『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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カテゴリ:『影絵』  短編小説( 10 )

。。。。あれから 三年の月日が流れた。



繭美は おばあちゃんっ子のオシャマな明るい女の子に育ってくれていた。
母は 現在 身体を壊し 入院していた。
離島での仕事を 後任と交代し 東京に戻ってきた後
病に倒れた。。。
でも 実際は 母自身が 自分の体の事を理解した上で 早急に後任を探して貰い私達の元に 漸く戻ってきてくれたのである。
体の事もあったので 母は すんなりと 私と暮らす事を承諾してくれた。
何年振りの 家族水入らずの生活だろう。
結婚した祐樹も 奥さんと共に よく 遊びによっては
笑いの絶えない 平凡だが 幸せな日々だった。
昔 父が 私に見せてくれた『影絵』を
今度は 母が 繭美 に 見せてくれていた。。。。
『ばぁーばちゃま 影絵 影絵。』
繭美は 一日に何度でも 母にせがんでは 喜んでいた。
母も 昔の母に戻った様に 幸せそうだった。



そんなある日 母に繭美を頼んで 仕事の面接に出掛けた帰り
久し振りの銀座を 少し歩いてみる事にした。
仕事を再開するなら 新しい着物も作りたいと。。。ふと 思ったからだ。
街は 少しの間に 驚くほど変貌していたが
それも 今日は 少し楽しい気分だった。
『あっ!!』 思わず出た声に 驚き振り向く人が居た位
私自身が 動揺していた。
ギャラリーの看板と一緒に立っている看板に
『岡部 優一 個展』
と 描かれていたのだ。
誘われるように 足が自然と向かっていた。
確か 彼は グランプリ受賞後 パリに行ったと 風の噂で聞いていたが
それから先は 何一つ 知る術もなく 月日は流れていた。
静かにドアを開けると 受付の女性が 穏やかに微笑みながら
『宜しければ こちらに ご署名を。。。どうぞ ごゆっくり ご覧下さい。』
と そう。。。告げた。
ペンを取り 『斉藤 繭子  世田谷区。。。。。』
書き終えて 微笑を返し。。。後ろを振り向いた途端
私は。。。。。導かれる様に 一枚の絵に 歩み寄って行った。
『その絵』に 漸くめぐり会えた。
3年もの間 一度も 忘れる事の無かった 『絵』 に めぐり会えた。。。。
涙が 自然と 流れるのを感じた。。。。
いつまでも いつまでも。。。。
私は 『岡部 優一』 と いつまでも 語り合っていた。



母の四十九日も 終え。。。
少し 静かな そして 淋しい日々が始まった頃
母の死を まだ 理解できない繭美に
『ばぁーばちゃまは どこに行ったの?ママ 影絵 して。。。。』
無邪気にせがまれ 微笑み返した途端
電話のベルが 鳴った。。。
『繭ちゃん ちょと待っててね。お電話が 終わったら してあげるから。。。』
『はーい。おやくしょくよ。』
人形相手に 遊び始めた繭美を横目に 何気に出た電話の向こうで
『失礼ですが 斉藤さん 斉藤繭子さんのお宅でしょうか?
私 岡部と申しますが。。。。』



握りしめた受話器の向こうに 『蜃気楼』 が
みえた気がした。
。。。。『父や母』 が 微笑んでいる様に。。。みえた。。。。



              『影絵』 短編小説  『最終章』

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by deracine_anjo | 2004-08-28 18:56 | 『影絵』  短編小説
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岡部 優一は 時々 遠くを見つめる様に 話し続けた。
『僕は 一度も 人を 描いた事は ないんです。でも 貴方を 描きたかった。
もし これが 『恋』 と云うものなら 僕は 貴方を 愛しています。
でも だからといって 貴方に どうしてくれと云っているのでは ありません。
兎に角 最後まで 貴方を 描かせて下さい。
出来る限り 早く 完成させますから。。。。僕の勝手な御願いだと解っています。
でも。。。。』
何故 私は 泣いているんだろう。。。。
頬を伝い落ちる 涙が 喜びと哀しみで 心を満たし 止める事が出来ずに
いつまでも いつまでも 流れ溢れた。。。
その涙を 彼の指が 包み込むように そっと拭った。



帰宅した夫は 想像したとおり 不機嫌だった。
でも もう 私自身が 後戻り出来ない処まで この数年間で 追い詰められていた。
事前に 離島に居る母と弟には 相談し 了解を得ていた。
母は 電話の向こうで 泣きながら
『ごめんね。』 と 呟いた。
食卓に着くなり 夫は 私を責めた。普通なら 喜ぶべき事なのに。。。
一通り 夫の言葉を聞き終えた私は
静かに 『離婚届け』 を 差し出した。
これには 些か 夫も 驚いた様で 突然 態度を 軟化した。
それに対して 私は 静かに 告げた。
『貴方には 至らない妻だったかもしれませんが 私なりに 今まで
努力もしてきたつもりですが もう これ以上は 無理なようです。
一度ですが 貴方が面倒を見ていらっしゃる女性が 貴方の子だと云って
赤ちゃんを連れて 訪ねていらっしゃいました。
あの方は 『妻の座』 が 欲しいとも云ってらっしゃいました。
ですから 差し上げます。』
『何を 馬鹿な事を。。。あれは。。。。』
予想だにしていなかった事実を 突きつけられ いつもは冷静な夫が
うろたえ 言葉を 捜し 私を宥め賺そうとしていた。
しかし もう 私の心は 決まっていた。
このお腹の子供は 『私の子供』として 1人で育てる事を。。。
『もう弁護士にも相談してあります。 今後の事は 出来るだけお互いを傷付けない形でお別れしたいと思っております。
ですから この離婚届に サインを御願いします。』 
声を荒げた事のない夫が 始めて 私の頬を 打った。
乾いた音が 冷たい風になって 消えていった。



