『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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カテゴリ:『DINKs』  短編小説( 10 )

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来年の春 私達夫婦に 新しい家族が増える事になった。

41歳・・と言う年齢(正確には 42歳)の新米ママが 誕生する訳だ。
俊介は 勿論 大喜びだったが 玲子が事の他 喜んでくれた。
『女の子だったら 雄介と結婚させよう!』・・・なんて 気の早い事まで言い出す始末で 俊介もお気に入りの雄介くんだったら 『大歓迎だ!』等と 盛り上がっている。
(けれど 正直 私も そうなればいいな・・・なんて 思ったりしているのは 内緒である。)
俊介のご両親も 私の両親も 始めは『キツネにつままれた』様な顔をして驚いていたが、もうその後は 大変な喜び様で 何だか 少々恥ずかしい様な・・・・嬉しい様な・・・そして 申し訳なかった・・・と 色んな想いが 心の中で一杯だった。 
仕事仲間も 一様に驚きと歓迎で 毎日お祭りの様な感じになってしまっていた。




雄介くんが 玲子との生活に戻ってから 私達の中にポッカリ穴が空いてしまった様な日々が続いた。玲子が 社会復帰するまで 何かと玲子の家を訪ねる度に その開いた穴が大きくなっていった。
俊介も言葉には出さなかったけれど ふと 淋しそうな顔をする瞬間が増えていった。
ある休日 気分転換に ドライブでもしようと言う事になり 箱根まで車を走らせた。二人きりで乗っている車の中の空気さえ 何か物足りない淋しさを感じていた。
芦ノ湖が一望できる場所で車を停め ボンヤリ煙草を吸っていた俊介が
『恵美子 生んでくれないだろうか・・・・どうしても 嫌だと言うなら 無理にとは言わないけれど 今回 雄介くんとの生活の中で こういう日々があってもいいなと思い始めていたんだ。そして 雄介くんが居なくなって その気持ちが一段と強くなってきてしまった。
僕達は 今迄 子供の事について 何となく暗黙の了解で暮らしてきたけれど 考えてみてはくれないだろうか。直ぐに答えを出さなくてもいいから・・・・』
突然の俊介の言葉に 一瞬驚きはしたけれど 私は即座に
『高齢出産だから しっかり協力してくれる?』と 微笑みながら答えていた。




玲子の病気というアクシデントから始まった日々。
そして 俊介と私の気持ちが 一日一日と 変化していった。
それまで 自分達が『親になる』・・・と言うことから 何処かで逃げていた部分もあった。
仕事も面白かった。遣り甲斐も感じて 互いに充実していた。
お互いを尊重しあい 尊敬し 愛していた。
そして 今 新しい命が芽生えた事で 又 私達の心は 強い絆で結ばれたような気がしている。
これから先 何が待っているか 全てが未知の世界。
色んな事が あるだろう。
けれど 俊介とお腹にいるこの子と共に 乗り越えていける気がしている。




朝早く目覚めた私は 朝日を見詰めながら そっと呟いていた。

『新米ママだけど よろしくね!!』・・・・・と。



            『DINKs』 短編小説 最終章 『芽生え』




追記:
相変わらずの拙い言の葉に お付き合い頂きまして
ありがとうございました。

                             by deracine_anjo
by deracine_anjo | 2004-11-24 07:54 | 『DINKs』  短編小説
 
玲子の退院前日 私は数週間生活感のなかった部屋を 掃除に訪れた。
当座の食料品や日用品も 揃えて置かなければならないと思ったからだ。
主が居なかった部屋は 寒々として 少しかび臭い様な感じがした。
窓を全て開け放ち 掃除機を掛け 薄っすら埃が被っているテーブルなどを拭きながら 私の心に言葉では言い表せない 言葉にしては成らない・・・そんな想いが 家具を磨く手に 思わず力が入っていた。
『痛い!!』
思わず食器棚の角で 足をぶつけてしまい その途端 その場で私は泣き崩れていた。
玲子の手術の成功も明日 無事退院出来る事も 全て嬉しい事。
そして それは 短い間ではあったが 俊介と雄介くんとの三人での ママゴトの様な仮装家族の幕が下りると言う事なのだ。始めて (淋しい)と 自分の心が 泣いている事に気が付いてしまった。
涙が枯れるまで 私は独り 床に座り込んだまま 泣き続けていた。





玲子の病室を訪れると 概に俊介がもう来ていた。今日は外で食事をしようという事で玲子の病室で待ち合わせをしていたのだ。病室は 明るい笑い声に包まれていた。私も普段通りのままその輪の中に 溶け込んでいた。
一番ご機嫌なのは 当然雄介くん。そして 玲子。
ふと 俊介に目をやると 心なしか何かを考えている様に感じがしたが 取り敢えず 玲子に
『はい これ部屋の鍵。私の事だから いい加減だけど ザッと掃除をして シーツなんかも洗って取り替えておいた。後 冷蔵庫には 私の手料理で悪いんだけど 冷凍した物とかお野菜やお肉なんかも 入れておいたから。当面 一日おき位には 顔を出すけどね。』
玲子は深々と頭を下げ
『何から何まで 本当にありがとうございました。言葉では言い表せない位 感謝してます。
俊介さんにも 本当にご迷惑をお掛けしました・・・・』
まだ 言いかけている玲子の言葉を 遮る様に 俊介と私は同時に
『もう お礼はいいの!!友達なんだから。何より元気なってよかった。』
『よかった、よかった。』雄介くんが 其処だけを繰り返してにこやかに真似る姿に 思わず私達は 微笑んでいた。




