『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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カテゴリ:『shutter』 短編小説( 10 )

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あの夜の月を 僕は一生忘れる事はないだろう。
二人 転げる様にして非常階段を降りながら ふと見上げた月。
僕達の道を 照らし出してくれている様な 月の光りを・・・・・




何とか ホテルから抜け出した僕達は ホテルから少し離れた所で 
タクシーを捕まえて シティーホテルの名前を告げた。
一瞬 リョウは不満そうだったが 黙って窓の外を眺めていた。
僕は僕で これから先 どうすればいいのか・・・それを考える事で 
精一杯だった。
ホテルでチェックインを済ませ 部屋に入って お互いホンの一瞬 
同時に大きく深呼吸をして 緊張の糸が切れた様に 顔を見合わせ 
笑い転げた。
『お腹空いていないか?』
正直 こんな時に・・・と想ったが 僕は正直 ペコペコだった。
リョウも自分自身に呆れた・・・という顔をしながらも 
『空いてる』と 肩をすくめた。
『人目もあるから ルームサービスを頼もう。構わないかい?』




一通り食事を済ませた事で 気持ちも落ち着きを取り戻せた気がした。
リョウも同じ様だった。
『煙草 構わないかい?』そう訪ねると 怪訝そうな顔をしたので 
僕は始めて井の頭公園で会った日の事を 話した。
『君は 僕が携帯灰皿に煙草を入れた姿を見た瞬間 射る様な瞳が 
和らいだんだよ。』
『陽は 後ろに目があるの?』フザケ半分だが その時の情景を思い出した様に 飛び切りの笑顔で 僕に微笑んだ。
『そう。あの時 地面に捨てるような奴だったら 指定席に絶対座らせて遣らなかった。』
『リョウ・・・君は 曲がりなりにも お嬢さんなんだろ。もう少し 言葉使いに気をつけないとならないね。』
ねこの様に ふふんっと鼻で笑って ソファーに膝を抱えて座りなおした。




『リョウ 今夜は疲れているだろうから このまま 僕は帰って 改めて明日来た方がいいかな?それとも このまま 少し話し合う気力はある?』
『大丈夫・・・暫く 側にいて 話をして。』
自分が行った事への 後悔というよりは 何か強い意志を持った瞳で リョウはそう答えた。
『じゃあ 僕の事から 少し話しておくよ。僕の名刺に書かれてあった事は 全て本当だよ。
そして 僕は 殆んど工藤の実家とは疎遠になってる。佐々木は 亡くなった母の名前。
陽はその時 改名した。勘当に近い形だが 世間体や税金なんかの事で 病院には 僕の名前は残っている。形だけだけどね。
家を出るとき 義母が少しばかりお金を渡してくれたので
それを元手に 輸入雑貨の店は持っているが 殆んどこれも 人任せ。
僕はしがないサラリーマン。雑誌社に勤めている・・・・こんな所かな。何か 御質問は?』
『唯のおじさんじゃなかったのね。』
漸く リョウらしい 微笑が零れた。
見惚れるほど 綺麗だった。
『じゃあ 今度は リョウ・・・君の正直な気持ちを聞かせてくれないか?何か協力できる事があるかもしれない。』
少し 遠い瞳をしたリョウは 少しはにかみながら
『ニューヨークに行って ダンスの勉強をしてみたいの。』
今まで 一度も 人前で言葉に出来なかったのだろう・・・告げた途端 大粒の涙が リョウの瞳から 溢れた。
『何だ残念!プロポーズされるかと想って 期待したのに・・・・は冗談だが 
夢があるのに 親の言いなりで 諦めるつもりだったのか?』
少し茶化しながら リョウのオデコをツンと 突いて・・・・僕は 出来る限りリョウの夢を叶えさせてやりたいと 心に決めていた。




それからの数週間 慌ただしい日々だった。
そして 漸く 今こうして 成田でリョウを見送る事が出来る。
僕の人脈だけでは足らないモノは 全てを使い リョウ自身は大学は休学し 取り敢えず2年間の ダンス留学に漕ぎ着けた。
家に戻ったら 2度と自由はない・・・というリョウの言葉は事実だろうと思って ご心配されているとは思いつつも 御両親には ニューヨークに行って ある程度基盤が出来た時点で 連絡を入れる事にした。
金銭的な事は 『出世払い』という事で 全面的に 僕がヘルプする事にした。
今となっては 義母に感謝している。
義母や義弟が嫌いだった訳ではない。僕自身が 医者に向いていなかっただけの事だが父は それが許せなかった。
でも いつかは 分かりあえる日も 来るだろう。