今となっては 母はこうなる事を 想像していたのかもしれない。。。
林田に病院を継いで貰うに当たって
唯一 断ったのは 『権利』 の事であった。
穏やかに微笑みながら 母は 林田に
『私が生きている間は 名義は このままにして置きます。
私が 亡くなったら その時は 繭子と祐樹に権利を渡しますので。。。。』
野心家の林田が 母の言葉を苦々しく思っていたのは解っていたが
こればかりは どうしようもない事。
しかし 私と 形だけでも 夫婦でいれば いつかは 自分の物になると
我慢していたものが 思わぬ展開になってしまい 取り乱したのだが
結局 全ての権利を お金で清算するという形で 私達の離婚は 成立した。



あの日以来 私は 彼と逢う事が 出来なくなった。
結局 私は 彼の絵を見る事もなく 何とか夫と離婚が成立して 
子供と二人暮らしには 充分すぎるマンションに移り住み  
臨月近くになっていた。
何気なく立ち寄った本屋で 雑誌を買い求め マンションに帰宅して
開いたページに 釘付けに なった。
『国際コンクール グランプリ  日本人初の受賞!』
紛れも無く それは 『岡部 優一』 が 描いた
『愛しき人』。。。。と いう題名の 女性画 だった。。。



お腹の子が 力強くお腹を蹴っているのを 喜びに感じながら
『ありがとう。。。。おめでとうございます。』
ひとり。。。そう 呟いていた。


                『影絵』 短編小説 (9) 『旅立ちの時』 』
by deracine_anjo | 2004-08-27 02:54 | 『影絵』  短編小説
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私の体の内なる声に 耳を塞ぐ訳にはいかないと思いつつ
夫に告げる事を 一日伸ばしにしていた。
それは 一つには 夫が 手放しで喜んでくれる自信が無い事と
正直に言えば 今 岡部 優一 と 逢えなくなるのが 
辛かった所為だった。
喜ばないまでも 夫は 私の自由を 一段と束縛し
当然 『着付けのお手伝い』 も 辞めさせられるだろう。
逆に言えば 夫が 手放しで喜んでくれる人だったならば
私は 岡部 優一のモデルの仕事を 引き受けたりは しなかっただろう。。。。
夫は 『クリニック開業』の成功に 最近は特に 機嫌が良かった。
話し合うのなら 今しかない。。。。
(何故 喜ぶべき事実を 話し合う?。。。そう考えただけで
私は 独り 哀しみの湖へと 沈む気がしていた。。。)



『後 数回 来て頂ければ お見せ出来ますよ。』
微笑みながら 彼は 休憩しましょうと いつもの様に
隣のドアに 消えていった。
彼は 私に 描いている絵を 一度も まだ 見せてはくれていなかった。
出来上がった時に 一番に 観て欲しいから。。。。と。
でも 私は もう 余り時間が 無い事を 彼に告げなければ。。。。
今日。。。ここに来るまでの間に 繰り返し言葉を 捜していた。
『今日は 暖かい ダージリンですが 大丈夫かな?』
一瞬 彼が 言った言葉の意味が 分からなかった。
いぶかしげに 次の言葉を 待つと。。。
『あの日 帰り際 聞いてはいけないと思いつつ 医者の話しを。。。。
すみません。』
。。。。そうだったのか。。。。彼は 知っていたんだ。
『少し 話しを 続けても 構いませんか?』
動揺している私を 気遣いながら 言葉を 続けた。。。
『僕は あの時 一瞬にして 貴女に 恋をした。
僕は 生い立ちから 現在に到るまで 誰にも ココロを 許した事も
開いた事も ありません。
あんな。。。(あっ、失礼)。。。でも 映画みたいな出会いで
僕自身が 人に ココロを 動かされるなんて 考えてもみなかった。
でも。。。。貴女に 惹かれた。たった 一瞬 この腕に 
偶然 抱きとめただけなのに。。。』
次の言葉を 捜すように 彼は 窓辺に立った。
『もう。。。余り 時間がありません。私は 籠の鳥。。。
絵を 早く 完成させてください。』
その背中に そう呟くのが 精一杯だった。。。。



不覚にも ここ数日 体調がすぐれず。。。
朝食の用意をしている時に 夫に 気付かれてしまった。
部門外とはいえ 医者の夫の目を 騙せる訳はない。。。。
『今夜 ゆっくり 話そう。。。今。。。。何ヶ月に?』
『すみません。。。私が ボンヤリしていたもので。。。。そろそろ
4ヶ月に。。。。』
『跡継ぎが 僕に 出来た訳だ。それは 凄い!!』
予想した通り 言葉とは裏腹に 夫の冷たさが ココロまで 
凍えさせてしまいそうだった。
夫には もう 外に 子供が居る事を 知っていた私にとっては。。。



