『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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『凍えた月を見つめて』 小説 (13)


何とか 切迫流産の危機から脱した明子は一般病棟に入り 数日を過ごしていた。
心の中で もしこの子の命を失ってしまっていたら 拓哉に申し訳ない・・・そんな事を考えながら 窓から見える木々達や鳥達を見つめていた。
毎日見舞いに来てくれる伯母の陽子も 何か考えているような様子だ。
拓哉に心配を掛けたく無い為に 伯母に拓哉へのメールは頼んであるが プリントアウトされて持って来てくれる拓哉のメールも 少し 不自然な感じが 何故か明子の心を 不安にさせていた。
私は 間違っていたのだろうか。。。
心の何処かで 輝く拓哉に対して 自分自身が無い様な劣等感を 感じ始めて この道を選んだ筈なのに 間違っていたのだろうか。。。
拓哉の心に甘えた罰が この様な状況に成ってしまったのだろうか。
体力は順調に回復していくのに 心が始めて 立ち止まってしまった明子だった。



いつの間にか眠って仕舞った拓哉は 窓から差し込む日差しで目覚めた。
時計を見れば 昼を概に過ぎている。
一日 考える時間を与えられてた事をボンヤリ思い出しながら のろのろと起き上がり 取り合えずシャワーを浴びようと ふらつく足取りで 浴室に向かった。
頭から 熱めのシャワーを浴びながら 拓哉は始めて 嗚咽を上げて 泣いていた。
思わず拳を握り締め 浴室のタイルを殴りそうになった心を 必死で抑えながら いつまでも 止まらぬ涙で 心は 張り裂けそうだった。
『明子。。。』
搾り出す様に 明子の名前を叫んでいる自分に気付く事も無く いつまでも シャワーを浴び続けていた。 



くも膜下出血の患者の手術を無事終えた美鈴は 成功の安堵感とは別に 昨夜の拓哉の痛みに 美鈴なりに 心を痛めていた。
もう 脳神経外科のスタッフの人間は 大体の事を 誰の口から聞いたのか 知っている様子だ。
同情心 憐れみの空気の中 明日 拓哉がこの場に来る事を想像しただけで 不覚にも涙ぐんでしまう美鈴だった。
『完璧なオペだったな。お疲れ様!』
肩をポンと外科部長に肩を叩かれ  『ありがとうございます。』と 答えながらも 真正面から 外科部長の顔を見る事も出来ず 思わず 顔を洗い始める美鈴の背中が 拓哉への想いを抱えて泣いていた。



それぞれの想いを知らぬ様に 真昼の月が浮かび 空は哀しいほどに 青かった。

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              『凍えた月を見つめて』 小説 (13)
by deracine_anjo | 2005-10-06 16:33 | 『凍えた月を見つめて』 小説