翌日 私達は 会社を休み雄介くんを連れて 病院に向かっていた。
はしゃぐ雄介くんとは対照的に 私達は心無しか心が 沈んでいるのを互いに感じながらもその部分には触れないで 唯 玲子が待つ病院へと向かっていた。
病室に入ると 概に玲子は 洋服に着替え 荷物の整理も済ませて待っていた。
『ママ~~~。』思わず駆け寄る雄介くん。
まだ 多少の痛みはあるだろうに その雄介くんの小さな体を思い切り抱きしめる玲子。
私達の役目は・・・・・(終わった)・・・・そう思った瞬間 不覚にも涙が零れ 私の肩にはそっと触れる俊介の暖かい手が添えられていた。
『もう 準備は万端かい?』
努めて明るい声で 俊介が尋ねると 玲子がにこやかに微笑みながら
『ええ もう いつでも オッケーです。』
『ママ お家に帰れるの?』雄介くんが 玲子に抱きついたまま無邪気に尋ねる言葉に 優しく
『雄介 ゴメンネ。お家に帰ろうね。でも その前に チャンと おじちゃま達にお礼言った?』
『ううん。まだだよ。』
『じゃあ チャンと ありがとうございました・・・って 言わなきゃダメよ。』
『うん。おじちゃん おばちゃん ありがとうございました。』
『はい どう致しまして。又 遊びに来いよ!!』俊介が 雄介くんの頭をクシャクシャと撫でながら 笑っていた。
でも 心が泣いているのが 私には 伝わってきた・・・・。




玲子と雄介くんをマンションに送り届け こ一時間位して 私達は 帰ることにした。
玄関先まで見送る玲子は 今一度 頭を深々と下げた。
『もう いいって、玲子。疲れているだろうから 少し横になって。シチューはもう暖めてあるから。何かあったら 直ぐに電話してね。』
『今更 遠慮なんかするなよ!!じゃあ 雄介くん 又な。』
『おじちゃん おばちゃん バイバイ。又ね。』
幼い雄介くんの言葉に 私達は救われる様に 部屋を後にした。




帰りの車に乗り込んだ私達は 互いに無口なまま 車窓から見える夕日を 眺めていた。


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          『DINKs』 短編小説 (9) 『別れの時』
by deracine_anjo | 2004-11-23 15:44 | 『DINKs』  短編小説
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夜風に当たりながら 私は暫くの間 今日病室で 玲子と話した言葉を 思い出していた。




明るい部屋の中では 俊介と雄介くんの 笑い声が微かに聴こえてくる。
『風邪を引くから 恵美子も そろそろ部屋にもどれよ。』
そう 声を掛けてくれた俊介に 微笑みながら
『ありがと。もう暫くしたら 戻るわ。』そう答えながら 私の心は 少し 行き場を失って さ迷っていた。
退院の日取りも決まった玲子に 預かっていた鞄と手紙を返す時の会話を 思い出しながら・・・・・。
玲子に それらを返しながら冗談めかしに 
『遺言状は不要だったわね。』と 告げた私に 静かに玲子は
『気が付いてたの?』と答えたのであった。
『嫌だ、冗談で言ったのに。』私は 自分の無神経な言葉に戸惑い慌てた。
そんな私を 包み込む様な眼差しで見詰めながら 玲子は言葉を続けた。
『勝手な御願いばかりして 私は 恵美子に何一つ真実を告げていなかった。本当にごめんなさい。少しの間 私の話を聞いてくれる?』
私は 黙って頷いた。




玲子の話では 雄介くんの父親は 世間でいう『不倫』の関係で会社の上司だという事だった。相手は 認知だけでもして 責任はとると言ったらしいが 玲子はそれを断った。その代わり 子供は絶対に産んで自分ひとりで育てる。会社に復帰する時に 何か問題が起こるようなら 影ながらバックアップしてくれれば それだけで構わない。
養育費なども1銭も貰ってはいなかった。唯 今回の事があって 始めて 
雄介くんの父親になる相手に 少しまとまったお金を用意して貰ったらしい。
それが もし自分に何かあった時に 雄介くんの役に立つ時が来ると思った。
そして 私宛の手紙には 出来れば雄介くんを 婿養子に迎えてくれないだろうかという内容だったらしい。法的な手続きは もう済ませていた。
と言うのも 相手が 万が一の時には 自分が引き取ると言って来た事が 切っ掛けで 私達夫婦には申し訳ないが 勝手にだが雄介くんの将来は 私達夫婦に一任するという手続きを弁護士を呼んで 書類を作っていたと言う事だった。