『決断の時』は。。。。近いのだろう。。。。
いつもの様に 変わりなく 夫を 玄関先で見送りながら
私は 独り 呟いた。。。。



           『影絵』 短編小説 (8) 『決断の時』 』
by deracine_anjo | 2004-08-26 03:58 | 『影絵』  短編小説
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雪がチラつく 寒い日だった。。。
夫が 意気揚々と帰宅し 上機嫌で いつものより 雄弁に語り始めたのは食事が始まって 直ぐだった。
『君も 院長夫人だよ。嬉しいだろう。。。』
(もう 今更 どんな言葉で 何を言われようとも
あの『私達の思い出の場所』は 冷酷な感情しか持ち合わせていない
この人の手で 無残に打ち砕かれるのだから。。。驚きはしない。
哀しみは。。。。『捨てた』)
しかし 始め 改装の青写真を見せられた時には
一瞬 悲鳴を 上げそうになるのを 堪えるのが 精一杯だった。
私達。。。『祖父母、両親、弟』。。。の 思い出の場所は
跡形も無くなる。。。
夫が ここまで するとは 幾らなんでも 思っていなかった。
確かに 病院と住宅が棟続きである様な 古いタイプの病院で 
夫が 納得する筈は無いとは思っていたが
一旦 全てを取り壊し ビルを建て
数件のクリニックが入るタイプの設計図を 私は 見せられた時。。。
それも 
『跡を継いで遣るんだから 好きな様に させて貰うよ。』
と言われた 瞬間 言葉を返す気力も無くなっていた。
『お母さんと祐樹くんには 君から 説明しておいてくれ。
これからは 多角経営の時代なんだから。。。。きっと
感謝される事になるよ。』
着々と 工事は進み ビルに入るドクターも
今の職場の 人間を 引き抜き 彼は 上機嫌だった。
今日も 工事の進み具合を 見てきたと言う話しを私に 話し 
私からの 感謝の言葉を 待っていた。
心を 鬼にして 私は 答えた。。。。
『ありがとうございます。完成が 楽しみですわ。。。
母は 見る事が出来ないのを 残念がっていましたが。。。。』
精一杯の 皮肉も 夫には 通用しないと思いながら
何とか それだけは 言った。
夫は満足そうに 微笑み
『将来は 祐樹君の クリニックも 予定してるから。。。』
(総合病院並ね。。。)
一口飲んだ スープの味は 何も しなかった。



『あそこの ベンチで 少し 休みましょうか。。。』
腰掛ける為に 袂からハンカチを出そうとした瞬間
彼は ジーパンのポケットから 洗い立てのハンカチを出し
ベンチに 敷いてくれた。
『一度 こんな事 やってみたかったんです。』
照れ隠しの様に 言う彼の 横顔を見ながら 素直に 
そのハンカチの上に腰掛けた。
『今度。。。』
『何故。。。』
同時に 互いに 質問をした瞬間 二人で 声を出して笑った。
ひとしきり笑い合い。。。
『では レディーファーストで 繭子さんから どうそ。。。』
まだ 私は 微笑みながら
『今度 今まで お描きになった絵を 見せて頂けますかと 
言いたかっただけなのです。』
『大した枚数ではありませんが 喜んで。。。裸像はありませんので
ご安心下さい。』。。。そう 答える 彼の言葉に 何故 私は
ホッと。。。。したのだろう。
『では 今度は 僕の番ですね。1 何故 モデルを承知してくれたのか。。。2。。。』
『あら。。。ズルイですよ。。。幾つも一度に質問は。。。』
『あっ。。。。バレマシタか?』
(何年振りだろう。。。。こんなに 素直に 人と言葉を 交わすのは。。。。。)



帰宅途中のタクシーの中で
私は 辛うじて 気分の悪さに耐えていた。
私の体の中で 『新しい命』が 宿っている。。。。
それを 心から 喜んで上げられない 哀しみが 私の心を
切り裂くようだった。
夫も きっと。。。喜ぶとは 思えなかった。
又 子供が 生まれたからといって 何かが 変わるとも 思えなかった。



私の 『青写真』 の中には 
私が経験し 育ってきた明るい家庭が 何一つ 見えなかった。。。。




               『影絵』 短編小説 (7) 『青写真』 』
by deracine_anjo | 2004-08-24 23:10 | 『影絵』  短編小説
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父が この世を去って 一段と 祖父の心は
私の『結婚』を望みに 生きているようだった。。。。
母は めっきり 笑わなくなっていた。まだ 哀しみから 
立ち直れていなかった。
弟の裕樹がインターンとして 大学病院に勤める事が決まった年
私は 『林田』 と 結婚した。
それを 待っていた様に 祖父も 亡くなった。
そんなある日 母は 私に 告げた。
『林田さんに病院は譲って お母さんは 前から頼まれていた
離島の病院に 行こうかと思っているのだけれど。。。。
繭は お母さんの 我儘を 許してくれるかしら?』
突然の話しに 私は 取り乱した。
あの病院は 祖父から母に。。。そして 祐樹に。。。それが
当たり前だと思っていたのに 母は いったい何を考えているんだ!!
『駄目よ。あの病院は 祐樹が継ぐのだから。。。。』
淋しそうに微笑んで 母は
『祐樹は 大学病院に残って 研究を続けたいらしいの。
それに 心臓外科 ですもの。うちの病院では 内科専門の林田さんが
継いでくれるのが 一番なのよ。祐樹は 賛成して くれたの。』
確かに 母の言う事は 正しい。
でも。。。。私の中では 『ざらり』とした拒否感が 芽生えていた。



