『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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カテゴリ:『驟雨』  短編小説 ( 10 )

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3年の 月日が 流れた。。。。



僕の 『人間的成長』は 今ひとつだが 兎に角 家庭を持ち 一男一女の父親になった。
日々は 穏やかに 流れていた。。。一つの事を除いて以外は。
仕事は あれだけ苦手だった営業畑が 少しだけ軌道に乗り始めた頃 異例の人事で 企画部に周り これは 以前から 希望していただけに 正直 面白い。
(イヤ。。。仕事だから 面白いと言うのも 何だか おかしないい方だが それでも 『苦痛』という文字から開放され 『苦悩』する。。。は 増えたが 面白い事は 事実だ。)
それに 子供達の 成長を 正直 自分が これ程まで 喜ぶ 『親バカ』になろうとは 思いも寄らない発見だった。
そして 何よりも 母親が あの『野良ねこ』 なのだから 人生なんて 分からないものだと
今更ながら キッチンに立つ 彼女の姿を ソファーで寝転びながら 子供達と眺めてるなんて。。。。



あの日 楽屋を訪れた僕は 緊張していた。
案内してくれた女性が静かにドアを開けた部屋に一歩 足を踏み入れた途端 沢山の花の香りに 一瞬目眩を 感じた。
そして 次の瞬間 自分に 腹が立った!!
(そうか。馬鹿正直に 『1ピース』を 封筒に入れ 花束一つ 持ってくる事すら思いつかなかったなんて!!まぁ 僕の人生で 女性に花束を贈るなんて事は 一度も無かったから 仕方ないが 常識的に考えれば お祝いを考えるのが 大人のやる事だよな。)
独りココロで 自問自答していたのは 長い時間だったのだろうか。。。1,2分の事なのだろうか。。。。鏡に向かっていた彼女が 静かに こちらを向いた。



『ニャァ~~』 
彼女が 僕に発した最初の言葉。
思わず 声を出して笑ってしまった。緊張の糸が 解れて行くのが分かる。。。
『ありがとう。来てくれて。。。来るかどうか 迷ったんでしょう。そして 来ても 私には逢わずに 帰るつもりだった。。。違う?』
静かに立ち上がり 彼女は 僕に 一歩 又 一歩と 歩んでくる。
ココロを見透かされた僕は 身動きが出来ないまま 彼女の声を。。。
甘いハスキーボイスを聞いていた。
悪戯っ子の様な瞳で 微笑みながら 彼女は 僕の目の前に立ち
『チケットの裏に 細工をしておいたの。そして スタッフに 頼んでおいたのよ。気が付かなかったでしょう?アナタは 黙って 帰るつもりだった。頼んでおいた物だけ置いて。。。』
(図星だ!!僕は 公演が終わったら 受付に預けて 帰るつもりだった。)
ふんわりと彼女が 僕の胸の中に飛び込んできた。。。。甘い香りと共に。。。



彼女の公演は 大成功を収め 多忙な日々が始まった。
それでも 一日に一度は 彼女から 電話が掛かってくる。
それは 時として 愚痴だったり 泣き言だったり 酔って絡んできたり。。。。兎に角 僕は 彼女に翻弄されっぱなしだったが その日々は 僕にとって 一日一日が 大切なものになって行った。
そして 彼女にとっても 同じだった。
僕達は 愛し合い 互いを必要とし。。。そして 結婚した。
正直 当初は 大変だった。
出来れば 余り思い出したくない位の 渦の中に 巻き込まれ 翻弄された。
でも 何とか 二人で 乗り越えた。。。。
いや 正確には 三人だったが。



今も 彼女は 女優の仕事を続けている。。。
僕自身が それを 望んだ事だ。結婚すると決めた時点で 彼女は 悩んでいた。その時には 新しい命が 彼女の中で育ち始めていた。。。
僕は 出来る限り 協力をするし 周りの人達に 助けて貰って 乗り越えられない事じゃないと。。。彼女を 説得した。
家庭的に 余り幸せではなかった彼女の過去が 子供を置いて 仕事に出掛ける。。。悩んでいたが 彼女の才能や夢を 今 捨てたら きっと いつか 後悔する。。。陳腐な説得だったが 僕は 一生懸命 彼女を 説得した。
仕事は マイペースで 続ける。。。と言う事で 所属の事務所とも 折り合いが付き 彼女は一つの 山を 越えた。