搭乗アナウンスに 思考が止まった。
僕を見つめる リョウと視線が交差した。
『んっ?怖気付いたか?』茶化すと 睨み返して僕の脛を思い切り蹴飛ばした。
『イタッ!!その意気だ!大丈夫。離れているけど 何かあったら 直ぐに助けに行ってやるから。』
『ホントに?』
『ああ・・・一応 (足長おじさん)だからね。』
『もし 2年たって ダメで戻ってきても 拾ってくれる?』
『まぁ・・・家事手伝いにでも 雇ってやるよ。』
まだ 何か言いたげだったが リョウはそれ以上何も言わず、鞄を抱えて歩き出した。




手続きをすませ 振り向いたリョウは 僕に駆け寄り人目も憚らず KISSを交わした。
そして 耳元で
『おじさん アイシテル。待っててね。』
そう呟くと 軽やかに搭乗口へと向かって行った。
『ああ・・・・待ってるよ。頑張れ・・・リョウ。』呟いた言葉が聞こえたかのように 振り向かず 大きく手を振って 姿が消えた。




僕の手元には  あの日の 湘南で撮った写真が残っていた・・・・・。




             『shutter』 短編小説 最終章 『旅立ち』

            
by deracine_anjo | 2004-10-26 02:52 | 『shutter』 短編小説
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『孫にも 衣装ね。中々 キマってるわョ。』
『相変わらずの言い方だな。これでも 頑張って馳せ参じたのに お褒めの言葉くらい無いのかい?』
『それに 僕だって 王子様かもしれないのに・・・・』
『陽が?それは 無いわね!!』
漸く 少しづつ互いの時間が縮まってゆく安堵感を感じながら リョウの言葉を待っていると一瞬 瞳に影が差した。
『始めてお目に掛かるのかな?僕達のマドンナを独り占めなさるなんて どういったお方なのかな?』 
鼻持ちなら無い男が 静かに近づいてきて いきなり不躾な言葉での洗礼を受けた。
僕は ニコリと微笑みながら
『ご紹介が遅れすみませんでした。僕はこういう者です。以後 お見知りおきを・・・』
僕が渡した名刺には
『○○商事 取締役社長 ○○総合病院 専務理事 工藤雄介』
と 書かれてある。
相手は その名詞を一瞥して 態度を少し軟化させ
『僕は ○○弁護士事務所で働いております 加藤と申します。何かの折には 宜しく。』
そう言って 立ち去って行った。
僕の名詞を取り上げ リョウは呆れ顔で 
『よくこんな物まで 用意してたわね。それにしても・・・・この嘘つき!!』
苦笑いをしながら 僕は答えた。
『満更 全てが嘘じゃないよ。』




寡言そうな顔をしたままのリョウに
『僕の事は どうでもいい。一体 何が 有ったんだ。出来るだけ 教えてくれないか?嫌でなければ・・・』
ボーイが持ってきたカクテルに一口 口をつけ
『陽が言った通りなだけよ。大学を卒業したら 親が決めた男と結婚する。それまで 余計な虫が付かない様に 自宅の電話は盗聴器付き。携帯は調べられるから 持たなかっただけ。大学の行き帰りは 基本的には送り迎え。休みの日は 花嫁修業。他にご質問は?』
そう語るリョウの瞳は 遠くを見つめている。
そう・・・全てを 諦めた様に・・・・。
『今時 そんな話しが・・・リョウはそれでいいのか?その男を 愛しているのか?』
相変わらず ヒトを 小馬鹿にしたような瞳の奥に 哀しみを浮かべ
『私に権利は無いの。母は 妾だった。
先妻が病死して 後妻に入ったけど 先妻の子供は男ばかり。野心家の父は 事業を大きくして 息子達に継がせたいから 女の私が 必要なの。』
『そんな馬鹿げた話しがあるか!!』
思わず 大声になってしまった。




『ここを出よう。君の婚約者はこの会場に来てるのか?』
『先週から仕事でニューヨークに行ってて 居ないけれど 無理よ。アイツが 外で見張ってるし・・・』
『あの男は 僕が何とかする・・・そうしたら 非常階段を使って 外に出る。それとも このまま この退屈な馬鹿騒ぎの中に居る方が いいのかい?』
一瞬 瞳に迷いがあったが 深く頷いた。
『OK。じゃあ 君が具合が悪くなったので 車を直ぐにホテル前に
用意してくれと言ってると 僕はアイツに伝えてくる。君は 其処の椅子に座って 具合が悪そうにしててくれ。ところで リョウ 君の 本名は?』
『宮下遼子』
『じゃあ いいね。アイツは 確かめに来るかもしれないから 具合が悪そうにしてるんだよ!!』
そう言い残すと 僕は 煙草と酒と馬鹿笑いの渦を抜け ドアの外に出た。
一瞬 僕の中で 躊躇いがあった。
(こんな事をして 彼女を救う事など お前に出来るのか!彼女をもっと 辛い立場に追い込むだけじゃないのか!)