『あっ。。。少し 休憩しましょうか?疲れたでしょう。』
彼の声に 私の思考は 中断したが 正直 久し振りのモデルは
少し 疲れ始めていた時だったので その提案に 微笑んだ。
『紅茶でいいですか?ホットとアイス。。。どちらが?』
『アイスで御願いします。』
『ミルク・ティーですね!』
軽やかに 隣のドアを開けて 彼は消えた。
その時。。。もう一つのドアがノックされ 女性が入ってきた。
とても現代的な雰囲気をもった美しい女性だった。
『始めまして。私 ここのオーナーの佐々木 麗子 と 申します。
この度は 岡部くんが 『描きたい方を やっと見つけた』って
喜んでいたので チョッと ご挨拶に。。。』
一瞬 耳まで赤くなった様な気がしたが 辛うじて
『始めまして。。林田 繭子ともうします。唯のそこら辺りにいる 
唯の主婦です。岡部さんの買い被りです。お恥ずかしい。。。』
余裕を漂わせ 微笑みながら
『ご謙遜を。。。岡部くんの気持ち 理解できる様な気がしますわ。
絵が 楽しみです。 モデル 宜しく 御願いします。。。。では。』
そう告げて 彼女は 去っていった。
酷く疲れた気がした。。。。



母の話しを 林田に告げるまでに 数日 私は 悩んだ。
そろそろ 林田自身が 開業を考えているのは知っていた。
けれど 何かが 私に 母の話しを 林田にするのを 躊躇わせていた。
でも 痺れを切らした母からの電話に 何処かで 諦めながら
林田に 話す事にした。
夕食後。。。新聞を読みながら ワインを楽しんでいる時は
機嫌の良い時だ。。。今夜 話すしかない。
『貴方。。。チョッと お話しがあるのですが 構いませんか?』
新聞から顔を上げた 林田は 案の定 機嫌よく
『ああ 構わないよ。難しい話で無ければね。』
笑いながら そう告げると ソファーに深く腰を沈め
改めて 私を見つめた。
『実は 御願いがありますの。突然で 驚かれるかもしれませんが
貴方に うちの病院を 継いでは戴けないかと
先日 母が 言って来まして。。。。』
(何故 私は こんな 言い方でしか 林田と話しが出来ないのだろう。
心で そう思いながら 言葉を選びながら 話し続けた。。。。
哀しみが 心を 満たして溢れそうだった。)
『ご存知の様に 祐樹は心臓外科を 大学病院に残って 
まだ研究していきたいと申しておりますし 
何より 母が 前から頼まれていた『離島の医師』として
行きたいと申してきたのです。』
『すみません 勝手なお話しをお聞かせして。。。』
一瞬 驚いた様子だったが 急に相好を崩し
『僕もそろそろ 開業を考えていた所だったが そう言った話しなら
勿論 喜んで継がせてもらうよ。
あの病院は 無くしてはいけないよ。唯 少し 手を入れなければいけなく成るけれどそれは 構わないだろう。。。』



『無情な時』 が 私を 飲み込んでいった。。。。



            『影絵』 短編小説 (6) 『無情な時』 』
by deracine_anjo | 2004-08-23 18:22 | 『影絵』  短編小説
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『貴方。。前の職場で どうしても 暫く 手伝って欲しいと
連絡があったんですけど どう お断りしたら いいかしら?』
夕食時 私は こう 切り出した。
『貴方に ご迷惑 お掛けするから お断りするのが 一番よね。
ごめんなさい。下らない ご相談なんてして。。。。』
(私には この結婚生活で 夫という人間との 付き合いに
何度も失敗を繰り返しながら 少しづつ 学んで行った。
彼の 自尊心を 適度に 刺激しながら こちらが謙れば 
夫は 機嫌が良いと言う事を。。。。)
『それは 長い時間なのかい?僕に迷惑が掛かるくらい?』
『いいえ。。。お昼間 数時間のお話ですけど。。。お断りしますわ。』
『なんだ。。。。数時間なら 習い事をしてるような物じゃないか。
頼まれて 断るなんて それこそ 僕の人間性まで 疑われるよ。
君を 外に出さない夫だと 思われて。。。。
お受けしなさい。』
(そう。。。。貴方は 世間体が一番大事。お仕事にも 関わる事ですものね。)