『本当に 自分勝手な事してごめんなさい。恵美子達になんの相談もせずに・・・・。でも 相手の家庭の中に雄介を飛び込ませるなんて 考えもよらないし ましてや施設行きなんて考えられなかったの。本当にごめんなさい。』
涙ながらに語る玲子の姿に 側にいた雄介くんは
『ママ どうして泣いてるの?まだ お腹痛いの?僕いい子でいるから 泣かないで。』
涙ながらに玲子を慰めている姿。
正直 玲子の告白には驚いたが 怒ってはいなかった。
唯 一言 言っておいて欲しかったけれど・・・・。
『玲子。泣かないで。雄介くんが心配してるじゃないの。水臭いな~~~。一言 私に相談しては欲しかったけど もう その必要は無くなったんだし。又 雄介くんと頑張って生きて行ってくれれば嬉しいし 今度からは もう少し 私に正直に相談してね。独りで 何もかも抱えこまないで・・・・約束よ!!』
『本当に ごめんなさい。これからも 友人として 付き合ってくれる?』
『当たり前じゃないの!!でも この事は 私達の胸の中にだけでしまって置きましょ。俊介には 言わないでおく。いいかしら?』




『恵美子おばちゃん 風邪引くよ!!』
にこやかに微笑みながら 雄介くんが私の後ろで俊介と共に 立っていた。
『ありがとう。そうだね。寒いから お部屋に入ろうね。ありがとう。』
(もしかして 私が この小さな雄介くんの母親に成っていたかもしれなかった・・・・?)




小さな背中を見詰めながら 不思議な感覚に 私はいつまでも包み込まれていた。



           『DINKs』  短編小説 (8)  『告白』

 
by deracine_anjo | 2004-11-22 04:29 | 『DINKs』  短編小説
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玲子の回復は 順調だった。
医学の進歩は勿論だろうが 玲子の強い意志が その順調な理由である事は一目瞭然。
一日も早く 雄介くんとの生活 社会復帰・・・を目指し 翌日から 自力で歩き キチンと食事を取り 先生から 『退院ですよ』という言葉を 聞ける日を待っていた。
それは 私達も雄介くんも同じ気持ちだった。
唯 焦りは禁物である。無理をすれば 結局 又 哀しい思いをするのは 雄介くんなのだから・・・。
事有る毎に それだけは 玲子に口をすっぱくして 私は 言い続けていた。
その度に 玲子は微笑みながら
『はい。恵美子先生』と笑って答えた。




始めは 中々 打ち解けてくれなかった雄介くんも 此処に来て随分変わってきた。
母親の頑張る姿が幼い雄介くんの心にも 大きく影響しているのだと思う。
今 自分が我儘を言っては ママが哀しむ・・・・そう思っているようだった。
それに 予想外に 俊介が子煩悩だという発見が 私には 少しばかり ショックであった。
あれ程 仕事人間だった俊介が 出来るだけ 夕食時には 三人で食事をしようと 早く帰ってくる事から始まって 休みの日には 病院にも行くが その後に 公園で キャッチボールをしたり 遊園地に出掛ける計画を立てたり・・・・といった感じの日々の中 私は 複雑な思いで 二人を眺めていた。
打ち解けてくれるようになった雄介くんを挟んで 『仮想家族』は 余りにもしっくりと収まっていた。




今にして思えば 私達は 互いの仕事が面白くなり始めていた所為もあって 暗黙の了解の様な状態で 子供を作るとか作らないとか・・・といった会話を 殆んどしたことが無い。
それが たった数週間の間で 何かが 少しづつ 違ってきている様な気がして仕方が無かった。
勿論 玲子が退院して もう大丈夫だとなれば 雄介くんとの生活は 終わりになる。
けれど その後に 私達夫婦は どうなるのだろうか・・・。
俊介は 何を考えているのだろうか・・・・。
また 元の私達の関係に戻るのだろうか・・・・。
それとも・・・・。
次第に 私の中で 始めに感じた 違和感・・・・の意味が 見えてきた気がする。
でも・・・・俊介の気持ちは 気持ちとして 私の中で芽生えている気持ちは・・・・と考えると逃げている訳ではないが・・・まだ ハッキリとしない。