大きく深呼吸をして 僕は一歩一歩 所在無げに椅子に座ってコーヒーを飲んでいる男に近づいて行った。心は 決まった!!
『宮下遼子さんのお連れの方ですよね・・・・・実は・・・・』僕は 彼に話しかけた。




もう・・・・・車は 走り出した。


 
                 『shutter』 短編小説 (9) 『逃走』
by deracine_anjo | 2004-10-23 08:24 | 『shutter』 短編小説

女々しいな 俺も・・・空耳まで聴こえるなんて・・・・




『おじさん!聴こえないの?』・・・・空耳じゃない。
振り向いた其処には リョウが立っていた。言葉を探していると リョウは真っ直ぐ前を向いたまま 口も動かさず囁く様な声で 
『赤の他人の振りして!』と言うなり 今度は周りに聴こえる様に 
『まぁ 私専用って書いてある訳でもないから 今日は 我慢してあげる。但し 離れてね。』
何が何だか分からない僕は 言われるままに ベンチの端に座りなおして 暫く黙ったまま煙草を吸い続けていた。
リョウは ポットから出したコーヒーを飲む振りをしながら 微かな声で前を見つめたまま 
『あの向こうの木陰にいる男が あたしのお目付け役。社長のツルの一声で 日曜出勤が社長のお嬢さんの尾行なんて あの人もいい迷惑だよね。』
(社長のお嬢さん?お目付け役?尾行?・・・僕の頭の中は 鈍いながらもフル回転しながらも 少しだけ分かってきた様な気がした。)
足を組み返る振りをして ワザと横を向き 煙草をふかす振りをしながら口元を隠し
『籠の鳥状態だったのか?あの日以来。』
『そう・・・だから 毎週 ここに来てた。なのに 何で 陽は今日まで 来なかったの!!』




『こんな不自然な形で まともに話しなんて出来ないよ。何とか撒けないのか?』
暫く考えた末 リョウは
『今夜 ○○ホテルで友人の誕生日祝いがあるから 其処に来て。但し 少しキメテ来てね。
あいつに気付かれない様に。時間は 6時から。友達の名前は 山野美代子。じゃあ。』
そう告げると パンパン・・・とパンツのお尻を叩いて サッサと去っていった。
その後を あの男も 付いて消えた。
暫く僕は 今の出来事が 現実なのか夢を見ていたのか・・・・ボンヤリとリョウの去った跡を見つめていた。
今時 そんな馬鹿げた事があるのか?
あの訳の分からないリョウが どこかの社長の娘?
考えれば考えるほど 突拍子も無い話だ。アイツは 山から下りてきた狸か?




ふと・・・時計に目を遣ると 6時までそれ程時間は無い。
金持ちの誕生パーティーなんて 出た事なんてこの30年間生きてきて一度もない僕に どうしろって言うんだ。テレビで見た位だ!
あっ!!キメテ来いって言ってたな。どうすれば・・・・。
そうだ・・・出版披露パーティーなんかで利用する貸し衣装屋に行けば何とかなるだろう。
何でこうなるんだ・・・・と想いながら 久し振りに逢ったリョウの瞳を想いだした途端 僕は駆け出していた。
あいつ 少し痩せたみたいだったな。
一段と 哀しみの色が深くなった様な瞳・・・・胸を締め付けられるようだった。




何とか (孫にも衣装)・・・小道具ひと揃え借りて ホテルに着いたのは 丁度6時だった。
フロントで会場を聞き 部屋の前に辿り着いた瞬間 正直 踵を返して逃げ帰りたくなった。
入り口で名前を書いた途端 受け付け係の女性が ニッコリ微笑み 小さな声で
『リョウはテラスにいますわ。腰ぎんちゃくは 入って来れませんから 御安心下さい。』
チラリと横目で見た視線の先には 確かに 昼間見た男が所在無げに ボンヤリ椅子に座っていた。
『ありがとうございます。』目で お礼を伝え中に入った。
部屋の中は 別世界だった。
中心にいるのが 今日の主役だろう。男も女も 何処かの御曹司とご令嬢な訳だ。
場違いな所に来てしまったが 今は そんな事はどうでもいい。
リョウを探さなくては・・・テラスに居ると言っていたな。
人いきれでむせ返る様な空間から テラスに出た途端 別世界の様な気がした。