今 僕達は 幸せである。。。
あの夜。。。巡り会っていなければ。。。今日は ない。
いつまでも あの日の 夜の事は 僕達の 記憶から 消える事は無いだろう。
内輪だけで ささやかな結婚式を挙げた夜 
最後の 『1ピース』を はめ込んだ絵も 勿論 ある。



『驟雨』。。。の季節。。。。
それは  『にわか雨』  に  起こった 神様の悪戯かもしれない
僕達の 物語の始まり。。。だった。


           
                 『驟雨』  短編小説  最終章  完
by deracine_anjo | 2004-09-18 18:32 | 『驟雨』  短編小説 
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切符の日付けは 今週の土曜日になっていた。
僕は チケットを見詰めたまま 迷っていた。
(何を 迷う事がある。友人の 再出発を 祝う気持ちで行けばいいじゃないか!!
いや 行けば。。。逢えば 折角忘れていた感情が 噴出してしまう。
忘れていた感情?なんだ それは?愛したとでも 言うのか?)
自分の中で せめぎあうココロ。。。。これは 一体 何なんだろう。。。。
ココロの整理が付かないままに 日は 過ぎていった。



答えが出ぬまま 僕は ボンヤリとベットの上で天井を睨んでいた。
開演まで 後3時間。
今から 急いで用意すれば まだ 間に合う!!
でも 僕は グズグズと煙草をふかし 現実から逃げようとしていた。
この数日間 僕のココロを占領していたのは 紛れも無く
『怖さと淋しさ』 ナノだという事には 気が付いていた。
彼女の公演を観れば 本当に 認めなければいけない。
二度と手の届かない世界の人間だと言う事を。。。
それを 男らしくなく 認めたくない為に 僕は 行く事を躊躇っている卑怯者。
でも そんな事は 1年前に 分かっている事じゃないか!!



思い切り勢いをつけて ベットから 起き上がり 急いで 部屋を出た。
勿論 上着のポケットの中には チケットと共に 封筒に入れた
彼女が残していった 『1ピース』 をもって。。。。
外に出ると 生憎の雨。。。
ヒトの入りは 平気かな?
でも 『野良ねこ』 の 初日 ら・し・い・や!!
タクシーを拾い 駅までの道を 急いだ。



何とか 開演まで 後30分。。。と言う時間に 間に合った。
チケットを出した僕に 受付の女性は 
『お待ちしておりました。余り時間がありません。急いで 楽屋に お立ち寄り下さい。』
そう告げると 僕を 楽屋へと連れて行くではないか。。。
(オイオイ。。。どうして?アイツが 何か言っておいたのか?でも どうして 僕だと判るんだ?いいのか?関係者以外 立ち入り禁止なんだろ。。こういう所って!!)
キツネにでも抓まれたような気分の儘 僕は 彼女の後ろを 追った。
こんな所に連れてこられるなんて 思いもしなかった。



静かに でも 確実な音を立てて 彼女が 一つの部屋のドアをノックした。
中から 同じ様に 静かで落ち着いた声が 戻ってきた。



『入って頂いて頂戴。どうも ありがとう。』
。。。。確かに 少し甘いハスキーボイスの 『野良ねこ』の 声だった。


           『驟雨』  短編小説 (9) 『再会』
by deracine_anjo | 2004-09-18 01:17 | 『驟雨』  短編小説 
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俄かに 忙しくなった僕は 仕事に追われる毎日を送っていた。



時折 あの『野良ねこ』 の残していった 11枚の 『ジクソーパズル』と『1ピース』を眺める時もあったが それは もう 『過去』 として 僕の胸の中に 密やかに生きているだけになっていた。
もし 誰かに 話したところで 誰が 信じてくれるだろう。。。
『夢でも 見たんじゃないか?』と 酒の肴にされて 笑われるのが落ちだろう。
『ローマの休日』 現代版かい? とでも 茶化されて。。。
僕でも そう言うだろう。 あれは 『夢』 だったんだ。僕は 彼女から 何一つ 聞いてはいなかったのだから。。。。
唯 一ヶ月後 偶々 休日の午後 テレビに映った彼女をみた。
あの時  ドタキャンして  失踪していたのは  『体調不良の為 某病院に 極秘入院していた』 と にこやかに 談笑する彼女の姿を。。。。
暫くは 芸能界特有?の 憶測が 流れたようだが 何とか 無事 復帰できたみたいだ。
(よかったな!!)ココロの中で 画面の中の 彼女に 呟いていた。