そして・・・・玲子の退院の日が 決まった。


         
           『DINKs』 短編小説 (7)  『仮想家族』
by deracine_anjo | 2004-11-21 16:17 | 『DINKs』  短編小説

手術の前日 病室を訪れた私に 玲子は 一通の手紙と小さな鞄を渡した。




雄介くんは 玲子のベットに潜り込み 無邪気にお気に入りのぬいぐるみを抱きしめて 眠っていた。起さない様に そっと ベットから起き上がり 微笑みながら 雄介くんを見詰める瞳が 切ない位に 穏やかで優しい。
そして 私を見詰め やはり優しい瞳を向け 微笑みながら呟いたのだった。
『先生の説明でも 何の心配も要らないとは言われたけれど それでも 何が起きるかは誰にも分からない。だから もし 私に 何か あったら この手紙を読んで欲しいの。
何も無ければ 捨てても構わないし 返してくれてもいい。兎に角 この鞄と一緒に預かっておいて。御願い。』
『何も無いわよ!!無事に手術は成功!2週間後には 退院!頑張ってよ!でも 兎に角それは 預かっておくわね。』
『ありがとう。それと 昨日頼んだ承諾書 俊介さん 嫌がらなかった?私には身内らしい人が居ないから 頼めるのは 俊介さんと恵美子だけだから・・・・。』
『嫌がるわけ無いじゃない。チャンとサインして 持って来たわよ。明日は 俊介も来るけど・・・いいかな?』
『忙しいだろうに 色々 ごめ・・・あっ!言っちゃいけないんだよね。でも 本当にありがとう。恵美子達が居なかったら・・・・』
それ以上は もう 言葉には ならなかった・・・・
玲子は 静かに 泣いていた。
その肩を 私も抱きしめながら 不覚にも 泣いてしまった。
(しっかりしろ!恵美子!)




手術当日 爽やかなお天気だった。
俊介と顔を見合わせて 
『この天気と同じで 手術は 成功だね。』
ここ数日の わだかまりも 何だか どうでもいい様な気持ちになる位 俊介の言葉に嬉しさを感じた。
私達は 雄介くんと共に 病院に向かった。
何も分からない雄介くんは ママに会えると いつもの様にご機嫌で 車に乗り込み 玲子が好きな『花』を 片言だが 口ずさんでいた。
(大丈夫!何も ある筈など無い!!)
私は 昨日 預かった手紙と鞄の事を ふと思い出しながら 自分に言い聞かせていた。
『恵美子、そんな怖い顔して どうしたんだ?大丈夫。僕が保証する!だから 玲子に会ったら 普通で居るんだよ。雄介くんも不安がるよ。』
『あっ、ごめん。そうね、しっかりしなくちゃね。ありがとう 俊介。』
『雄介くん 早くママに会いに行こうね。』
振り向いた私の顔を見て 満面の笑みを浮かべて 大きく頷く雄介くんの為に (玲子 頑張ってね!!)心の中で 呟いていた。




折角 ママに会えたのに 急にママが居なくなってしまって 泣きじゃくっていた雄介くんは 泣きつかれて眠っている間に 玲子はストレッチャーに乗せられて 病室に戻ってきた。
俊介と私は先生に手術の経過を聞く為に 別室に呼ばれた。
『手術は無事終わりました。予定通り 子宮は全摘しましたが 卵巣は綺麗でしたので残してあります。転移もありませんでしたので 御安心下さい。後は 麻酔が醒めるだけですので何かありましたら 看護婦に申し付けてください。僕は今夜は当直ですから 御安心下さい。』
私達と大差の無い年齢の先生の言葉に これ程までに勇気付けられる言葉を頂いた私達は深々と頭を下げ
『本当にありがとうございました』と告げるのが 精一杯だった。
『では。』そう言われて 部屋を後にされた先生がドアを閉めた途端 私は溢れる涙を止める事が出来なかった。
そんな私を 俊介は抱きしめながら
『よかった。よかった。』と何度も 何度も 耳元で繰り返していた。





病室に戻った私達は そっと まだ麻酔で眠る玲子と泣きつかれて眠っている雄介くんを 唯 黙って見詰めていた。
いつまでも・・・・・


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            『DINKs』 短編小説 (6) 『手紙』
by deracine_anjo | 2004-11-17 10:17 | 『DINKs』  短編小説
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仕事が終わって 玲子の病院に向かう間も 私の心は 何か澱のような物が引っかかっている様な気がしていたが 今は そんな事を考えている時ではないと 自分に言い聞かせながら 雨の道を 玲子と雄介くんが待つ病院への道を急いだ。
玲子が個室である事と 病院側の計らいで お昼間は 雄介くんは玲子と共に病院にいる。
そして 私が仕事を終えて 迎えに行くという事になっていた。
出来るだけ スタッフに簡単だが状況説明をして 暫くの間 私自身の仕事を出来るだけ周りでホローしてくれる様に 頼んだが 正直 何処まで その体制で乗り越えられるか不安ではあったが 元来 楽天家の私は (何とか成るさ♪)・・・と 自分に言い聞かせていた。




約束の時間を少し過ぎて 病室のドアをノックしようとした瞬間 中から 
男性と玲子の声が 聴こえてきた。
静かだが 玲子の毅然とした言葉が 微かだが聞こえてくる。
ドクターの回診時間でも なさそうだ。
考えた末 私は 踵を返して 又 喫煙所で缶コーヒーを飲みながら 暫くの間 時間を潰す事にした。
ボンヤリと煙草の煙を見詰めながら ふと
(玲子の恋人・・・雄介くんの父親なのでは?)と 思った。
外資系の企業に勤めているとはいえ 所詮 独り身。
シッカリ者の玲子でも 今回の様な事になれば 必要になってくるのは やはり(お金)の問題。個室料金だって 保険で戻ってくるとはいえ 当面は 自己負担だ。
何だか 詮索している自分が嫌になって 今一度 病室に向かった。