其処には 紛れも無く 着飾ってはいたが 僕が知っている
リョウが 待っていた。



零れんばかりの微笑を 僕にプレゼントしてくれながら・・・・。

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            『shutter』 短編小説 (8) 『政略結婚』
by deracine_anjo | 2004-10-18 15:59 | 『shutter』 短編小説
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カーテンを引き忘れて眠ったのだろう。
朝日が部屋の中に差し込んでくる不思議な感覚に ボンヤリと意識が目覚めてくる。・・・と同時に 多少二日酔い気味の頭の中で 昨夜の事が・・・・。
そう・・・この狭いベットに 穏やかな寝息を立てて 無防備なリョウがいる。
起さない様に そっと 半身を起し 煙草に火を点けた。
リョウの寝顔は まだあどけなさが残る横顔の中に 傷だらけの戦士の様な孤独さを感じさせた。
たった20歳やそこらで 何を抱えているというのだ。今が一番 輝いている時だろうに・・・。時折 小さく眉間に皺を寄せて眠るリョウの心にある 痛みは何なのだろう・・・。
腕時計の針は まだ 5時過ぎだ。僕も もう一眠りしよう。
起さぬ様に そっとリョウの額にキスをして 眠りの中に戻っていった。




けたたましい目覚まし時計の音にたたき起こされ 飛び起きた僕の側には 概にリョウの姿は無かった。慌ててベットから抜け出し 狭い部屋を探したが何処にも姿は無い。
昨夜 渡した花束と共に 姿は消えていた。微かに甘い残り香だけを遺して・・・。
一抹の淋しさを感じたが (これでいいんだ)・・・自分にそう 呟いて 慌ただしく僕は日常の生活の中に 戻っていった。
頭の中で 今日一日のスケジュールを考える事で リョウとの昨夜の事を締め出そうとしていた。社に行けば そんな努力をする必要も無いほど 僕は仕事に追われ 一日が過ぎてゆく。忙しい時間の中では 想い出さなくてすむ。僕は リョウの事を忘れようとしていた。
いや・・・忘れなければいけないと 思った。
余り気乗りのしない接待も 今夜はかって出た。あの部屋に 戻りたくなかった。情けない男だ・・・・と思いながら 下手な歌に拍手を送る自分が 一段と嫌に成りながら。




一週間が過ぎ 10日が過ぎても・・・リョウからの 電話は掛かっては来なかった。今迄にも同じ様な事はあったが それは いつもの気まぐれだったが 今回はもう2度と掛かっては来ないだろうと思った。
この数ヶ月間 僕は夢を見ていたのだろう・・・・。切ないがとても楽しい夢だった。このまま そっと 心の深いところに鍵を掛けて仕舞っておこう。




もう 街は クリスマスや年末に向けて賑わい始めた休日・・・・久し振りの暖かな午後 僕は誘われる様に 足が自然と井の頭公園に向かっていた。
あの日と同じ様に 暖かな午後を楽しむ家族連れや恋人達で 冬の公園は華やいでいた。枯葉を踏みしめる音が何故か心地よく胸に沁みてくる。
リョウと初めて言葉を交わしたベンチは ラッキーな事に空いていた。
僕は 独り苦笑いをしながら ベンチに腰掛け あの時と同じ様に 煙草に火を点けた。




 

『そのベンチ 私の指定席なんだけど どいてくれない?おじさん!!』


             
            『shutter』 短編小説 (7) 『残り香』
by deracine_anjo | 2004-10-17 17:36 | 『shutter』 短編小説

リョウと巡り会ってから 僕の周りが少し変わり始めていた。営業成績も 少しづつだが波に乗り始めた頃 社内で新企画の公募を募った。
僕は 前から暖めていた企画を提出し それが採用された。その上 その企画が 思った以上の業績をもたらしたという事で 僕は念願の 企画部に配属された。
僕が勤めているのは 中堅の雑誌社。
本離れと言われているこのご時勢に 『売れる本』=『読者を惹きつける企画』・・・・毎日の様に 徹夜での会議もザラになった。
自分の足で 作家先生の所に行って 頭を下げる事もカメラマンと一緒に 取材に行ってみたり・・・・と 覚える事は沢山あった。
リョウからの誘いも 断らなければ成らない事も増えてきた。
心が 痛んだ。僕自身も 会いたかったが 時間に追われ 突然一方的に連絡してくるリョウに合わせる事が 困難に成っていた。