それから 季節は 幾つか変わり 丁度 1年の月日が流れた。。。。
そう。。。『驟雨の季節』。。。夏が もう其処までやって来ていた。
ある日 一通の手紙が ポストに入っていた。
表には 住所と名前だけ。差出人の名前は ない。



部屋に戻り 夕刊と一緒にテーブルに放り投げ 冷蔵庫から一本のビールを取り出し一気に飲み干した。
たった一人で祝う 昇進祝い。
次の瞬間 僕は 何かを感じて テーブルの上に投げ出した その一通の手紙を 見詰めた。
慌てて封を切った封筒から出てきたものは 
チケットが一枚 そして 手紙が添えられていた。
『もし 捨てていなければ 楽屋に あの『1ピース』を 持ってきてください。あれが無いと 絵が 完成しません。      李  怜悧』



チケットは。。。。あの時 彼女が 失踪した時に 上演される筈だったミュージカルのチケットだった。


            『驟雨』  短編小説 (8) 『手紙』
by deracine_anjo | 2004-09-16 13:34 | 『驟雨』  短編小説 
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その日から 彼女は 何かにとり付かれた様に 『ジクソーパズル』を作り続けていた。
出来上がったら 又 新しい物を買ってきては 作る。いつの間にか 僕の狭い部屋は 彼女が作り上げていく作品?で 占領されていた。
僕の生活は 以前と変わりなく 定時に出勤し 仕事の都合次第で 早く帰宅したり 遅くなったり。。。でも 彼女は いつも 部屋にいた。
一縷の望みを 持った瞬間もあったけれど 彼女の姿を見ているうちに ココロの整理が 出来始めていた。
いつ 消えてしまっても これは『真夏の夜の夢』。。。。
楽しい事だけを 今は 考えよう!!
そう。。。思う時間を 彼女は 無言のうちに 僕に 伝えてくれている気がしてきた。
不思議な事に あれだけ苦痛を感じていた 営業の仕事も 少しづつ波に乗り始め 上司からの期待の言葉まで 聞くようになり 事実 成績も上がり始めていた。



その日は 久し振りに雨が 夕方から降り始めた。
営業先から 戻った僕は 少し濡れてしまった上着を拭きながら 
彼女が 僕の部屋から 出て行ったのを 感じた。。。。
もう 二度と戻ってはこない。。。これが もし『テレパシー』なんて言うものだとしたら 僕には彼女の声が 聴こえたんだ。(自分でも 不思議な感覚だった)
でも 僕には 聴こえた。殆んど 話した事もない でも 少し甘いハスキーボイス。。。『李 怜悧』。。。という 芸名を持つ 日系2世の彼女の声を。



『今日まで ありがとう。もう一度 舞台に立つ為に 戻って行くわ。何も聞かないで 拾ってくれて本当に ありがとう。』
僕も ココロで 答えた。
『楽しかったよ。何だか よく分からない日々だったけど。。。頑張れ!!応援してるよ。』
一瞬 時が 止まった感覚に襲われた次の瞬間
『三浦さん 加藤物産さんから 納品の事で お電話です。』
僕は 現実に引き戻され 彼女の言葉は もう2度と 聞こえなかった。



今夜は あの日と同じ様に 雨が降り コンビニで ビールと一人前だけの弁当を買い 公園の前も立ち止まらず マンションに向かった。
案の定 見上げた 部屋は この数日間とは違った雰囲気で 僕を待っていた。(やはり 戻って行ったんだな。。。)
階段を上がり 深呼吸を一つして 僕は 鍵をドアに差し込んだ。
暗闇の中 いつもの様に 手探りで電気を点けた僕は 思わず声を上げて笑ってしまった。