ドアの前に立ってみると 今度は中は 静かだ。時折 雄介くんの声がしている。
ドアをノックして 私は病室に入っていった。
『ごめん。遅くなっちゃって。変わりない?雄介くん こんにちわ♪』
私は敢えて さっきの事を聞かなかった。
玲子自身が話したければ 話すだろう。
『外は雨みたいね。仕事で疲れてるのに ごめんね。』
『玲子 毎回 ごめんね・・・って言うの 止めにしない?減っちゃうよ~~。』
『うん 分かった。ごめん。あっ!!又 言っちゃった。』
病室の花の水を入れ替えようと テーブルに目をやると 見慣れないオモチャが置かれていた。
『おじちゃんがくれたの。』
無邪気に笑いながら答える雄介くんの言葉に さりげなく
『そう 良かったね。で これなんて言うの?』
『おばちゃん 知らないの?ガンダムだよ!!カッコいいでしょ。』
『うん カッコいいね~~。おばちゃんに 色々 教えてね。』
玲子は 何も言わず 私達の会話を 静かな瞳で 見詰めていた。




一通り 用事を済ませ 雄介くんを連れて帰ろうとした途端 ひと騒動が持ち上がった。
当然だろう。
一日 玲子に言い聞かされていただろうが いざ 私と共に 病室を出なければ成らないのは 3歳の子供にとっては 恐怖と哀しみ以外の何ものでもないだろう。
『僕 いい子にしてるから ママと此処でお泊りするんだ!!』
泣き叫ぶ雄介くんに 玲子は 優しく
『雄介 今日 お約束したでしょ。ママが元気に成るまで 少しの間 この恵美子お姉ちゃんのお家に お泊りしなくてはならないって。朝になったら 又 恵美子お姉ちゃんが 連れてきてくれるから いい子で 我慢してくれるって。忘れちゃった?』
『雄介の為に ママ頑張るから 雄介も 恵美子お姉ちゃんの言う事 良く聞いて 頑張って頂戴、ね。』
(健気)・・・・というのは この事だろう。
一生懸命泣き止もうとして しゃくり上げながらも 雄介くんはジッと玲子の言葉を噛み締めるように聞きながら 大きく頷き
『ママ 早く元気になってよ。お約束だよ。僕も いい子でいるから。』
雄介くんを強く抱きしめた玲子の瞳から 大粒の涙が落ちた。
私は 涙を見せない様に 窓の外を黙って眺めていた。




帰宅すると 俊介は今日も 早く帰っていた。
戸惑う雄介くんの手を握りしめながら 
『仲良くやろうね♪』
この小さな体の中に 沢山の想いを抱きしめているのかと想うだけで 又 涙が出そうだったが 元気良く
『俊介おじちゃんも もう 帰って 雄介くんの事 待ってるよ。急ごう!!お腹も空いちゃったしね!』
部屋の鍵を 差し込もうとした途端 ドアが開き 満面の笑みを浮かべて俊介が立っていた。
『窓から 車が入ってきたのが分かったのさ。雄介くん いらっしゃい!』
はにかみながらも雄介くんは 小さなスリッパ(玲子の自宅から持ってきた)に 履き替え 恐る恐る俊介と共に リビングに向かった。
何だか 私 取り残された様な気持ちになったのは・・・・何故だろうか。




案の定 俊介は 雄介くんを歓迎し 嬉しそうだった。
そして 今まで 『男親』 を知らないで育った雄介くんも 心なしか 嬉しそうだった。




私の心に  小さな波が  起った事は  誰も気が付かなかった。


          
            『DINKs』 短編小説 (5)  『思わぬ波紋』
by deracine_anjo | 2004-11-15 12:54 | 『DINKs』  短編小説
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私達は 大学時代から友達として付き合い始め 喧嘩らしい喧嘩など 一度もした事が無いと言っても おかしくない位 自然な感じで互いの波長が合い 今思うと 逆に合い過ぎて 『男と女』・・・という感覚より 身内の様な親近感の中で学生生活 そして 社会人と成った後も その感覚の延長線の儘付き合っていたので キューピットの玲子がヤキモキする位 私達はある意味で 奥手であった。
それでも ある瞬間 俊介を『男性』として 改めて認識した時 私は 結婚するのなら この人以外には 考えられないと思った。
俊介もプロポーズをしてくれた時に 同じ様な事を 私に言ってくれた。
そして その後も 私達は 何処か 学生時代からの延長線的な感覚の儘 この10年余りを過ごしてきたのかもしれない。
昨夜の 俊介との会話を思い出しながら 仕事場へと車を走らせながら 私は 新しい『俊介』に 出会ったような気分を思い出していた。