その日は 珍しく8時にはお開きになった会議の後 デスクでボンヤリ リョウの事を考えていると 携帯が鳴った。飛びつくように電話を見ると 公衆電話からの電話。
『リョウ?』
いつもなら 『陽?』・・・が第一声なのに 今夜は 僕が先に呟いた。
『今 六本木にいるの。これる?』
『ああ 大丈夫。行ける・・・店は?・・・・うん 分かった。直ぐ行く。じゃあ 待ってて!!』
電話を切るのももどかしく 僕は コートを引っつかんで 会社を飛び出していた。
リョウと湘南に行ったとき以来  逢えず仕舞いだった。もう・・街は彩が変わり 冬へと向かっていた。タクシーの中でも 僕は走り出したい様な気持ちだった。
六本木は相変わらずの賑わいで まともに歩けやしない。イライラしながら 約束の店に向かう途中で 足が止まった。
色とりどりの花で埋もれている様な花屋。誘われる様に店内に入り お店の子に
『20歳の女性にプレゼントしたいんだ。適当に花束を作ってくれないか。』
何故 あの時 そんな事を思いついたのか 自分でも不思議だった。別れたあいつにすら一度も花なんて プレゼントした事など無かったのに・・・・。
出来上がった花束を見て 何だか自分が馬鹿みたいに思えたが 兎に角 少しでも早くリョウの元に行きたくて テレも捨て店へと向かった。




待っていたリョウは いつもと何かが違っていた。何だろう・・・・
テーブルに着くなり 相変わらずの口調で
『直ぐ来るって言ったのに 遅かったじゃないの。お腹空きすぎて 死ぬかと思った。陽はもう食べたの?』
『食べてないさ。僕も死にそうだよ。昼抜きで 今まで仕事だったんだから・・・ごめん。遅くなって・・・・これ 買ってて遅くなった。』
出来るだけさりげなく・・と思うのだが 豪華な花束は 情けないほど渡す僕を 小さくさせてしまう。
『何で知ってるの?』
『えっ?何を?』
『私の誕生日。』
そうか・・・・何かが違うと思ったのは 服装だ。
いつも 見るヒトが見れば分かるブランドのGパン姿ばかりで現われるリョウが 今日は ドレスアップしているんだ。
『誕生日なのか?今日。じゃあ 家族や友達とお祝いしてたんじゃないのか?』
『フケテ来た。着替える暇が無かったけど。』
(平気なのか・・・・と 喉まで出掛かった言葉を 僕は 飲み込んだ。)
『チョッと気に入ったお店があるの。其処で お祝いしてくれる?』
『ああ 勿論・・・じゃあ 行こう。もう お腹空きすぎて 倒れそうだよ。』




リョウが案内してくれた店は 少しメインストーリートからは 外れた静かな場所にある多国籍料理を出す店だった。顔馴染みなのか 店の子達に軽く挨拶しながら 静かな席に案内して貰った。
『リョウ 何でもいいから 注文してくれないか。大至急持ってきてくれと頼んでくれると 凄く ありがたい。』
ふふっ・・・と笑いながら 適当にメニューから注文し シャンパンを頼んだ。
『祝ってくれるんでしょ。』
『ああ・・・・安月給取りが払える範囲で お手柔らかに。』
一通り料理が運ばれ シャンパンが用意された時 初めて リョウが 泣いているのではないかと 思った。
目の前のリョウは 泣いてはいない。唯・・・リョウの心が 僕の心に 何かを伝えている様な気がした。
勢い良くシャンパンが抜かれ お店の店長らしき人間が
『おめでとうございます』・・・と うやうやしく告げ去った後 僕も改めて 
『おめでとう。今日 逢えてよかった。電話 ありがとう。最近 いつも 忙しくて・・・・』
言葉を 続ける事が出来なくなった。





リョウの澄んだ瞳から・・・・ナミダが  溢れていた・・・・・。

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               『shutter』 短編小説 (6) 『花束』
by deracine_anjo | 2004-10-16 04:49 | 『shutter』 短編小説
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雲行きが おかしくなったのだろうか・・・・
今朝の天気予報は 雨だったかな?そんな事を ボンヤリ 思い浮かべていると 又しても 前後の無い リョウの会話が 始まった。
何となく そのまま リョウの言葉を聴いていたかった僕は 黙ったまま 海を見つめていた。
『陽って 変人だよね。 普通の人間なら 根掘り葉掘り アタシのコト聴きたがる。何処に住んでるのかから始まって 家族構成 彼氏はいるのか・・・・陽 オカマ?』
これには 短時間で リョウが用意してくれた 暖かいコーヒーにむせた。
『電話番号だけは 聞いたよ・・・これでも。でも キライだって言ったから それ以上は 聴かなかっただけだよ。女性に対して 僕は デリカシーが無いのかな?ごめん。』
少しの沈黙の後 リョウは 又 話しだした。
僕は 何故だか リョウの言葉を ひとつの残らず 聴きたくて 黙って海を見つめていた。
『安心した・・・興味が無いのかと思っていたし オカマでもなさそうだし・・・でも オカマでもアタシは 構わないけどね。』
高々と笑う声が 乾いていた。
何故 リョウの言葉は 哀しいのだろう・・・・鈍感な僕には 感じるまましか 分からないのだけれど・・・・。