祖父が 思ったよりも 回復が思わしくなく
そのまま 母だけで 病院を 切り盛りするようになった。
弟は 丁度 受験。
祖父 母 の跡を継いで 医者になると 早い内に 人生を決め
東京の国立大学に トップの成績で 入学が決まった頃だった。
フラリと。。。。何も告げず 父は 出て行った。
今までにも 何度か 似た様な事は あったので
又 何も変わらない顔をして ちょっと近所に行ってきた。。。
そんな感じで 戻ってくるだろうと 母以外の家族は 皆 思っていた。
しかし 今回は 違った。
『虫の知らせ』。。。と言うのであろうか。。。。
今回に限り 母は 動揺した。
『お父様は。。。もう 帰ってこない。』
何度も 母は うわ言の様に 事あるごとに 呟いていた。
そして。。。。1年後。。。。警察から 連絡が 入った。
『突然で 驚かれるとは思いますが 身元を確認していただきたいのですが。。。
所持品から こちらの 住所が 出てきたものですから。。。』
電話の向こうから 実直そうな男性の声を 私が 受けた。。。。
(父 だと 思った。。。。)



午前中 家の用事を 早めに切り上げ 美容院に行き
髪を 品良くアップに まとめて貰い 帰宅して
夕食の下ごしらえをしたのち
前日から用意していた 『絽』 の着物に着替えた。
これは 私が 始めて 講師として仕事を始めた記念に
母が 買ってくれたものである。
家の中を 一通り 確かめて
私は 彼の 『アトリエ』 に 向かった。
詳しい事は 聞きたくない私の性格からでも
その『アトリエ』を 提供している人は 彼の『パトロン』的 存在なのだと
思ったが 勿論 聞くつもりも 詮索するつもりも ない。
私が 結婚以来 『自分』で 選んだのである。。。。
『モデル』 になる事を。。。『嘘』を付いてまで!
他の事は 私には 関係の無い事。。。
彼から渡されたメモに書かれてあった 住所は 簡単に見つけられた。
都内でも一等地のギャラリーの一角が
彼の 『アトリエ』 になっていた。
ドアを開けた彼は 眩しそうに 私を 見つめた。



父は 何故か 『長野』 にいた。
そして。。。。小さな部屋を借り 子供達やリタイヤした方達相手に
『絵画教室』を開いて 生計をたて 慎ましい生活をしながら暮らしていた。
しかし 部屋には 自分自身が 書いた絵は 一枚も 無かった。
祖父の体の事があったので 私と弟で 身元確認に出向いた。
どれだけ 母が 逢いに行きたいだろうと 後ろ髪を引かれながら。。。
『急性心不全』。。。絵画教室の日に 来られた方に 発見された。
多少 苦しんだ感はあったが 何故か 私には
『穏やかな顔』に見えた。。。。
弟も同じ様に感じたみたいに、
『何だか オヤジ 楽になったみたいな顔してるな。。。よかったョ。』
ポツリと呟いた。。。
お世話になった方々に お礼を言い 母の待つ家に
1年振りに 父を 連れて帰った。
『お帰りなさい。』。。。。そう言ったきり 母は 私達の前で 二度と
涙を見せなかった。
毎晩の様に 母の部屋から 声を殺した嗚咽が聞こえてきていた事を
私は 一生 忘れないだろう。。。。と その時 思った。



『自然にしてて下さい。何か 好きな音楽でも 掛けましょうか?』
岡部 優一の声に 過去から引き戻された私は
何事も無かったように 取り繕う余裕も無く
一筋の涙が 頬を伝って落ちていく事を 止める事が 出来なかった。
彼は 静かに 立ち上がり
CDを セットして 優しく振り向いた。。。。
『ショパンで構いませんか?』
静かな調べが アトリエの中に流れ 私を 包み込んでいった。。。。
『ありがとうございました。正直 半分以上 諦めていたんです。
繭子さん。。。ご主人に 嘘を付かれましたね。。。。
でも その涙は 罪悪感の涙じゃない。。。何かを 思い出された
涙ですね。。。又 余計な事を 喋りすぎますね。僕は。。。。』
『ごめんなさい。。。。昔の事を 少し。。。
余り 長居は出来ませんので お気に為さらず 宜しければ 始めて下さい。』



頷いた彼は キャンバスに向かい
私は。。。。彼が 私の事を
『繭子』 と 呼んだ事に。。。。始まりを 感じていた。。。
そう。。。。昔 父がいつも 呼んでいた声に重なり
いつの間にか 穏やかに 微笑んでいた。
『繭子。絵を描くから こっちに来て モデルになってくれ~~~。』
その度に 母は 怒っていた。
『どうして 私ではなくて 繭なの!!』。。。と。
怒る母の瞳が 暖かい愛情で満ち溢れていたのを
子供心にも 感じ 嬉しかった。