部屋中に 彼女が作った『ジクソーパズル』が 全て 額に入れられ 並べられていた。
1、2、3。。。。なんと 11枚あるじゃないか!!
そして。。。
テーブルの上に 『1ピース』が ポツンと 残されていた。
どの『ジクソーパズル』 を 一つ 一つ 確かめてみても 完璧に 出来上がっていた。
でも。。。。『野良ねこ』の 残していったものは 他には 何一つ無かった。
たった 一通のメモすら。。。
でも 彼女らしくて 微笑みすら湧いてくる。



ただ。。。。
僕の頬を 暖かい雫が 流れるのを感じながら 今一度
『頑張れよ!!僕も もう少し 頑張ってみるよ!!』。。。そう 呟いていた。


            『驟雨』 短編小説 (7) 『1ピース』
by deracine_anjo | 2004-09-15 23:11 | 『驟雨』  短編小説 
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あの夜の事は 今でも 時々思い出す事があるが 彼女と 何を話したのか 何も話さず 唯黙って食事をしただけなのか。。。いや 何を彼女が作ってくれたのかすら 覚えていない。
芸能人?を拾っていた事の驚きより これで 彼女は居なくなるんだろうと。。。脅える自分自身に驚いていた。
成り行きで拾ってしまった『野良ねこ』。 
まともに 言葉を交わした事もない。ふらりと出かけ ふらりと戻ってくる。僕の生活に 何の支障も無く。。。。逆に 日増しに 僕は灯りが灯る自分の部屋を見るのに 安心感と不安を感じるようになっていた。
たった2週間で 彼女を『愛した』などと 妄想を持つほど若くは無い。
頭の弱い女だとしたら 正直 『病気』が怖くて 抱きたいと思った事も無い。
唯 僕を待っている灯りが灯されている生活に 少しづつ 安堵感を感じ始めていたのは確かだった。
でも 彼女は 頭の弱い『野良ねこ』ではなく 皆が血眼になって探してる金の卵なんだ。
戻る場所がある。。。僕とは かけ離れた世界。



翌日も 彼女はふらりと出掛けて行った。部屋に残された荷物は そのままだ。でも それらは 僕の部屋に来てから 彼女が必要な物を 買い揃えてきただけの物で 特に愛着や彼女自身の持ち物ではない。。。ある意味ではどうでもいい品物だ。
このまま 置き去りにしても構わないモノばかりだ。
僕も この部屋に居るのに居た堪れなくて 久し振りに渋谷に映画でも
観に行こうと決めて でかけた。
けれど 休日の渋谷の喧騒を思い出した僕は 駅を出た途端 踵を返して 
電車に乗り込み 神田界隈に足を向けた。
大学時代 お金も無く でも 良く通った街だ。
あの頃には まだ 少しばかりの夢もあった。。。
(よそう。。。おやじくさい!!!)
久し振りの街は 休日にも拘らず 学生達で賑わっていた。
渋谷や新宿とは 違った雰囲気だ。
御茶ノ水まで足を伸ばし 懐かしい想い出の街を楽しみながら 自分の中で 答えを出そうとしていた。。。(いや。。。当に出ている事を 僕が受け入れればいいだけだ。)
ふと 昔良く通った店を 思い出した。お腹も空いてきた。
(まだ あるだろうか。。。今日は 休日だし。)
半信半疑で うる覚えのある路地を曲がった所で 懐かしい香りが 僕の腹の虫を鳴かせた。



お金の無い学生達に 安くてボリュームにある食事を出してくれる食堂は 昔と変わらぬ佇まいで 僕を迎えてくれた。
年数の分だけ 古ぼけてはいたが 相変わらず 学生達でこの時間
(もう2時を回っていた)になっても 溢れていた。
何とか 席を見つけ 店内を見渡して 何だか ココロの中 が 痛かった。
『おかあさん』と慕われていた女将さんも 少々 古ぼけてはきていたが 相変わらずのチャキチャキの江戸っ子気質そのままに 今も 元気に立ち働いていた。
注文を取りに来て ふと 優しげな顔して。。。くれた。。。気がした。
僕が 注文したのは いつも頼んでいた 『A定食』。。。。涙の味がした。



随分 時間を過ごして逃げていたけれど 結局 僕が戻るのは 僕の部屋しかない。。。。
電車の窓ガラスに映る自分の顔を見詰めながら
(これじゃ 僕が 野良猫だよ。。。帰ろう!!)
いつもの様に コンビニで ビールと弁当を買って 歩きながら あの歌は何だったんだろう。。。せめて それだけでも 聞けばよかった。。。。
一瞬 あの公園で立ち止まった瞬間 そう思ったが 知らない方がよかったんだ。。。。と思い直し そのまま マンションまで真っ直ぐ前だけを向いて歩いた。