突然 リョウは立ち上がり
『陽の携帯 写真 写せる? 今の私を 遺して・・・』
サンダルを脱ぎ捨てて 海へと向かうリョウを追い駆けながら 僕は 
シャッターを切り続けた。
それは 何かに急かせれる様だった。
モデルでも 経験した事があるのだろう・・・。
リョウの写真は 下手な僕の腕でも 完璧に近い出来栄えに思えた・・・。
一枚を 覗いては。




『陽も 撮ってあげるよ!!』
ひとしきり 海と遊んできたリョウは 僕の手から 携帯をもぎ取り
『ハンサムおじさん もう少し 笑ってョ♪』
『御免・・・苦手なんだ・・・』
彼女と別れてから 女々しいと思いながら 全ての写真を燃やした僕には 
まだ 現在は 存在していない。
『そっ・・・でも 一枚だけね♪』
乾いた音が 耳に 残った。




帰りの道中 リョウは ポツリと呟いた。




『陽  あたし  いい忘れてる言葉が ある・・・・

振り回して ごめん。

でも  もう暫く  付き合って。』




『お気が澄むまで・・・・』


   何故だか   車の中は   全てが  優しかった・・・・・。 


          『shutter』  短編小説 (5) 『写真』
by deracine_anjo | 2004-10-15 05:28 | 『shutter』 短編小説

その後も 相変わらず 気が向いた時に 突然 電話を掛けて来ては 食事に出掛けたり 映画を観に行ったりという事が 幾度となく繰り返されるようになった。
けれど 『リョウ』 という名前以外 僕自身は 何も知らなかったし 彼女も僕の事で 何かを聞いた事もない。
不自然だが 不自然だという事がどうでもよかった。
ただ 改めて世間を観察してみると 面白い事が分かった。
特別 彼女が突飛な事をしているとか おかしな服装をしているとか言う訳でもないのに すれ違う人が 皆一様に 振り向くなり見つめるなり 不躾な視線を投げかけてくるという事だった。
確かに彼女はハーフだったし スタイルもモデル並にいい。
けれど 東京の街で その程度の女性なら幾らでもいる。
なのに 何かが 彼女に対してそうさせてしまうモノが あるような気がして成らなくなっていた。
ある日 僕は唐突だったが 彼女に尋ねてみた。
『リョウ 君は 気に成らないのかい?』
真っ直ぐ前を見つめたまま彼女は一言
『キライなんでしょ。』
そう呟いた彼女の瞳が 深い哀しみの色をしていた事を 僕は見逃してしまった。




振り向いた彼女は 相変わらずのポーカーフェイスで ニコリと微笑んだかと思うと
『まだ 時間ある?』
(また 前後のない会話だ・・・)
『ああ 子供じゃないから 門限はないよ。』
『じゃあ そこのサテンでお茶飲んでて。30分で来るから・・・』
そう言い残すと 人混みの中に 消えた。
(なんなんだ。まったく。僕は忠犬ハチ公か!!)
毒付きながらも 結局は そのまま踵を返して帰る事も出来ず 取り合えず30分そのサテンで待つ事にした。
(1分でも遅れたら 帰ろう!!)
時計を見ながら そう心に決めて 冷めたコーヒーを飲み干した途端 勢い良くドアが開きツカツカとリョウが僕の目の前に 立った。
『1分前ね。行こう!!』
踵を返して ドアに向かう彼女の背中を見つめながら 何故か おかしくてたまらなかった。




店を出ると 道路には真っ赤なポルシェが停まっていた。
運転席では サングラスをして 僕が乗り込むのを待っているリョウ。
『早く!!おまわりが あそこで見てるんだから!!』 
慌てて僕は助手席に乗り込み シートベルトをはめた途端に 急発進した。
『もう少し お手柔らかに頼むよ。』
体勢を整えながらそう言う僕を チラリとサングラスの奥の瞳で見つめながら リョウは又 静かに加速させていった。
BGMは心地いいボサノバ・・・荒っぽいかと思ったリョウの運転は 楽しみながら泳いでいる様な感覚を感じさせる。 
(ふ~~ん 中々の腕みたいだな。僕より上手いかもしれない。)
そして 僕は 段々見慣れた道を走っている事に気が付いた。
もう一度 リョウの顔を 覗き見たが サングラスで本当の表情は分からない。
『海 好きでしょ。私は 好きよ・・・。夏が終わった頃が一番。』
(本当は もう 二度と来る事は無いだろうと思っていたんだが その事には触れずに)
『ああ・・・ここは 良く来てたよ。』




