよ。それで 奥さんの方は 希望が持てるのか?』
『俺は信じています。』
『そうか・・・・分かった。俺も信じるよ。いい家を建てろよ。それも 宣伝に使わせて貰うかも知れないぞ。』
『はい 頑張ります。では 宜しく御願い致します。お時間を取らせてしまいまして 申し訳ありませんでした。失礼します。』



俺は設計室に戻る前に 一服する為 屋上に出た。
夏の日差しが ジリジリと俺を焦がしてゆく・・・・
けれど 俺は その感覚を 楽しんでいた。



『玲子 早く 目覚めるんだぞ!!』 心で呟きながら・・・・・

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by deracine_anjo | 2005-01-17 12:59 | 『再会』 短編小説
この頃の俺は 自宅の戻ると 自分のデスクで 一つの設計図に取り掛かっていた。



それは 一軒家の設計図だった。
仕事ではない。基本的に 俺は自宅には仕事を持ち帰らない主義である。
それは 自分の中に 『甘え』が出る様な気がして 自分自身にかせた試練の様なものだった。
自宅にまで仕事を持ち帰る事を始めれば 『時間』の余裕に 自分がだらけてしまいそうだったからだ。
馬鹿げた考えだが 俺の様な 奴には 『戦い』が 必要だった。
それは 玲子が事故にあってから 一段とその想いが強くなった。
一分 一秒を 無駄にせず 大切に生きる・・・・明日があるではなく (今を懸命に生きる)その積み重ねが 未来に繋がる・・・そんな気がしている。
そんな事を ふと考えながら 広げた製図の前で 俺の思考は 又 あの病室で眠る玲子へとココロが浮遊する。
ブラック・コーヒーを一気に飲み干し 取り掛かった。



休日の朝から 俺は不動産屋周りをしていた。
都内より少し離れた郊外で 適当な土地を見つける為だ。
緑や公園が点在する 静かな住宅街・・・それが 俺の探している物件だった。
幾つか候補を見せられ 少し値段的には高いが 気に入った物件が 一つ見つかった。
俺は 近日中に連絡を入れると答え 不動産屋を後にした。
そろそろ 玲子の面会時間だからだ。
気が付くと 何も食べていない事に気が付き 駅前のイタ飯屋で パスタを食べ 急いで玲子の元へ向かった。
ココロが少し今日の空の様に 晴れ渡り 足取りも心なしか 軽やかだ。
今年も暑い夏だ!!
早く玲子に 逢いたい。
あの微笑を 見られる様な気にさえ成っている。



玲子にいつもの様に キスをした後 俺は椅子に座り 玲子の手を握りしめて今日の出来事を報告し始めた。
『実は 今日 此処に来る前に 不動産屋周りをしてきたんだ。玲子の事だ。もう 分かっているかも知れないな。そうだよ。俺達の家を建てる場所を探してきたんだ。まだ 早すぎるって想ったかい?でも いつも俺達 話していたじゃないか。マンション暮らしは便利だけれど やっぱり 子供を育てるには 庭があって 土に親しみ 伸び伸びとした環境で 育てたいって。
だから いつでも玲子が帰ってきて 喜んでくれる事 夢見ながら 俺 取り掛かったん。設計図はもう出来上がったョ。
安心しろ!玲子の希望は チャンとふんだんに取り入れているから。
今度 設計図を持ってくるよ。』
此処まで 一気に話した途端 玲子が反応してくれたような気がした。
心臓が一瞬 早鐘の様に 脈動した。
息を殺して 玲子を見つめていたが 俺の願望だったのだろう。
何の 変化も 起きはしなかった。
一瞬 落胆したが 気を取り直して 俺は 言葉を続けた。
『それで 一箇所 気に入った所を見つけたんだ。俺が設計した家にもピッタリする環境だ。
緑も多いいし 公園もある。図書館だってあったぞ。チョッと値段的には 予算より高めだが俺の実家で 木は安く叩いて調達するから 何とかなる。
あっ!!呆れているんだろう。でも これは 材木屋の息子の特権だ!!
木に関してのプロが 俺達の家にふさわしい木を選んでくれる。
今日 もう一度 病院の帰りに あそこに行って 夜の雰囲気を確かめてくるつもりだ。
それで 気に入ったら 決めてもいいかな?』
玲子が 微笑んで
『裕也が一旦 走り出したら 止まらないの 良く判ってるわ。付き合い始めて6ヶ月で私に ぷろぽーずした時みたいにね。楽しみだわ。私 早く 元気に成らなくちゃね。』
俺には 玲子の声が聴こえた様な気がした。
『あはは。玲子には 全てお見通しだな。そうだよ。俺は 玲子が新しい俺達の家を見て喜んでくれるのを 『夢』に頑張るから 玲子も頑張れ!
俺は 玲子を信じているからな!!』