『嘘』 の 欠片もない。。。。あの日々が
何故 壊れてしまったのか。。。。



             『影絵』 短編小説 (5) 『嘘』 』
by deracine_anjo | 2004-08-22 23:45 | 『影絵』  短編小説
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林田とは 見合い結婚だった。
研修医として 大学病院に勤務していた時に
祖父が 持病の心臓の調子を悪くして入院し そこで めぐり会った。
母は『何だか 冷たそうな人ね。』
悪口ではないが ポツリと呟いたのを 今も 覚えている。
唯 前途 有望な医師であると もっぱらの病院内での噂話を
小耳に挟んだ祖父は 事有る毎に
『私が生きている間に 繭子 の 花嫁姿をみれるかな?』
それとなく。。。林田を 気に入っている様子を 私に 告げていた。
私自身は 『着付けの講師』という仕事と
染色や絵付け等に 興味を持ち始めていた時期だったので
祖父の願いを まだ 聞いてあげる事は 当分 無理だと心の中で
『ごめんなさい。』。。。と 謝っていた。
父は 相変わらず 『売れない絵』 書き続けていた。



『又 ご気分でも 悪いのですか?それとも 僕の申し出に 
気分を害されたのですか?』
彼の言葉に ボンヤリしていた事に気が付き 慌てて
『いえ 違います。チョッと 考え事をしてたものですから。。。。』
彼は 納得したように
『こんな 不躾な 申し出を聞かされれば 驚きますよね。
直ぐに お返事を してくれとは 言いません。数日 待ちます。
それで ご連絡が無ければ 諦めます。ですから これは 頂きます。
ですから 断る事に 何の躊躇いも 必要ありませんからね。』
少し 体がお店のエアコンで冷えすぎてしまったようだ。。。
一瞬 辛そうな顔を 彼は 見逃さなかった。
『この店 少し 寒すぎますよね。。。出ませんか?』
私は 彼の言葉に 驚きと感謝を感じた。
(私が 求めていたものは こんな優しさなのかも。。。。乾いていた華に
水が与えられた様な 思いがした。)



気が付くと 私の気持ちとは別の方向に いつの間にか向かっていた。。。
気弱に成っていた祖父は (孫)可愛さと願いを籠めて
それとなく 林田に 打診していたのである。
そして 何故なのだろう。。。
林田は 祖父の申し出に対して
『まだ 研修医の身ですから 直ぐにとは行きませんが
私の様な者で宜しければ 繭子さんと 結婚を前提に お付き合いを
させて頂きたいと 思います。』
そう 答えたのである。
その事は 後になって 祖父と母から聞かされたのだが
その時点で 母は祖父に やんわりと 
『繭子には 好きな人と 結婚してもらいたいから そっとしておいて上げましょうよ。』。。。と 祖父を 諫めてくれた様だが
もう 祖父の心は 私の『花嫁姿が観れる。』その事で 一杯だったようだ。



『まだ。。。お時間大丈夫ですか?』
少し見上げるような形で 彼の顔を見ると
まだ 少年のような面影を 何処かに残しているように思えた。
『ええ。。。大丈夫です。ありがとうございます。気が付いて下さって。』
『ああ。。。僕も 寒かったですから。』
零れるような白い歯が 一段と彼を 清潔そうに見せていた。
『この先に 公園が あります。行ってみませんか?』
コクリ と 頷き。。。少し 離れた間隔を保ちながら 公園へと向かった。
『林田さんは 時折 遠くを見つめていますね。
あっ 又 余計な事を 言ってしまった。 すみません。』
ペコリ。。。と頭を下げた仕草に 思わず 声を出して 笑ってしまった。
(いつ振りだろう。。。こんなに 素直に 笑ったのは。。。。)
『ほら 又 遠い目をした。。。』
今度は 私が ペコリ。。。と頭を下げ
『癖なんです。。。いつからか 付いてしまった。ごめんなさい。
不機嫌な訳じゃ 有りませんから、ね。』
微笑んで 私は 話しをしていた。
穏やかな 気持ちで 心が 満たされていくのを感じていた。
『僕も そんなに お喋りじゃないんですよ。偏屈だと よく 言われます。
でも 不思議と 林田さんの前では 口数が 多くなる。不思議ですね。』



表に出る言葉と 心で共鳴する言葉が
彼と私の中では 同じ波長なのだと。。。感じていた。
彼も 同じ様に。。。。



夕暮れ時には まだ 当分 時間のある公園では
子供達が はしゃぎまわり。。。その傍らには 子供を見守る母親達の
穏やかな風景が 広がっていた。。。。



私が 『林田の子供を生む。。。』。。。。一瞬 又 蜃気楼の中の
『父』を そして 『彼』 観た様な 気がした。。。。



              『影絵』 短編小説 (4) 『めぐり会い』 』
by deracine_anjo | 2004-08-21 18:13 | 『影絵』  短編小説
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帰宅のタクシーの中 私は ボンヤリ 昔の事を 思い出していた。
私の家族は。。。両親と弟の4人家族。
まだ 私が幼い頃は 現役の祖父が 母と一緒に 町の小さな
小児科医を営んでいた。
祖母は 早くに病で 他界して 余り 記憶がない。
そして 父は。。。。『髪結いの亭主』 だったのである。
大好きな父ではあったが 何故 母が 父と結婚したのか 
時として 子供心にも 不思議でもあった。
父は 売れない『画家』だったのである。
『夢』を追いかけ 結局 『夢』 を手にする事もなく 病に倒れた。
そんな父を 母は 子供から見ても 『愛していた』。
何度か 公募のコンテストに 入選した事もあったが
結局 『売れる絵の書けない画家』 で 終わった。
その父の 『一番の理解者』 が 『母』 だったのだ。



