『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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『凍えた月を見つめて』 小説 (16)


穏やかな昼下がりの セントラルパークで 日本人二人の姿は 誰の目にも特別不自然でもなく しかし 少しだけ 二人の間に流れる空気が 異質であったかもしれない。
伯母の話を 瞳を閉じ 気が付かぬ内に 自然とお腹に手をあてながら 何も語らず 一言も漏らさぬ様に聴きながら 東京に居る拓哉の姿を思い浮かべる明子。
自然と 瞳から 滴り落ちてゆく涙。。。
その姪の姿を見つめながら 陽子は 言葉を続ける。
『今の貴方にとって 貴方の人生で 一番大切なものは何?NYでキャリアを手に入れる事?
お腹の子供?拓哉さん?』
静かに けれど 単身やはり このNYに来て 色んな辛苦も舐めて来ただろう陽子の言葉は 優しさと厳しさと愛情のある 暖かい言葉として 明子の心に響いていた。
拓哉は きっと 眠れぬ夜を 幾夜も過ごした事だろう。
私の名を 何度も 心の中で 叫んでいた事だろう。
それでも 私を励ますメールを 送り続けてきてくれた優しさ。。。。
それに甘えていた自分。
嫌。。。周りの人間全てに 甘えてきたのだろう。
痛みが 心を 突き刺していた。
今直ぐに 拓哉の元に帰るのが 一番なのだ。
この命と 拓哉を支えて 生きていく事が 私の幸せなのだ。
その事に 躊躇う余地など無い筈。。。。



明子の心の中で 沢山の葛藤が見て取れた。
単純に 『帰国する』 という子だと想っていたが このNYに来て あの幼かった明子ではなく ひと周りも ふた周りも 成長していたのだろう。
静かに 明子を見つめる陽子には 明子の答えは もう 感じていた。
其れが 血を分けた者だけが分かる 心だと想いながら 明子が口を開くのを 唯 
黙って 見つめる陽子だった。
止め処も無く美しい横顔を 濡らし続けていた涙が 次第に乾いてゆく。
綺麗な強い娘に成ったものだ・・・・ふと 微笑が浮かぶ陽子。
そして。。。



『伯母様 長い間 辛い思いをさせてしまって 本当にすみませんでした。
何も知らなかったとは言え 伯母様や周りの方 そして 拓哉に今更ながら 守られぬくぬくと 自分の事だけに 生きていた自分が恥ずかしい。
けれど 今は 帰りません。
今迄通り 拓哉との会話も 変えません。
今 拓哉にも 私にも 互いの存在がどれだけ必要で大切なものか 分かっています。
でも 拓哉は きっと 復帰します!!
神が与えた転職です。諦める筈が ありません。
其れまでの姿を 私には 見せたくは無いでしょう。
だから 私は 何も知らないまま 復帰した拓哉の姿を観に 帰国します。
我が儘を 許して頂けないでしょうか?』



『その代わり このこの命は これから先 どんな事が有ろうと 守り抜きます。』

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                             『四季折々に・・・・様 撮影』


              『凍えた月を見つめて』 小説 (16)
by deracine_anjo | 2005-10-27 22:56 | 『凍えた月を見つめて』 小説