私が 雄介くんを隠しているとでも言うかのように 玄関先に迎えに来た俊介は 私の後ろに回ってまで 雄介くんの姿を探し ガッカリした様子で リビングに戻ったのだった。
そして 次は 私が 驚かされる番となった訳だ。
滅多にキッチンで料理などしない俊介が 雄介くんの為に作ったと思われる 少々不恰好な『オムライス』まで テーブルには 置かれていた。
途端に 朝から何も口にしていなかった私は 空腹を覚えたが 兎に角 この部屋に置かれたオモチャの事も・・・いや それよりも あの電話での応対の事を含めて・・・玲子と雄介くんの事を話すのが先決だと思い 俊介に 出来るだけ冷静に言葉を選びながら 話し始め様とした。
(今迄に これ程 相手のココロが 分からない事が あっただろうか・・・・)
私の中で 何かが そう 囁いていた。




『恵美子・・・・待ちくたびれて お腹がペコペコだよ。余り上出来とは言えないけど 食事をしながら 話をしようよ。冷蔵庫の中にも 色々 買って来てあるから。』
俊介は いつもと変わりない様子で ワイングラスを用意しながら 洋服を着替えに行った私に向かって そう叫んでいた。
その声を 聞きながら 私のココロは 何かモヤモヤとした気分を拭えないでいた。
冷蔵庫を開けた私は 又しても 度肝を抜かれた感じだった。
青山で評判のケーキ屋さんのケーキまで 入っている。
確かに お腹が空いていると 余計な事まで言って喧嘩になりかねないかもしれない。
(今は 兎に角 冷静になろう!)
俊介が買って来てくれたお惣菜に ひと手間掛けて食卓に並べると 何と豪華な食事。
食べ始めると 人間とは不思議なもので 気持ちが穏やかになってくる。
こうして 俊介が一生懸命作った『オムライス』も 思ったよりも上出来で 
彼の真心の味に思えてくる。
おかしなものだ。




人心地ついて 私は 今日の出来事を話す事にした。
女性の病気の事を口にするのは 一瞬躊躇ったが 命にも関わる事だし 雄介くんを預かる経緯を話すには 避けて通れない。
玲子がシングルマザーになった時も 俊介は
『玲子らしいな・・・』としか言わず それ以上何も私から聞こうとはしなかったし 反対もしなかった。雄介くんが生まれてからも 私と共に昔と同じ様に付き合っていた。
でも その前に 私の心のモヤモヤを解決したくなった。
『俊介 会社での電話 何か気に障ったの?』
予想しなかった私の話しの流れに 一瞬驚いた表情を見せたが 到って普通に
『ああ あの時 デザイナーと少し遣り合ってて イライラしてたんだ。それがどうかした?』
『どうかした・・・って あんな事務的な言い方されて 一方的に電話を切られた私の気持ちはどうなるの?まして 玲子の病気の事や雄介くんの事で 心細い思いしていたのに。』
暫く沈黙があったのち 俊介は穏やかだが ハッキリとした口調で
『君はもう あの時 決めていたんだよね。僕に相談した訳じゃない。その事を 恵美子はどう思っているの?勿論 反対なんかする訳ない。僕にとっても 大事な友人の玲子が困っている時に 協力しない様な男じゃないよ。でも 前後が少し違わないかい?』




始めてだった。
俊介の優しい言い回しの中に 何かを感じた。
男としてのプライドだろうか?
俊介の言っている事は 正しい。でも・・・あの時の雰囲気では・・・・・。
私自身 勝手に決めた事に対する後ろめたさの様なものを感じながら 電話を掛けたのも事実だ。
そして 俊介の言葉通り この雄介くんの歓迎振りを見ると 私が 俊介を傷付けた事になる。
けれど・・・・・。




玲子の病気の事 今後の事 雄介くんの事・・・・俊介に話しながら 
少しだけ 私の心の中に何かが芽生えたのは 確かだが それが 何か・・・・まだ その時には ハッキリとした姿が私の中でも 良く分からなかった。




ただ 互いに 始めて 『ごめん』という言葉が 出なかった。



           『DINKs』 短編小説  (4) 『わだかまり』
by deracine_anjo | 2004-11-14 04:21 | 『DINKs』  短編小説
回診の時間が来たので 席を外し 私は俊介に電話を掛け事の顛末を報告した。
余り仕事先に 電話を入れる事をしない私だが 事が事だけに・・・まして 俊介に相談もせず玲子の頼みを引き受けてしまった後ろめたさもあって 少しでも早く話さなければと想って 恐る恐る電話を掛けた私に対して 
俊介は 周囲の目も有ったのだろうが とても事務的に応対した後
『兎に角 詳しい話しは 帰宅してから・・・』と 一方的に切られてしまった。
そう言われて 切られた私は 暫く 呆然と携帯電話を 眺めていた。
俊介は 怒っているのだろうか?
何の相談も無く 勝手に決めた事を?
一時の感情だけで 行動したと想ったのだろうか?
釈然としないまま 私は 病院の近くにあった花屋へと向かった。
誰も まだ 見舞いに来ていないのか あの部屋は 寒々としていた。
花でも置けば 玲子の心も 少しは和むだろう。
私にも 時間が 必要だった。