翌日 俺は 午前中 会社に遅れる事を連絡し 不動産屋と銀行周りに奔走した。
それが終わって 俺は久し振りに実家に電話を入れた。



『ありがとうございます。矢崎材木店です。』
相変わらず威勢のいい お袋の声が 受話器から聴こえてきた。
『俺 裕也。無沙汰してます。』
『やだ 裕也なの?何かあったの?玲子さん 気が付いたの?』
『いや 玲子はまだ 眠ったままだ。それより 今夜 オヤジに話があるんでそっちに行きたいんだが 大丈夫かな?』
『チョッと待ってね・・・・一つ 町内会の会合が有るけど あの人が行かなくたって 構やしないから 大丈夫だよ。で・・・・何時ごろ?』
『8時までには 行けると思う。』
『分かった。夕飯に あんたの好きな物用意して 待ってるからね。』
『ああ 楽しみにしてるよ。お袋の料理・・・じゃあ 後で。』



俺は 信じていた。玲子は目覚めると。
そして 俺達の家に 自分の足で立つ姿を・・・・。


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           『再会』 短編小説 (7) 『夢』
by deracine_anjo | 2005-01-16 12:54 | 『再会』 短編小説
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『矢崎さん お気持ちは お察ししますが 今の医学では 奥さんを目覚めさせる事は 出来ないのです。出来るとしたら 医学に携わる者が言う言葉ではありませんが 運命と神の力以外には・・・・・。』
穏やかだが 凛とした態度で保坂先生は 俺に答えてくれた。
『期待を持たせる訳ではありませんので 其処の所は 御自身で 受け止めて頂きたいのですが 植物状態から 目覚められたケースは 実際にあります。それは 医学の分野ではありません。ですから 0% もう 諦めて下さいとは 私は 言いません。けれど 確立が 低いのが現実ですので。』
『判りました。では 私は 今迄通り 妻に接していれば宜しいのですね。』
『そうですね。好きな音楽を 聴かせ 言葉を掛け・・・あの日の事故の前と 何だ変わらない状態で過ごされることです。唯 矢崎さんご自身は 大丈夫ですか?カウセリングか何かを受けられますか?』
『いえ。私は 大丈夫です。ありがとうございました。』
『又 何かあれば 看護婦に仰って声を掛けて下さい。あっ 奥さんの身体的な状態は 安定していますので 御安心下さい。』



『玲子。 俺はお前が俺の言葉を チャンと聞いてると想っている。だから 言うが 俺はお前と離婚するつもりなど さらさら無いからな。
今日 玲子のご両親に呼ばれて ここに来る前に会って来たんだ。で 玲子のご両親は 俺達がまだ 3年という時間しか 結婚して間が経っていないのに 今の状態のままだと 申し訳ないから 俺に離婚して新しい人生を生きてくれと 涙ながらに言われたんだ。けれど 俺は・・・俺の妻は 玲子しかいないから 離婚するつもりはないし いつまでも 待つと答えてきた。いいよな。待っていて。』
病室に戻ると 玲子は眠りから醒めていた。
と言っても 虚ろな瞳で宙を見つめているだけだが 俺は・・・俺の言葉が届くと信じて 語り続けた。
『保坂先生とも話してきた。
今の医学では 今以上の事は 何も出来ないけれど 0% 玲子が元気になる日が来ないとは言えないと言われた。だから 俺は それを信じる。
俺は いつまでも玲子を待つ!俺には玲子しかいない。愛しているんだ。俺の玲子でいてくれ。そして 早く 起きろよ!!もう 4年目の結婚記念日は過ぎちゃったぞ。あの時に買い損ねたプレゼントもあるから な。 』