案の定 僕の部屋の電気は 灯りが灯されてなかった。
覚悟は付けて帰ってきたけれど やはりココロは 痛みを訴えた。
その痛みを振り払うように 一気に階段を駆け上り鍵を差し込んでドアを開けた。



部屋一面に 花びらを散らした様な『ジクソーパスル』を キャンドルライトの下で 熱心に組み上げている『野良ねこ』の姿が 其処に あった。。。。


        『驟雨』  短編小説 (6) 『ジクソーパズル』
by deracine_anjo | 2004-09-15 02:25 | 『驟雨』  短編小説 
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あの夜から もう2週間がたっていた。
相変わらず 口を利く事もせず フラリと何処かに行ったかと思えば
必ず帰ってくる。
人並みな事は出来る様で 僕は正直 助かっていた。
偶には 食事の用意がしてあったり 今まで部屋は散らかり放題だったのに 掃除も洗濯もしてある。
唯一 口を利かないだけで 取り立てて 彼女が居る事が 気にならなくなり始めていた。
あの日までは。。。。



休日の午後 僕は フラリと本屋に立ち寄った。
特別読みたい本があった訳でもなかったが 暇つぶし程度に 店内をグルリと一回りして
何気に週刊誌に手を伸ばした。
そして 思わず 声を上げそうになった。
大見出しで
『大型新人女優 謎の失踪!!』
思わずレジに行き お金を払うのも もどかしく 引っ手繰る様にして 
急いで店から飛び出し 目に付いた喫茶店に飛び込んだ。
コーヒーを注文し 運ばれてきた水を一気に飲み干し 気持ちを落ち着ける為 煙草に火をつけた。
(まさか。。。。そんな事が あるわけが無いさ。アイツの事なんかじゃない。。。)
しかし そこに載っている写真の顔は 紛れも無く 彼女の横顔だった。



部屋に戻ってみると 彼女は出掛けて居なかった。
帰る道すがら 僕は結論を出していた。
芸能界の事など 僕の知った事ではない。彼女は間違いなく あの『失踪女優』だろう。
ミュージカルに穴を空け そのまま行方不明になったと書いてあった。
誰がどうして 『有望』とされていた彼女を 其処まで追い込んだのか。。。。
そして 雨の中『野良ねこ』の様に 独りあの場所に傘も差さず
濡れながら歌を口ずさみ 見知らぬ男の後を 何の疑いもせず
付いて来てそのまま 何も語らず 住み着いているのか。。。。
僕は 彼女自身の口から 聞くまでは このままにしておこうと。。。



いつもの様に 夕方 フラリと戻ってきた彼女は 始めて少し微笑んで 紙袋を目の上まで持ち上げて見せた。
『何それ?』
『コンビニ弁当だけじゃ 栄養のバランス悪いよ。今夜は 一緒に食べよう。』
初めて 言葉を喋る彼女の声を聞いた。少し甘味のあるハスキーボイス。
あの夜に聴いた声だ。
『何を作ってくれるんだ?』
僕は 出来るだけいつもと変わらない様子で話しかけているつもりだが どうしても 嬉しさが出てしまう気がする。
彼女は 『ふふん』。。。と言ったまま 狭い台所に立ち 歌い始めた。
あの夜と同じ歌を。。。



『野良ねこ』は 人間に戻るのだろうか。。。。
台所に立つ後姿を見ながら 一瞬 不安に脅える自分が居る事に 僕は驚いていた。
もう 戻って来ないのかもしれない。。。。いや。。。戻る所に 戻る決心をしたんじゃないのか。。。
だから 初めて 言葉を交わし 食事を一緒になんて。。。。



ココロが 締め付けられるように キリリと痛んだ。


            『驟雨』 短編小説 (5) 『奇妙なバランス』
by deracine_anjo | 2004-09-13 22:10 | 『驟雨』  短編小説 
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翌朝も 雨は降り続いていた。。。
部屋の片隅で 彼女は まだ 眠っていた。
一瞬 起そうかとも 思ったが もう 僕は出勤時間が迫っていた。
テーブルの上に
『スペアキーを置いていくから 帰りに ドアのポストに入れといてくれ。』
走り書きを残し 今一度 彼女の寝顔を チラリと見て
僕は ドアを閉めた。