もう 地元の人間しか来ない時期になった湘南に 着いた。

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           『shutter』 短編小説 (4) 『湘南海岸』
by deracine_anjo | 2004-10-14 16:23 | 『shutter』 短編小説
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『紙ナプキン 頂戴。』



(一言 悪いけど・・・・とか言う言葉も知らないのか!)少しムッとしながら 
僕は箱ごと彼女に押しやった。彼女は一向に意に介せずといった態度で 口の周りを綺麗にふき取り 僕にも一枚よこして来た。
『ありがとう。』(これじゃ 逆じゃないか・・・)少し乱暴に 口の周りを拭いていると もう一枚 寄こして来た。
怪訝そうな顔をしている僕を尻目に 店の女の子に ボールペンを頼み
『携帯番号 書いて。』
(どうして 前後の言葉が 彼女には無いんだ!親の顔がみて見たいよ。)少々心の中で僕は毒付きながらも 結局 携帯番号を 書きにくい紙ナプキンに書いている。
(思っている事ととやってる事が違うじゃん。僕も馬鹿ヤロウだ!)
書き終えた紙を渡しながら
『君は教えてくれないのかい?』
そう言うと 彼女はおもむろに バックの中身を テーブルの上にばら撒いた。
そして・・・・
『キライなの。だから 持ってない!!』
『今時 君くらいの年齢の女性が?あっ ごめん。』
リョウの瞳の中に 一瞬 淋しさが見えたような気がしたのは 気のせいだろうか・・・。




サッサと鞄の中身をバックに仕舞ったリョウは レジへと向かっていった。
慌てた僕は 椅子に蹴躓きながら 何とか追いついて
『一宿一飯のお礼をするよ。』
ふふっ・・・と笑い リョウは店の外に出た。
清算して僕が店を出た時 予想通り リョウの姿は消えていた。
暫く 探してみたが無駄だと想い そのまま山下公園に向かって歩いた。
出来るだけ 知り合いには逢いたくないので 余り似合わないがサングラスをして 足早に中華街を抜けた。
ここも 相変わらず 恋人達で 溢れかえっている。
又しても 不似合いな場所に 来てしまったな・・・・そう思いながら 澱んだ海を見詰め ボンヤリしていた。
その時 携帯が鳴った・・・。




公衆電話からだ。
直感で リョウだと思った。
一呼吸おいて 電話に出た僕に聴こえてきた声は
『今日は ありがとう。楽しかった。ご馳走様。』
そう言うと 電話は切れた。




一方通行のアクセス・・・けれど 何故か 心は穏やかだった。


         
              『shutter』  短編小説 (3) 『一方通行』
by deracine_anjo | 2004-10-13 16:47 | 『shutter』 短編小説
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特別 用事も無く ふと久し振りに 横浜に行こうと思い立った。
実家に寄るつもりは ない。
大学を出て 就職と同時に家を出てから 殆んど 足を運んだ事はない。
ある意味で 遠い場所になっていた。
あそこには もう 僕の居場所は無いと思って 家を出たのだから・・・・・。
新しい家族 新しい家庭に 僕は馴染めなかった。
義母や弟達が悪い訳ではない。
僕自身の 心の問題だった。




久し振りの横浜は もう僕にとって 生まれ育った場所というよりは
赤の他人に なっていた。
でも・・・何故か それが 楽でいい。
気ままに 店を冷やかしながら歩いていると
何処からとも無く サックスの音色が 聴こえてきた。
なんとも知れない哀しげなメロディーが 思わず 僕の心に突き刺さる。
何気ない口論の末 別れてしまった洋子の事が 心に浮かんだが
もう 終わった事だと 自分に言い聞かせて 頭を振った。




『陽!!』
(誰だよ・・・・まさか 幼馴染じゃないだろうな・・・知らん顔して過ごそうかな・・・)
そのまま 僕は 真っ直ぐ前を向いて 聴こえなかった振りを決め込み
歩みだした途端 腕を捕まれた。
驚いて 振り向いた其処には リョウが 睨みつけて立っていた。
『一宿一飯の恩義を 忘れたの??』
思わず僕は その言葉に 噴出してしまい 一段と リョウを怒らせたようだった。
踵を返して立ち去ろうとしたリョウの腕を 今度は僕が掴む事になった。
『ごめん、笑ったりして・・・・君とここで会うなんて 思いもしなかったから・・・』
一生懸命 言い訳してる自分が 馬鹿らしく思いながらも 何故か このままリョウと別れたくなかった。
何とか リョウの機嫌を直したくて 僕は必死になっていた。




