『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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『影絵』 短編小説 (8) 『決断の時』 』

『影絵』 短編小説 (8) 『決断の時』 』_a0021871_2522022.jpg


私の体の内なる声に 耳を塞ぐ訳にはいかないと思いつつ
夫に告げる事を 一日伸ばしにしていた。
それは 一つには 夫が 手放しで喜んでくれる自信が無い事と
正直に言えば 今 岡部 優一 と 逢えなくなるのが 
辛かった所為だった。
喜ばないまでも 夫は 私の自由を 一段と束縛し
当然 『着付けのお手伝い』 も 辞めさせられるだろう。
逆に言えば 夫が 手放しで喜んでくれる人だったならば
私は 岡部 優一のモデルの仕事を 引き受けたりは しなかっただろう。。。。
夫は 『クリニック開業』の成功に 最近は特に 機嫌が良かった。
話し合うのなら 今しかない。。。。
(何故 喜ぶべき事実を 話し合う?。。。そう考えただけで
私は 独り 哀しみの湖へと 沈む気がしていた。。。)



『後 数回 来て頂ければ お見せ出来ますよ。』
微笑みながら 彼は 休憩しましょうと いつもの様に
隣のドアに 消えていった。
彼は 私に 描いている絵を 一度も まだ 見せてはくれていなかった。
出来上がった時に 一番に 観て欲しいから。。。。と。
でも 私は もう 余り時間が 無い事を 彼に告げなければ。。。。
今日。。。ここに来るまでの間に 繰り返し言葉を 捜していた。
『今日は 暖かい ダージリンですが 大丈夫かな?』
一瞬 彼が 言った言葉の意味が 分からなかった。
いぶかしげに 次の言葉を 待つと。。。
『あの日 帰り際 聞いてはいけないと思いつつ 医者の話しを。。。。
すみません。』
。。。。そうだったのか。。。。彼は 知っていたんだ。
『少し 話しを 続けても 構いませんか?』
動揺している私を 気遣いながら 言葉を 続けた。。。
『僕は あの時 一瞬にして 貴女に 恋をした。
僕は 生い立ちから 現在に到るまで 誰にも ココロを 許した事も
開いた事も ありません。
あんな。。。(あっ、失礼)。。。でも 映画みたいな出会いで
僕自身が 人に ココロを 動かされるなんて 考えてもみなかった。
でも。。。。貴女に 惹かれた。たった 一瞬 この腕に 
偶然 抱きとめただけなのに。。。』
次の言葉を 捜すように 彼は 窓辺に立った。
『もう。。。余り 時間がありません。私は 籠の鳥。。。
絵を 早く 完成させてください。』
その背中に そう呟くのが 精一杯だった。。。。



不覚にも ここ数日 体調がすぐれず。。。
朝食の用意をしている時に 夫に 気付かれてしまった。
部門外とはいえ 医者の夫の目を 騙せる訳はない。。。。
『今夜 ゆっくり 話そう。。。今。。。。何ヶ月に?』
『すみません。。。私が ボンヤリしていたもので。。。。そろそろ
4ヶ月に。。。。』
『跡継ぎが 僕に 出来た訳だ。それは 凄い!!』
予想した通り 言葉とは裏腹に 夫の冷たさが ココロまで 
凍えさせてしまいそうだった。
夫には もう 外に 子供が居る事を 知っていた私にとっては。。。



『決断の時』は。。。。近いのだろう。。。。
いつもの様に 変わりなく 夫を 玄関先で見送りながら
私は 独り 呟いた。。。。



           『影絵』 短編小説 (8) 『決断の時』 』
by deracine_anjo | 2004-08-26 03:58 | 『影絵』  短編小説