外を見ると 窓硝子を雨が濡らしていた。
俺は まるで 玲子が泣いているような気がした。
そして 先程逢った 玲子の両親の涙の様な気がした。
心底 俺は 加害者を憎んだ。何処かの会社社長のボンボンが 腕も無いくせに 父親に買って貰った 外車に乗り回し 玲子やその他の方も巻き添えにして 傷付け 人生を狂わせた。
玲子の両親は 泣きながら頭を下げ 心から俺の将来を案じ 
『玲子が治る見込みはないと想う。いや 治ると信じたいが 先の見えない将来に 私達は 玲子の親だから 私達の命がある限り玲子に付き合うが 矢崎くんの将来までそれに付き合わせる事は 出来ない。
玲子とは離婚して 新しい人生を選んで欲しいんだ。』
心の悲鳴が聞こえるようだった。
『お義父さん お義母さん 僕はそんな事一度も考えた事 ありませんし これからも僕の妻は玲子だけです。僕は 離婚などしません。それに 治ると信じています。』
『しかし 君の将来・・・・』
『僕の将来は 玲子と歩むこと以外 他には無いのです。ですから この話は 忘れてください。僕の夢を 奪わないで下さい。御願いします。』
俺は 両手を付いて 頭を下げた。
義母は 感極まって 静かに居間から 出て行った。
義父も 涙を流しながら 頭を深々と下げた。



『矢崎さん お食事の時間ですよ~~。』
そう言いながら 看護婦さんが 玲子の点滴を替えに来た。



俺は 涙を見られたくなくて 外を見る振りをして 窓辺に立った。



           『再会』 短編小説 (6) 『離婚』
by deracine_anjo | 2005-01-15 09:19 | 『再会』 短編小説
『矢崎さん 奥さん 今 眠っていらっしゃいますよ。』
もう顔見知りになった 看護婦さんから声を掛けられ ドアのノブに手を掛け様としていた俺は振り向き 
『その後 妻の様子は・・・変わりませんか?』
どこか すがる様な瞳を俺はしていたのだろう。
看護婦さんは 少し視線を下に落とし
『ええ、変化は残念ですけど みられません。先生の説明を受けられますか?』
『はい お願いします。では お待ちしております。』
軽く頭を下げ そして 静かにドアを開けた。



そこには 紛れも無く 俺の大切な玲子が 静かな寝息をたて眠っていた。
清潔な部屋 静かに流れる玲子の好きな音楽のCD。
少し細くなった身体と この一年間 太陽の光りに殆んど当たる事が無くなり一段と透き通る様になった白い肌。
止まってしまった時間・・・・。
不甲斐無くもこみ上げてくる涙を どうする事も出来ずに 暫くの間 眠る玲子の姿を見つめていた。
静かな時間が流れた・・・・。
玲子との出会いを運命だと 俺は思った。
これからの何十年を共に歩いていきたいと 付き合い始めて半年で俺は玲子にぷろぽーずした。
互いに尊敬しあい 愛し合い 3年目を迎えたあの日 あの事故も俺達の背負わなければ成らない運命なのか?!
(違う!!断じて違う!!俺達には まだ 未来がある筈なんだ!あの事故を簡単に運命なんて 受け入れてたまるか!!玲子 そうだよな!!)
そっと握りしめた玲子の手を 俺の涙が 一粒 二粒・・・・と濡らしていた。



久し振りに訪れた玲子の実家は 心なしか寒々としていた。
出迎えてくれた義母は 玲子が年齢を重ねれば きっとこんな風に穏やかなで優しげな女性になるんだろうなと思わせるくらい良く似ていた。
しかし 体調を崩してから 一回り小さくなってしまったようだった。
俺の胸が 又 痛んだ。
朗らかに微笑みながら義母は
『裕也さん お待ちしてましたわ。さあ 上がってくださいな。』
『ご無沙汰してしまって 申し訳ありませんでした。お義母さん 体調の方はもう宜しいんですか?』
『ええ ありがとうございます。もう年ですわね。あちこち ガタが来て・・・』
『お義母さんがお年なんて・・・まだまだ お若いですよ。』
『裕也さん ありがとう。さあ・・・主人も朝から首を長くしてお待ちしておりましたのよ。』
案内された客間では 義父が静かな面持ちで待っていてくれた。
『ご無沙汰して申し訳ありませんでした。お変わりありませんですか?』
『裕也くん 堅苦しい挨拶は抜きで ゆっくりくつろいでくれ。さあ 座って。』
『そうですよ。家に帰ってきたと思って 私は直ぐに お料理をお持ちしますから・・・お酒は何がいいかしら?』
『いえ 後で玲子に逢いに行きますから お酒は・・・』
『まあ そう言わずに 少しくらいならいいだろう。ビールでも 取り敢えず持ってきてくれ。』
『はい 判りました。裕也さん 脚を崩してね。』
そう告げて 義母はキッチンへと去った。
玲子の父親は 小学校の校長をしているが 後数年で退職だろう。
久し振りに逢った義父も心なしか 小さくなっていた。
俺の心の中に 久しく収まっていた加害者のあの男に 憎悪を感じた。