相変わらずの風景。混んだ電車。これから向かう会社。
苦手な営業。一日中 愛想笑いと言いたくも無いお世辞。
足を棒にして クタクタになって会社に戻れば 厭味を言うのが趣味の様な嫌な上司。
想像しただけで 全てが 煩わしい!!けれど これが 僕の今の現実。
その中に 突然 非現実的な出来事が 飛び込んできた。
あれは一体なんだったんだろう。。。
どうして 僕は 彼女を拾ってしまったんだろう。。。
そんな事がココロに 過ぎっては 消え 消えては 過ぎる。
しかし そんな事に 関わっている暇はない。
目の前にある現実が ポッカリ口を開けて 待っているんだ!!



今のご時勢 随分減ってきたが 今日は お得意様を接待しなければならない。
店の手配をするのも 僕の仕事だ。
憂鬱だが 仕方が無い。。。今日は 嫌な上司も一緒だから 余計気持ちが重い。
一瞬 彼女は 出て行っただろうか。。。と 思い出したが 直ぐに 忘れた。
下手くそなカラオケの歌にかき消されて 飛び散った。
何とか終電に飛び乗り クタクタになった身体を 電車の揺れが 僕を眠りに誘う。
(寝てしまうとヤバイ!起きてなきゃ 乗り越しちまう。明日は漸く休みだ。
天気が良ければ久し振りに 部屋でも掃除するかな。そうだ アイツ は 出て行ったんだろうな。これ以上 関わりたくないぜ。面倒は御免だ!!』
いつもの様に コンビニで ビールとツマミ。。。朝でも食べればいいや。。。と弁当も買って自宅へと向かった。
昨日の公園に差し掛る瞬間 又 彼女が居るんじゃないか。。。と 
思ったが 今夜は誰も居ないようだ。
ホッとした気分と少し淋しい気分。。。。これは 何だろう。
マンションの前に 着いて自分の部屋を見上げた瞬間
(あの女 出て行ってないのか!!)
部屋に 電気が 煌煌と灯っている。



三段跳びで 階段を駆け上がり ドアの前に辿り着いた瞬間 一呼吸 
深呼吸をして鍵を差し込んだ。
勢い良くドアを開けた瞬間 玄関には オンナの靴は無かった。
急いで 靴を脱ぎ 部屋に入って 驚いた。
部屋は 見事に整理され掃除されていた。
彼女の姿は ない!!
(一宿一飯の恩義か。満更 オカシイだけのオンナじゃなかったのか。)
そう思った瞬間
ドアが 開いて 其処には 彼女が 佇んでいた。
手には 荷物を持って。。。。



(嘘だろ。。。。。コイツ ここに 住み着くつもりなのか?冗談じゃない!!)そう ココロで毒づきながらも
不思議に この訳の分からない『野良ねこ』が 戻ってきた事を 
喜んでいる自分が居る事に 僕は 気が付いていた。。。。



『野良ねこ』 は 一歩一歩 部屋に静かに入ってきた。。。。

          
           『驟雨』 短編小説 (4) 『不思議な安息』
by deracine_anjo | 2004-09-12 15:41 | 『驟雨』  短編小説 
今でも  雨が降ると  あの日の事が  思い出される。



不思議な生活だった。
『ニャァ~~~♪』  と  一言呟いたっきり
『ありがとう』を 言う訳でもなく  不思議そうな顔をして
僕を見つめるばかりの彼女に 心の中で
(ヤバイ!!やっぱり このオンナ 頭が弱いんだ。これ以上 関わるのはよそう!!)
そっと持ってきた傘を ブランコの側に置き
僕は 立ち去る事にした。
その時 ガシャン。。。と音がして 彼女が ブランコから飛び降りた。
そして ゆっくりと 傘を開き 僕の方へと歩み寄ってきた。
僕は 気が付かない振りをして 自宅へと歩き始めた。
でも 神経は 全て 後ろに注がれていた。
一定の間隔で コツコツとハイヒールの音が 着いてきているのを感じる。
(このオンナ どうするつもりなんだ?僕は どうすればいいんだ?)
心の中で 同じ言葉が グルグル回っているが
答えなんか見つからない。
とうとう マンションの前まで 来てしまった。
腹を括って 僕は振り向いた。