『お客さん この辺りで 良いんですか?』
運転手の声に 現実に引き戻された私は 慌てて 鞄から財布を取り出し
『ごめんなさい ボンヤリしてて。ここで 結構です。』
車を降りた私は 一つ 溜息を付いて 周りをゆっくり見渡した。
この閑静な住宅地に 家を建てて もう直ぐ 5年が経つ。
ある日突然 仕事から戻ってきた夫は
『決めたぞ!!』 少し興奮気味に 呟いた。
着替えを手伝いながら 夫が 何を言っているのか
私には 理解できなかった。
そう。。。私たち夫婦の関係は そう言った 関係だったのである。
何でも 夫は 自分で決め 私に 相談をするなどと言う事は
結婚以来 一度もない。
もう 淋しさを 感じる事も無くなった。
受け入れる事 諦める事 を 覚えた途端 楽になったからだ。
『何をですか?』 夫が 脱ぎ捨てていく洋服を片付けながら 尋ねた。
『家だよ。家を建てる事が 今日 ハッキリ 決まったんだ。』
。。。。。これには 些か 私も 呆れたが
何とか 顔に出さない様に クローゼットに向かった。



突然の申し出に 一瞬 私は きっと間の抜けた顔をしていたと思う。
何とか 平静を取り戻そうと 解けて薄くなったミルク・ティーを
一口 飲みながら 今一度 『彼』 の言葉を 心の中で反復していた。
『この封筒の中身は 幾らかの お金ですよね。
正直言えば 喉から手が出るほど 頂きたい。
絵の具は 高い物ですから。。。でも それより 僕は 貴方に。。。
林田さんに 『モデル』 に成って頂きたいのです。駄目ですか?』
真っ直ぐなココロで 見つめる瞳に 私は たじろいでいた。
それでも 辛うじて
『モデルさんだったら もっと お若いお綺麗な方が 沢山いらっしゃるでしょうに 何故 私なんかを?』
『失礼ですが 若い女性を 書きたいとは思わないのです。
それに 林田さんは 着物を 着られませんか?』
流石 絵を描く人間の 洞察力だ。
その感性は 父と同じだ。。。ココロの中で 呟いた。
『何故 そうお思いに?はい 確かに 着付けの講師免許も
持っておりますし 着る事は 多いですが。。。。』
『身のこなしです。。。何気ない 素振りで 分かるのですよ。』
少しはにかみながら 零れるような微笑みに
私は 自分が 了解するだろう。。。。とボンヤリ 思っていた。



そう。。。。あの時 『蜃気楼』 を 見たと 消えていく意識の中
感じたのは こうなる事を 予感していたからかもしれない。。。。



一瞬。。。。。『父』 の姿が 『岡部 優一』 と。。。
                       重なって。。。。消えた。
by deracine_anjo | 2004-08-20 14:28 | 『影絵』  短編小説
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約束の時間より 少し早めに 指定したお店に辿り着き
ドアを開けた瞬間に 私は 『彼』。。。を 見つける事が出来た。
『岡部 優一』は 何か熱心に雑誌を読んでいて
テーブルの側に立つ私に 気が付かない様子だった。
いや 正確にいうと 『彼』の時間の中に 外界は 存在していない。。。。
そう表現した方が 正しい気がした。
それでも 今日 こうして 逢う約束をした義務を果たす為に
私は 意を決して 声を掛けた。
『遅くなりました。 岡部 優一さんですよね。
先日 路上で 助けて頂いた 林田 繭子です。』
ゆっくりと 眼差しを 私に向けた 『彼』 の 瞳は
想像に反して 思いがけず 暖かだった。



『立ったままでは 話しが出来ませんよ。』 微笑みながら 『彼』は
前の椅子を 指差し パタリと 読みかけの雑誌を 閉じた。
『あっ!!』。。。思わず声に出してしまって 私は 1人うろたえていたが
『彼』に その理由など 分かる筈もなく。。。一瞬 眩しそうな顔をして
『何か 頼まれますか?外は 暑かったでしょう。』
さりげなく 会話を 逸らしていた。
『あっ では アイス・ミルクティーを。。。。』
オーダーを取りに来た アルバイトらしき10台の女の子に注文をし
改めて 目の前の 『岡部 優一』 を 一瞬 見つめた。
洗いざらしの白の綿シャツにジーパン。。。
義弟と同じ 年頃かしら?。。。。そうすると 30台前後?