一抱えの花束を抱えて病室に戻り ドアをノックしようとした瞬間 部屋の中から玲子の静かにすすり泣く声が 漏れてきた。
ドクターから 何か説明を受けたのだろうか・・・。
やはり 『子宮癌』だったのだろうか・・・。
私はもう暫く 玲子を独りにしておこうと そっと ドアを離れた。
余り煙草を吸う方では無いけれど 無性に吸いたくなって 喫煙所を探し ボンヤリ今買って来た花束を見詰めながら 俊介の事 玲子の事・・・そして 雄介くんの事を考えていた。
なのに 私の思考回路は 中々 思う様に動いてくれない!
徐に 煙草をもみ消して ナース・ステーションで花瓶を借り 花を生けて 玲子の病室に向かった。
(逃げても仕方ない。受け止めなきゃ!!)
自分を奮い立たせて ドアの前に立った。
もう 泣き声は 聴こえない。
私は 静かにノックをした。




『綺麗な花ね。恵美子 ありがとう。』
微笑む玲子の姿は もう 毅然としていた。
『この部屋 殺風景だから・・・。ゴメンネ、気が利かなくて。気に入ってくれた?』
私も いつもと変わりなく 玲子に微笑み掛けた。
『俊介さん 構わないって?怒って無かった?』
『どうして 怒るのよ。親友の大変な時に 協力しない様な薄情な男に見える?』
『ありがとう。本当に ごめんね。さっきの回診で 宣告されちゃった。早期だけど やはり癌だったみたい。子宮は全摘するけれど 卵巣は残るから 
ホルモンバランスの崩れの心配も転移もないみたい。手術は 一週間後。退院は 経過次第だけど 2週間が目安だって。』
玲子は 全てを受け入れる様に 淡々と 私に話した。
『そっか~~。決まりなのね。辛いだろうけど 乗り越えようね。雄介くんの為にも!!』
玲子は 大きく頷いた。




私は 玲子の部屋にいた。
今夜は 雄介くんと一緒に居たいからと言うので 私は 玲子がメモしてくれた荷物を取りに 玲子の部屋を訪れたのである。
シングルマザーとして 仕事と母親を見事にこなしている 整然とした清潔感溢れる部屋。
(玲子らしいなぁ~~~。)
何だか 誇らしい気持ちになってくる。
言われた場所には キチンと雄介くんの衣類やお気に入りのオモチャが置かれ 私はバックにそれらを詰めながら 始めて 私の頬に 涙が流れているのに気が付いた。
(私が泣いてどうするのよ!!シッカリしなさい、恵美子!!)
植木に水を与え 戸締りを確かめ 部屋を後にした。
(さて 今度は 俊介との戦いね!!)




駐車場に車を入れると 概に 俊介は帰宅していた。
ドアに鍵を差込み 勢い良くドアを開けた私の帰りを待ちかねた様に 俊介が玄関まで出迎えてくれた。そして・・・・
『あれっ、雄介くんは?』
リビングに入って 私は 驚いた。




部屋中に オモチャが 所狭しと 広げられていたのだった。


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         『DINKs』 短編小説 (3) 『思い掛けない出来事』
by deracine_anjo | 2004-11-13 10:52 | 『DINKs』  短編小説
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それは 何の予告もなく 突然に降って湧いた出来事から始まった。




私達夫婦の共通の友人であり キューピットでもあった野口玲子の一本の電話が 開幕ベルを 鳴らした。
彼女は 俗に言う『シングルマザー』。詳しい事は本人も話さないし 私もあえて 深く立ち入らないでいた為 その子供の父親が誰なのか・・・・何故 シングルマザーの道を選んだのかは 分からない。
早くに両親を亡くしている彼女なら 普通 家庭に憧れるような気がするが 彼女は 敢えてその道を選んだような気がするし 選ばざる負えない恋愛だったのかもしれない。
外資系の企業に勤めていた彼女は 産休を取った後 又 仕事に復帰し 生き生きと仕事と子育てを楽しんでいた。
私達夫婦も 玲子の子供には 何度も逢いに行って 少々 珍獣を見る様な・・・・未知との遭遇状態ではあるが 雄介くんを 可愛いと思っていた。




玲子の電話では クライアントとの打ち合わせの途中 玲子は意識混濁で倒れ救急車で 運ばれたという事だった。
よって 電話は 病院からだった。
そして 兎に角 直ぐに 来て欲しい・・・と言われ 私は 午後の仕事は スタッフに任せ 車で教えられた病院に駆けつけた。
病院に向かう途中 心の中は 不安で一杯になり 危うく私自身が 事故りそうになった。
何とか病院に辿り着き 病室の前に立った瞬間 何故か祈るような気持ち
と出来るだけ明るく会おう!!・・・そう思って 静かにドアをノックした。
『はい どうぞ。』
少々か細い声だが 玲子の声が聴こえて 私は ドアを開けた。




そこには 心持ち青白い顔をしてはいるが いつもの玲子がベットに横たわり 違うのは腕に何本かの点滴をぶら下げてる姿と スヤスヤ眠っている雄介くんの姿があった。
『恵美子 ごめんね~~。仕事あったんでしょ。』
『病人が気を使って どうするの?馬鹿ね!で どうしたの?話してて平気?』
小さく頷いた後 電動ベットを少しづつ起しながら ゆっくり 座りなおし
『其処の椅子に腰掛けて。飲み物は 冷蔵庫の中に 入ってるから。』
私は 言われるがまま ベット脇の椅子に腰掛け 玲子の言葉を待った。
一つ 深呼吸をする様にして 玲子は 私を見つめ 言葉を続けた。