静かなノックの音で 俺の思考は現実に引き戻された。
『はい。』
静かにドアが開き 先程の看護婦さんが姿を見せ
『カンファレンス・ルームで先生がお待ちしておりますが・・・』
『ありがとうございます。伺います。』
椅子から立ち上がり 見つめた玲子は まだ静かに眠っていた。
看護婦さんの後に付いていきながら 涙の跡を拭いた。
(彼女には見られただろうか・・・)ふと ひとり 苦笑いをした。
何度も通いなれた部屋の前に立った看護婦さんは やはり静かにノックをしドアを開けた。
其処には 俺より少し年上くらいだが 脳外科の腕は 一流だと言われる担当医の保坂先生が 待っていらした。
『矢崎さん どうぞ。』
『お久し振りです。すみません お時間を頂いて。』
『いえ 全然構いませんよ。奥さんの事で 何かお聞きになりたい事でも?まず お掛けになってください。』
(何度 この様な会話をこの一年間 繰り返した事か・・・・)
『はい。では 失礼します。』
一呼吸置いて 俺はいつもと同じ様に 真っ直ぐ保坂先生を見つめ 
『玲子の状態は 全然 変わらないのですか?回復する見込みは 無いのですか?』




静かな部屋の中に 外から 小さく子供達の笑い声が 聴こえた。


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          『再会』 短編小説 (5) 『清澄』
by deracine_anjo | 2005-01-14 11:42 | 『再会』 短編小説
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ふらりと久し振りに 当時住んでいたマンション近くの図書館に 立ち寄ったのが玲子との運命的な出会いだった。



今のご時勢 世間では(本離れ)とか言っているが 俺は簡単な調べ物ならネットを使用しても やはり実際に この手で 本に触れ 資料を集めたり文字や写真に逢うことが 好きだった。
あの独特な空間も 俺にとっては 憩いの場所の一つでもあった。
あの日も 俺はそんな静かな時間が欲しくて 足を向けたのだ。
大きな仕事が 一つ終わった安堵感に 心は穏やかさに包まれていた。
検索せず ゆっくりと本の間を歩いている時 返却された本を整理していた玲子に会ったのが 運命だったと俺は思っている。
俺の姿を見た玲子は 俺の為に 静かにしゃがんでいた場所から 立ち上がり 瞳で微笑んだ。
俺はその瞬間 玲子に『一目惚れした』。



緩やかにウェーブのついたセミロングの髪を 一つに束ね 余分な贅肉など何一つ無い様なしなやかな身体。
そして 何よりも人を魅了する瞳を持った玲子の全てに 俺は一瞬で恋に落ちた。
付き合い始めた頃 その話をしたら 玲子は微笑みながら
『矢崎さん 何を探しに図書館にいらしてたの?でも・・・・本当は 私もよ。』
そう 俺に答えてくれた。
俺は有頂天になったのを今でも覚えているが それからは もう俺の頭には『ぷろぽーず』の事しか頭に無かった。
玲子を知れば知るほど 俺は玲子と結婚する事だけを考えていた。
誰かに連れ去られる前に・・・そんな心境だったのを覚えている。
恋の一つや二つ・・・修羅場もあった俺が まるで『初恋』状態だった。