『お腹が空いたの・・・一人で食べるのは 味気ないから 付き合って!!』
又しても 彼女のペースだ。
でも 僕は それすら 今は 気に入っていた。
リョウが決めた店は 中華街の中でも小奇麗な店では無かったが
味は 誰もが認める 通好みの店。
生まれ育った僕も 気に入ってる店の一つだ。
久し振りの店内は 一段と古ぼけ油まみれの感じだが 味は 昔と全然変わっていない。
その店の中で 何故か 溶け込んでいるリョウ。
改めて リョウを観ると 明らかにお嬢さんだ。
流行に疎い僕でも一目瞭然の ブランド物と宝石・・・
でも 長い髪を 無造作に束ねて 美味しそうに食べてる姿は そこらの子供みたいだ。




『食べないなら 私 食べちゃうよ。』
少し雑な言い方の中にすら 僕は 何かを感じていた。
けれど それが 何かなのか その時には 分からなかった。
『ダメだよ!!これは 僕の分!!』




ある日突然 こんな時間が 僕に訪れるとは 思っていなかった。
そして・・・・・・・



             『shutter』 短編小説 (2) 『休日の午後』
by deracine_anjo | 2004-10-13 06:48 | 『shutter』 短編小説
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営業からの帰り道 ふと 疲れを覚えた僕は 何かに誘われるようにして
車を降り 夕暮れまじかの公園に 足を踏み入れた。




今年の夏は 例年にない猛暑で この時間に成っても 子供を連れた
親子連れや恋人達が 涼を求めあちらこちらで 笑いさざめきあっていた。
漸く 僕は ベンチを見つけて 腰を下ろし ボンヤリと空を眺めていた。
今日は 何をやっても 上手く行かない一日だった。
これから社に戻って 業務報告をした後の 上司の厭味を考えると 
このまま 何処かに フケて仕舞いたくなるくらい 最低な気分だった。
ポケットから メンソールの煙草を取り出し 火を点けた途端 
『そのベンチ 私の指定席なんだから どいてくれない?おじさん!!』
思わず 僕は むせてしまった。




(女にまで 僕は なめられるのか!!ふざけるな!!)
僕は 背中で女の気配を感じながらも シカトを決め込んだ。
射る様な視線が 痛かった。
それでも 僕は 黙って 煙草を吸い続け 携帯灰皿に吸殻を入れた。
と・・・その瞬間 射る様な視線が 柔らかくなったのを 感じた。
『仕方ないわね。今日だけは 同席を許してあげるわ。』
そういうと 女は ふわりとベンチに腰掛けた。
『ふわり』・・・そう・・・・女には 上手く言えないが 存在感・・・生命感が 感じられない・・・
花びらが舞い落ちて来た様な 不思議な感覚を その時感じた。
今となってみれば 何故 その時 そう感じたのか 少しだけ 分かる気がする。




僕たちは・・・僕と女は 互いに言葉も交わさず そのまま 静かな時間を過ごした。
不思議と 先程までの 僕の心の焦燥感も疲れも・・・消えていた。
『おじさんも 飲む?』
(又しても おじさんかい!!)一瞬 ムッとして 初めて 女の方を見ると 
確かに 女からしたら 僕は クタビレタ 30男のオジサンだと 妙に納得してしまった。
女は・・いや 彼女は 高校生か大学に入ったばかり・・・・といった年齢の
面影を醸し出していた。
少し大人びて見えるのは 彼女がハーフだからだろう・・・。
目の前に差し出されたのは コップからいい香りを立てているコーヒーだった。
『特別参加に御馳走してくれるのかい?』
ふふんっ・・・と 笑う彼女の零れるような微笑を 何故だか 僕は きっと 
一生忘れないだろうと思った・・・・。
『ありがとう。遠慮なく 頂くよ。』
彼女が渡してくれたコップのコーヒーの味は 格別だった。
思わす僕は
『美味い!!』・・・お世辞抜きの言葉だった。
彼女は・・・又しても 少し皮肉っぽく
『私が入れたコーヒーの味を 分かるなんて おじさんも なかなかね♪』
唄うように 彼女は答えた 瞳が笑っていた。




『頼むから おじさんは止めてくれないか・・・取り合えず 名前があるんだから。少し 傷付くよ。これでも。
佐々木 陽・・・・太陽の陽・・・30歳』
暫く 僕の顔を 深い瞳で見詰めた彼女は
『リョウ・・・二十歳』




そう言うと 僕の手から コップをひったくるようにして持ってきたポットに収め・・・・パンパンと パンツのお尻を叩いて
『bye-bye♪陽。』
風の様に 立ち去った・・・・。



        

残ったのは・・・・微かに甘い 香水の香りだけだった・・・・。



   
              『shutter』  短編小説 (1) 『井の頭公園』 


 
by deracine_anjo | 2004-10-13 02:17 | 『shutter』 短編小説