『最近 自分でも体調が少しおかしいなとは思っていたの。
でも シングルマザーの私が 今 病気なんてしてる暇なんて無いじゃない。
疲れだろうって・・・誤魔化しながら暮らしてたんだけど そうもいかなくなったみたい。
まだ ハッキリとは分からないんだけど 子宮癌の疑いがあるらしくて 
今検査中なの。参った、実際。』
私は 一瞬 頭の中が真っ白になったが 此処で 私が深刻そうな顔を見せたらいけない!
そう心に呟きながら
『まだ ハッキリ 結果出ていないんでしょ!!それに 万が一 そうであっても 早期発見なら手術すれば 解決じゃない!!驚かせないでよ。』
コツンと オデコを突いた私に 玲子も微笑み
『それは そうなんだけど・・・一つ問題が・・・』
そう言って 側で眠る雄介くんに 目を向けた。




そうか!!玲子には 身寄りらしい人が殆んどいない。
玲子が こうして入院し 手術という事にでもなれば 雄介くんをどうすればいいのかが一番の問題だ。
仕事をしている時には 会社の保育施設に預けて仕事をする事が出来ていたが 休職となると そういう訳にはいかない。
それで 私に連絡をしてきた訳だ。
えっ・・・・でも 私は 子供を育てた事もないし 仕事もある。
3歳に成ったばかりの子供を・・・・この私が??
幾ら親友の頼みとはいえ・・・・と 頭の中は 混乱してしまった。




『ごめん。やっぱり 無理よね。恵美子だって仕事を持っているんだし 俊介さんだって困っちゃうわよね。気にしないで。病院と相談してみるから・・・・』
その途端 私の気持ちは決まった。
今 一番心細い想いをしている玲子に気を使わせるなんて・・・。
何とか成る!!
『代理ママ・・・了解よ!!但し 早く 元気になってね。そうじゃないと 雄介くん 不出来な代理ママに 怒って 不良になっちゃうかもよん♪』





人前で滅多に 涙を見せない玲子の瞳から 大粒の涙が 落ちた。



           
           『DINKs』 短編小説 (2) 『闖入者』
by deracine_anjo | 2004-11-10 16:31 | 『DINKs』  短編小説
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『DINKs』・・・・
この言葉が 巷で 広がったのは もう 何年前なのだろうか。
『女性のキャリアアップ!』だとか『男に頼らない生き方』なんかの
走りだったのか 子供を持たない夫婦を マスコミも煽る様な形で取りざたしていたのは・・・。




私達夫婦・・・・・広告代理店勤務 41歳 佐藤俊介とフラワーコーディネーターの私 恵美子41歳。
大学からの付き合いで 結婚して もう今年13年を迎える。
互いに 始めから (子供は要らない)だとか (二人の生活を楽しもう)等と考えていた訳ではない。
子供も 決して 嫌いな訳でもない。
唯 気が付いたら 結果的に (子供のいない夫婦)だっただけの事。
もっと正確に言えば 互いに 仕事が面白く成り始めていた時期と 
子供を持つ時期が 上手く噛み合わなかった為に 到って 単純に(このまま 二人きりでもいいか)と なっただけの事である。




しかし 当然 結婚とは お互いだけの問題で済まない部分もある訳で 一時期は 相当な俊介の家族からの プレッシャーもあった事は 事実。
俊介は 3人兄弟の次男だったが やはり 親御さんとしては 孫の顔が見たいと願うのは仕方が無い。
当然 私の家族とて 同じ事である。
けれど 俊介も 自然な形で自分の家族から私を守ってくれていたし 私は私で 馬耳東風を自分の家族には 決め込んでいた。
そして 私達夫婦は 互いの仕事に理解と協力を 惜しまない・・・・年に一度は互いに時間を作って 海外旅行を楽しみ 郊外に マンションを購入し 傍目には 順風満帆に見えていた。
実際 お互いに そう想っていた。




俊介も 仕事が面白いらしく 生き生きとしていたし 私を愛してくれていた。
私も 独立して 数人のスタッフを抱えて ホテルの結婚式や催事場での 
コーディネートの仕事も幾つか コンスタントな形で クライアント契約が出来 正直 仕事が楽しくて仕方が無かった。
そして 俊介を 愛していた。
けれど・・・・人生は それ程 甘くは無いと 始めて壁に ぶつかる事になってしまった。




その日まで 予想もしなかった・・・・。
このまま 全てが 上手くいくと 考えていたのが 今となっては 
不思議だけれど あの頃は 気が付かない内に 思い上がっていたのかも しれない。



              『DINKs』 短編小説 (1) 『選択』
by deracine_anjo | 2004-11-10 06:22 | 『DINKs』  短編小説