あの日は 玲子が好きな『ドリカム』のライブを聴きに 横浜アリーナに行く途中だった。
早めに会った俺達は 駅近くを歩き その後 喫茶店で他愛の無い話をしながら 少しづつ今日のライブを聴きに来ているらしい人間が溢れて来るのを窓越しに見つめていた。
『そろそろ 俺達も 向かおうか。』
『そうね。私 もう 今からドキドキしてる。』
『ああ 俺もだよ。ライブなんて 最近 脚が遠のいてたし。行こう!』
そう言って レシートを掴み俺達は立ち上がった。
もう アリーナの前は熱気に溢れていた。
その瞬間 俺は 玲子の手を掴み 微笑みながら振り向いた玲子に向かって 一言づつ ゆっくりと 告げた。
『玲子 俺と 結婚してくれないか?』



見慣れた玄関先に辿り着いたのは 丁度12時5分前だった。
いつもの様に 玲子からプレゼントされた時計に目をやる俺。
一瞬だが 心の痛みが疼く・・・・。
玲子の事故の後 暫くは俺の日々の事や食事の事等を気遣ってくれる義母が 何くれと無く俺が訪問する様に声を掛けてくれていたが 玲子の看病と心痛から体調を崩し 暫く足が遠のいていた。



腹を決めて インターフォンを押した。
『こんにちは。矢崎です。』
俺は 少しでも早く玲子に逢いに 病院に行きたかった。



          
           『再会』 短編小説 (4) 『ぷろぽーず』
by deracine_anjo | 2005-01-13 12:08 | 『再会』 短編小説
日曜日までの間 俺は がむしゃらに仕事をこなし 泥の様に疲れ果て眠る日を敢えて選ぶように 暮らした。
家に帰ると 風呂に入るのも億劫に成るほどだった。
周りの仲間が 遠巻きに 俺を黙って支えてくれているのも感じながら 俺は敢えて気が付かない振りをして 仕事に没頭した。
心の中では 玲子の両親が日曜日に俺に何を言いたいのか 見当は付いていたからだ。
そして 俺の答えも決まっていたが どうしても あの日の残像が拭えなかった。
その事に 俺は苛立ち 嘆き 哀しむ 己が我慢ならなくて たまらなかったのだ。



あの日 俺は玲子より早く銀座の店の前に着いていた。
案の定 某有名宝石店の中は カップルや親子連れで 賑わっていた。
俺は1人 この店に入らされなくてヨカッタ・・・・等と想いながら 玲子が去年の俺の誕生日に送ってくれた時計を見た瞬間 (玲子が来た)と感じた。
瞳を路上に戻すと 今朝 出掛けに着ていた淡いパールホワイトのスーツに身を包んだ玲子の姿が 反対の道路に映った。
信号待ちの間に玲子も気が付き 微笑み手を振る。
まるで (白い花が咲いている様だと)・・・・自分の妻に対して想うくらい 
あの人混みの中で 玲子は一際 目立っていた。
今にして思えば 単なる玲子の風貌や醸し出す雰囲気だけではなかった様に思う。



信号が変わり 零れんばかりのいつもの微笑を浮かべながら歩き出した
玲子が 次の瞬間 宙に舞った。
それは 一瞬の出来事だった。
反対の雑踏の中に居た俺に聴こえる筈もない鈍い音。
それは・・・玲子の身体を砕く音。悲鳴。車の急ブレーキの音・・・・。
全てが スローモーションの様に しかし 鮮明に俺の記憶の中にインプットされた瞬間だった。
モノクロームの世界に飛び込む様にして走り出した俺。
立ち塞がる人間を殴り倒す様にして 漸く玲子の側に辿り着いた時 
俺は喚き散らしながら 玲子を抱きかかえた。
白い華は・・・・みるみる 紅い華に 変わっていった。
『誰か 早く救急車を呼んでくれ!!!』
玲子は一命を取り留めたが 『植物状態』 と言われる姿になった。



単純な信号無視による一旦停止を怠った車の単独事故。
他にも数人の方を傷付けた相手は まだ 免許取り立ての若者だった。
一番外側を歩いていた玲子の身体を撥ね 他の数人にも当たって急停止をした。
宙に浮いた玲子の身体は 路上に叩きつけられ その時に 頭に外傷を負った。
『悪夢』 だと 何度呟いた事か!
眠れない夜を 何日 過ごした事か・・・・。
加害者に殺意すら感じた事も あった。