『いったい 何処まで 僕に着いてくるつもりなのかい?僕は 単に 君に傘をあげただけだよ。君は 君のうちに 早く帰った方がいいよ。じゃあね。』
そう告げて 僕は 階段を上り始めた。
僕の部屋は 3階だから どうしても 彼女の姿を見てしまう。
彼女は 階下から 僕を見上げたまま 雨の中 立ちすくんでいた。
(僕には 関係ない!!馬鹿な事をしたからこんな事に 関わっちゃうんだ。もう2度と 似合わない事なんて するもんか!!)
自分に毒づきながら ドアを開け 蒸し暑い部屋に入った。
手探りで電気を点けようとした瞬間 僕はそのまま 窓まで行って階下を覗き込んだ。
案の定 彼女は まだ そこに居た。
と その瞬間 何処からとも無く一台の車が近づき 明らかに彼女をナンパし始めた。
彼女が相変わらず 黙っているのに業を煮やした男は 無理矢理彼女を車に押し込めようとドアをあけた。抵抗する彼女。
(何でこうなるんだ!!)腹を立てながら 僕はサンダルを履き 飛び出した。



『陽子 遅いから心配したよ。誰 その人?あんた 彼女に何してるんだ。警察呼ぼうか?』
突然 声を掛けられ驚いた男が彼女の腕を放した隙に 彼女は 僕の背後に隠れた。
『馬鹿ヤロウ!自分のオンナなら 箱にでも入れて 鍵でも掛けとけ!!』
毒づいて 急発進して車は 去って行った。
振り向いた僕は 彼女を改めて明るい光りの中 見つめて 一瞬 息を呑んだ。
(まるで 人形の様に整った顔立ち。ハーフかな?でも なんて 哀しい瞳をしてるんだ。)
『今夜一晩 泊めてやるよ。まだ このまま立ってたら 同じ思いさせられるぞ!!』
僕は 返事の無い彼女を見つめたまま そう言って 歩き始めた。
コツコツと後ろから ハイヒールの音が 着いてくるのを確かめる様に
僕は ゆっくりと 階段を上り始めた。
『男の1人暮らしだから 汚いからな。変な事はしないから 安心しろ!!』
いつまで経っても 答えは返って来ないが 僕は勝手に話し掛けることにした。
ドアを開け 電気を点けた部屋は 自分でも情け無い位 とり散らかっていたが 彼女は黙ったまま 静かに 部屋に入ってきた。
『なんだ。全身びしょ濡れじゃないか!!そっちが風呂場だから シャワー浴びてこいよ。女物の洋服なんて無いけど なんか 着れそうな物 探しておくから!!』
彼女は 言われたまま 風呂場へと 向かった。



僕は いったい どうするつもりなんだ。。。
まるで 『野良ネコ』を 拾った様な気分だった。
溜息を付きながら 冷蔵庫から ビールを出して 一気に飲み干した。

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          『驟雨』 短編小説 (3) 『不思議な同居人』
by deracine_anjo | 2004-09-11 09:41 | 『驟雨』  短編小説 
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公園のブランコで 揺れながら歌っているのは
まだ 若い女性だった。
暗い外灯の灯りでは ハッキリとは分からないけれど
一瞬 『外人か?』。。。と思うほど 流暢な英語で歌うその横顔は
彫りの深い透き通る様な肌をした女性だった。
ロックとポップス系しか 知らない僕には
彼女が 何を歌っているのか分からなかったが
もの哀しく ココロを揺さぶるような唄に 僕は 引き込まれていった。
けれど 夜の公園で 傘も差さず歌い続ける女性には
僕の存在は 無かった。
もっと正確に感じたままを言うなら
女性には 目に見えないバリアの様なモノが 彼女を包み込んでいて
誰も その中に入ってはいけない『聖域』のようなものを感じた。