クスリ。。。と 『彼』は 笑い。。。それは 私のココロを見透かしている。。。
そんな感じだった。
一瞬 顔が 火照るのを 感じた。
『お呼びたてして 申し訳ありませんでした。
どうしても キチンと お礼が言いたくて。。。。本当にあの時は
ありがとうございました。』
何とか 一気に 言葉を 吐き出すように告げた。
そうでなければ 私は 『彼』の瞳に 飲み込まれてしまいそうだった。
『当たり前の事を しただけです。御礼には 及びません。
名前を 病院で聞かれた時も 随分 お断りしたのですが。。。。
お加減は もう 宜しいのですか?』
『アイス・ミルクティー お待たせしました~~』
話の腰を 折るように 女の子が 注文した物を 持って来てくれたお陰で
私は 何処か 救われた気がしていた。



病院の洗面所で 何とか 顔色の悪さと髪を直して
保険書を持っていなかったので 後日 清算に来るという事で
事務的な事を済ませ タクシーに飛び乗ったが
どう計算しても 遅れてしまう。。。。焦る気持ちとは裏腹に
今日の事を 夫に 話す決心がつかぬ間に 約束のレストランに
静かに タクシーは停まった。。。。5分 遅れだ。
ドアを開けると 少し 不機嫌そうな顔をして ロビーで夫は待っていた。
『どうしたんだい?キミが 遅れるなんて。。。。美容院には 
行かなかったみたいだし。。。。』
言葉の棘を 私に向けながらも 相好は崩さず 支配人に案内されながら
私達は 予約席に 着いた。
『この度は 結婚記念日に 当店をご利用頂きまして
誠に ありがとうございました。当店より ささやかではありますが
シャンパンのプレゼントを させて頂きます。』
『それは ありがとう。今夜のシェフの 料理を 楽しみにしているよ。』
相変わらず 相好を崩さず 夫は 支配人と言葉を交わし
彼が 立ち去った瞬間に 私を 射るような瞳で見ながら
『で。。。。遅れた理由は?僕は 10分前には来て キミを 待っていたんだが。。。』
『すみません。気分が悪くなったので 休んでるうちに 遅くなりました。』
(私は 夫に 全てを言わないだろう。。。その時 思った。)



『で。。。。今日 僕を 呼び出されたのは?』
『あっ、私 最近 ボンヤリしてしまってばかりで。。。。ごめんなさい。
夫に 先日の事を 話したところ 命の恩人だと申しまして
キチンと お礼を しなければ いけないと 申し渡されたものですから。。。
不躾とは思いますが お受け取り 頂けませんでしょうか?』
テーブルの上に 置いた 白い封筒を 一瞥して



『モデルに なって 頂けませんか?
ご安心下さい。裸体では ありませんから。。。。』
ココロを 掴んで 離さない。。。。『蒼い瞳』で 『彼』は そう告げた。
そう。。。。抱きとめられた瞬間 『蜃気楼』 を観た。。。
遠のく意識の中で 感じたのは 間違いでは なかった。。。
『彼』は 私が 愛した『父』と 同じ 香り がしたのだ。。。。



『彼』 は 画家の卵なのだ。。。。





              『影絵』  短編小説 (2)  『モデル』 』
by deracine_anjo | 2004-08-20 00:35 | 『影絵』  短編小説
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私は 何を 求めているんだろう。。。。
私は 何を 探しているんだろう。。。。
私は 何処に 向かっているんだろう。。。。



同じ言葉を 何度も何度も 『私自身』に 投げかけながら
街の雑踏の中を 歩いていた。
時折 すれ違うサラリーマンの不躾な視線の中
何かに 追われる様に 私は 『今年一番の暑さ』 だと 
今朝観たテレビでアナウンサーが言っていたのを 
思い出しながら 歩み続けた。。。。


けれど 一瞬 時間が 停まった様な気がした。。。。
『あっ。。。倒れる。。。。』 そう 思った瞬間
力強い力で 受け止められ 辛うじて 路上に倒れこむ事は 
免れたのは 分かった。。。
遠のく意識の中 陽射しを背にした若者らしき彼の顔は
もう。。。私には 見えていなかった。
『大丈夫ですか?』 微かに聞こえる声が 遠のいていく。。。。


目覚めた私は 白い壁と消毒薬の匂いで
ここが 病院である事は 直ぐに理解する事は 出来た。
『気が付きましたか?今 医者を呼んできます。』
日に焼けた端正な顔立ちの青年が 自然な素振りで私の顔を覗き込み
軽やかに ドアから姿を消した。
(思い出さなければ。。。。
そう。。。今日は 『結婚記念日』だからと 夫がレストランを予約して
その前に 私は 美容院に向かう途中だったのだ。)
時計を見て (まだ 間に合う。。。)。。。そう 思った瞬間
ドクターが 看護婦さんと共に 入ってこられた。


『妊娠してらっしゃいます。丁度 3ヶ月目に入った所です。
今が 一番大事な時期ですよ。 あの方が 助けていなかったら
大事に到ったかもしれません。 注意してくださいね。
ところで 今日は大事をとって 泊まっていかれますか?
ご家族に 連絡しましょうか?』
温和に話される初老のドクターに
『ありがとうございました。でも もう 大丈夫ですので。。。。
ところで 私を 助けてくださった方は?』
『ああ もう 帰られました。一応 お名前とご連絡先は
お伺いしてますよ。』。。。そう言いながら 看護婦さんが 
一枚のメモを渡してくれた。



『岡部 優一   品川区。。。。。』
少し角ばった 誠実そうな字で書かれたメモを見ながら。。。。



『何かが 始まる』。。。。。。


      『蜃気楼』。。。。を観た様な 気がした。



              『影絵』 短編小説 『蜃気楼』 』
by deracine_anjo | 2004-08-18 15:31 | 『影絵』  短編小説