『・・・・・・満三ヶ月以上経過した状態
 (1)自力移動不可能
 (2)自力摂食不可能
 (3)尿失禁状態にある
 (4)・・・・・     
 (5)・・・・・
 (6)・・・・・・・・』 
等 医学的に医者に説明されても 俺にはどうでもよかった。
玲子は 確かに 言葉も発する事は出来ない。
動く事も出来ない。
意志の疎通も出来ない。
けれど 生きている。触れる手のぬくもりは 以前となんだ変わってはいない。
まだ 虚ろな瞳ではあるが いつか この瞳に意志が戻ってくると 俺は信じている。
俺は未だに玲子に恋をしている。
この恋がこのまま終わる訳がない。
俺達には まだ これからの未来が 待っている筈なんだ。



日曜日の朝・・・・今にも泣き出しそうな空模様だった。


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          『再会』 短編小説 (3) 『散った白い華(花)』
by deracine_anjo | 2005-01-12 08:51 | 『再会』 短編小説

『何故 図書館司書って仕事を選んだの?』
それが 俺が始めて玲子に聞いた質問だった。
零れんばかりの微笑で 即答が返ってきた。
『簡単な事よ。本が好きだから。あの本の手触り 匂い そして それぞれの本のその中に沢山の著者の知識と感情が織り込まれている。それをいつでも 感じる事が出来る仕事なんて 素敵でしょ!!』
『えっ それじゃあ あの図書館にある本は 全て読破したの?』
『ううん、まだ。でも するつもりよ。』
『凄い・・・。』
『でもね・・・本当は 始めから司書に成るつもりはなかったの。笑わない?』
『ああ、何を聴いても 笑わないよ。』
『絶対約束よ。もし笑ったら 此処の食事は 矢崎さんの奢りですからね。実は私 法律家に成りたかったの。弁護士。大学時代 アルバイトで 法律事務所で働いていた事もあるの。
お茶くみだけどね。で、実際 働かせて貰っている間に私の頭では無理な事が分かって それでも凄く悩んだの。司法試験目指していたから 図書館は私の行きつけの場所。
それで これからの事考えている時 突然 閃いたの。決して 勉強は嫌いじゃないし 本は大好きだし 此処で働いたら 楽しいだろうなって。変でしょ、私って。』
『少しも変じゃないよ。何だか尊敬するよ。』
『じゃあ、今度は 私が質問する番ね。どうして設計家に?』
『簡単な事だよ。好きだったから!!』 
『やだ それじゃ 私の真似してる。真面目に答えて。』
『真面目だよ。俺の家は 材木店だったんだ。だから 俺のオモチャは木がオモチャだった。
オヤジは暇を見つけては 木の話や手作りのオモチャを作ってくれていた。
その内 残り木を貰っては自分で色んなモノを作るのが楽しくなって いつか 自分が設計した家を建てたいと思い始めた。ぬくもりのある木の家をね。』
『ごめんなさい。茶化したりして。そうなんだ。素敵な夢ね。ぬくもりのある木の家・・・・』
『ああ 其処には 暖かい家庭があって 笑いが絶えない。父親と子供は日曜大工で 庭にベンチなんかを作ったりしてる・・・。それを 嬉しそうに母親が 花に水をやりながら微笑んでる。・・・・・何だか 照れくさいな。こんな事話すと。』
『そんな事ない!!矢崎さんがお父さんだったら きっと実現できる夢だわ。』



此処で 俺は夢から醒めた。
昨日 あのまま眠ってしまったらしい。
窓から差し込む日差しに 慌てて時計を見ると 6時を回っている。
慌ててシャワーを浴びて インスタントコーヒーだけ飲んで 家を飛び出した。
通勤電車の中でも 俺は今朝見た夢の事をボンヤリ思い出していた為に もう少しで降りる駅を乗り越しそうになった。
出社した途端 室長から呼ばれた。
(前田さん邸の話しかな?
静かにドアをノックすると 
『矢崎か?入ってくれ。』相変わらず 渋い声で 室長の長谷部さんの声が返ってきた。
『失礼します。おはようございます。』
『おはよう。矢崎 朝一番で悪いが 前田さん宅に連絡して伺ってきてくれ。本決まりになりそうだ。良くやってくれた。』
『本当ですか?気に入ってくださったんですか?』
『ああ。相手はご年配の方だから 矢崎のコンセプトが随分 気に入られたみたいだ。
細かい資料を用意して 早速伺って来てくれ。頼んだぞ。
んっ?矢崎 顔色が少し悪いようだが 大丈夫か?奥さんの事で 何か有ったとか言うんじゃないのか?遠慮なく 私に相談しろよ。病院には行っているのか?』
『ありがとうございます。大丈夫です。昨日 ソファーで眠ってしまったのでその所為でしょう。
妻は相変わらずですが 治ると信じてますから。ご心配をお掛けして 申し訳ありません。
では 早速 仕事に取り掛かります。失礼します。』
『何かあったら 相談しろよ。分かったな。』
ドアを閉める瞬間まで 長谷部室長は 俺を気遣ってくれていた。
ありがたかった。