歌が終わった途端 僕は 自分が泣いているのに気が付いた。
一瞬 雨かな?。。。と 思ったが 僕は 傘を差している。
風に飛ばされた雨粒かな。。。とも 思ったが
幾筋も頬を伝うものが 不覚にも 自分が泣いている事を
教えていた。。。
一歩 又 一歩 と 彼女に近づきながら
(彼女が 怖がるのでは?脅えて 大声を出したらどうすればいい?
立ち去った方がいい!!)自分の中で 声がしていた。
なのに 僕の行動は その言葉を無視して
彼女に声まで掛けてしまった。



『こんな雨の夜に 傘も差さず歌っているなんて。。。危ないですよ。
風も引いてしまう。』
我ながら 間の抜けた言葉だ。
彼女からすれば 今一番恐怖を感じているのは 僕に対してじゃないか!!
『僕は 変な人間じゃありません。唯 アナタの歌声に引き寄せられて。。。。』
彼女は 僕の言葉を 閉ざす様に 又 歌い始めた。
何だか 拒絶された事で 自分の行動が馬鹿らしくなり
踵を返して 公園の出口に向かった。
雨は 一段と 強く降り始めていた。。。



マンションに着いて ドアに鍵を差込み ムッとした空気が全身を包み込んだ瞬間 僕は もう一本 傘を握りしめて 部屋を飛び出した。
(僕は 何を 遣っているんだ!!相手は 頭が おかしいんだ!!
だから あんな雨の中 傘も差さず 歌なんて唄ってるんだ!!
関わるのはよせよ。さっさと シャワーでも浴びて 冷たいビール飲みながら野球観戦でもしてろよ!!)
『うるさい!!黙ってろ!!』
思わず 自分に怒鳴りながら公園まで 一気に駆けていた。
公園に辿り着いた時 始めて 彼女が唄っているのは
『ジャズ』だと 気が付いた。
彼女は 誰でも知っているスタンダードナンバーを 唄っていた。
出来る限り彼女を 怖がらせない様に 声を掛けながら
僕は 彼女に近づき 傘を差し出した。



漸く 彼女のバリアの中に入れた様な 錯覚を一瞬 感じた。
『ニャァ~~~♪』



それが 始めて 僕と交わした会話だった。。。。

      
        『驟雨』 短編小説 (2) 『シンガー』 』
by deracine_anjo | 2004-09-10 11:53 | 『驟雨』  短編小説 
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時々 今でも  思い出す事がある。。。
あれは 『夢』 だったのかとも 想ったりもする。
兎に角 僕にとって それは 『現実』に あった事なのか
今でも よく 分からない。
唯 何かの折 ふと 思い出す。。。
あの 『ネコ』 の事を。



あれは 暑い夏が 漸く過ぎ去ろうとしていた頃だった。
僕は 馴れない営業の仕事で クタクタに疲れ果て
かといって 何処かで 一杯 飲んで帰る気にもならず
コンビニで 残り物の弁当を買い 数本のビール片手に
足取りも重く 電気の点いていない蒸し暑い部屋に
帰るのを 躊躇う様に ダラダラとした坂道を
歩いていた時だった。



三年 付き合った彼女と喧嘩別れして もう 半年が過ぎていた。
些細な口論から 彼女は そのまま 戻ってこなかった。
何もかも 面倒になり始めていた僕は
泣きながら 部屋を飛び出した彼女を 追いかける事もせず
『もう いいよ。。。』
ひとり 呟いていた。
僕は 疲れていた。。。何もかもに。



マンションまでの 最後の角を曲がる途中に
小さな名ばかりの公園がある。
昼間見ると ブランコとベンチが2つ。。。。言い訳程度の砂場がある程度の小さな公園。
それでも 老人や子供達には 憩いの場所の様だった。
俄かに降り出した雨に慌てて 走り去ろうとした瞬間
一瞬 空耳かと想う 歌声が
薄暗いその公園から 聴こえてきた。
正直 口から心臓が出るのでは。。。と 思った。



でも その歌声は 『悪魔の囁き』では なかった。
情緒があるタイプの僕ではないが
立ち止らずにはいられない 
何か 言葉では 言い表せない 『響き』 だった。
僕は 何かに 導かれる様に 公園へと歩んでいった。



『野良ねこ』。。。。との出会いは こうして 始まった。


           『驟雨』  短編小説 『野良ねこ』 』
by deracine_anjo | 2004-09-09 09:23 | 『驟雨』  短編小説