俺は 気持ちを切り替える様にデスクのPCのスイッチを入れた。


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           『再会』 短編小説 (2) 『出会い』
by deracine_anjo | 2005-01-11 09:15 | 『再会』 短編小説
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『裕也さん お話がありますの。お時間 頂けますか?』
帰宅した途端 静かな部屋に鳴り響いた電話のベルに 一瞬 嫌な感じを覚えた俺は 躊躇いながらも 少し身構え受話器を取った。
電話の相手は 玲子の母だった。
『今晩は。ご無沙汰しております。』
『こちらこそ 裕也さんに 御迷惑をお掛けしておりますのに 偶にしかお電話お掛けしなくてごめんなさいね。お変わりありません?もしかして 今お帰りに成られたばかりでは・・・』
『ええ、丁度 今しがた戻って来たところですが 構いません。お義母さん どうかされたのですか?』
一瞬 沈黙があった後 義母は静かに言葉を繋げた。
『今週の日曜日 何か御用事ありますか?もし 予定がなければ お逢いしてお話ししたい事がありますの。』
嫌な予感がした。けれど 断る事は出来ないだろうと腹をくくって 出来るだけ自然に
『いえ 病院行くつもりでしたから それ以外は 別に予定はありませんが。』
『では 病院に行かれる前に 我が家に寄って頂けますかしら?主人もお持ちしておりますから。』
『はい。分かりました。では 何時頃 お伺いしたら宜しいですか?』
『偶には 私の料理でおもてなしをさせて頂きたいから お昼にでもというのは 如何かしら。たいした物は 出来ませんけど。』
『お義母さんの手料理は久しく頂いていないので では 楽しみに伺います。』
『それでは お待ち致してますわ。お疲れの所を すみませんでした。おやすみなさい。』
『失礼致します。おやすみなさい。』



電話を切った俺は そのままキッチンに行き 冷蔵庫から缶ビールを取り出し一気に飲み干した。2本目を手にぶら下げて リビングに戻った俺は ソファーに身体を投げ出し 暫く今の義母との会話を 思い出していた。
マンションの下から 救急車がサイレンを鳴らして走り去る音が かすかに聞こえ 俺は思わず目を閉じた。
いつまで この音に苦しめられるのだろう。
(畜生!!)唇を噛み締めながら 俺は心の中で叫んでいた。



1年前・・・・3回目の結婚記念日に俺は玲子と銀座で待ち合わせをしていた。
某有名店の宝石店の前だった。
玲子に結婚記念日のプレゼントは何がいいかと 聞いた俺に にこやかに微笑みながら
『相変わらず裕也は自分で考えて 私を驚かせてはくれないんだから。
でも 実は私も こうなるだろうって思って 決めてあるの。何でもいい?』
『はいはい。でも 余り高価な物は 俺には・・・あっ、玲子が一番分かっているか。』
『はい、旦那様。私が一番存じておりますから 御安心下さい。ふふっ。』
『で・・・どうすればいいんだ?』
『銀座で待ち合わせをして そのお店に一緒に行って それからお食事・・・じゃ ダメかしら?』
『よかった。これ買ってきて・・・って言われて 一人で行かされるのかと思ったよ。オッケー。
じゃあ その日は お互いに 残業無しで 銀座で待ち合わせだな。レストランは?』
『いつもの あのお店でいいから 私が予約入れとくわ。』
『んっ 分かった。で・・・請求書は 全て 俺なんだな。』
『ピンポーン♪』
思わず抱きしめた玲子は 暖かかった。




あの日まで・・・・・。



         

           『再会』  短編小説 第一章  『結婚記念日』
by deracine_anjo | 2005-01-10 14:00 | 『再会』 短編小説