『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

『寂光の愛・・・生命』 (26)

到着ロビーは もう そろそろ 人影も少なくなる時間。
けれど 私には 直ぐに彼を見付ける事が出来た。
そして 彼も同様に 一直線に 私に向かって 駆け出してくる。
眩しい程の微笑で・・・・。
そして 次の瞬間 私達は もう何年も 逢って居なかった様に 人目も憚らず 抱き合っていた。
『お帰り。いい顔してるね。皆さん お元気だったんだね。』
耳元で優しく呟く声。
『ええ。母も元気でした。こちらが ハラハラするほどに。』
『それは よかった。思い立って 帰ってよかったね。でも 疲れただろう。食事は?』
『私は お昼にたんまりと 母の手料理を食べさせられたので もう 充分だけれど 竜司さんはお腹が空いているのでは?』
そう言った瞬間 一瞬だが 彼の 心の痛みが 伝わった。気のせいかもしれないが・・・・。
『実の所 今日は オペが続いたから 倒れそうな程 空いてるんだ。少し 付き合ってくれるかな?』
大らかに 答える彼の言葉には もう あの感触は見当たらない。
『ええ。勿論 お付合いさせて頂きますわ。』
『じゃあ 行こう!!』
彼は私の手荷物を片手で持ち 左手で そっと 私の腰に手を添える様にして 歩き始めた。



食事中も笑いの絶えない時間だった。
弟の康孝も 気持ちの良い位に 食事を楽しみ 見事な食べっぷりだが 彼も又 この細い身体の何処に入って行くのだろうかと 想うほど 見ていて楽しくなる食欲。
けれど 育ちというものが こういう時に 案外出るものだ。彼は紛れも無く キチンとした家庭で育ってきた人なのだと想う。
けれど ふと 今更ながらに気が付くと 彼は余り 自分のご両親の事を 話さない。
空港で感じた 彼の痛み・・・・なのかと ボンヤリ考えていると
『どうしたの?疲れが出てきたかな?』
そう・・・・この 繊細さも もしかすると 其処に あるのかと想いつつも
『大丈夫。竜司さんの 食欲 弟の康孝より 凄いかも・・・と 想って。何処に 入るの?』
『ああ・・・昔から 痩せの大食いとは よく言われたな~~。でも 獣医はある意味で 肉体労働的な部分があるから。それに ほら・・・・』
そっと シャツの袖を捲って見せられた物は まだ 新しい傷。
『それって・・・・前 話してたみたいな事?』
『そう。人間だって あちこち 訳の分からない検査されたりすると 不安になるよね。まして 動物にとっては 恐怖以外の何ものでもない。
細心の注意はするし 時には 口輪もはめる。でも逆にその瞬間が 危なかったりする。僕が犬でも 噛むと想うよ。』
彼と逢い 彼と語り合えば 合うほどに 私は 彼に惹かれて行くのが分かる。
『さぁ・・・美樹さんと一緒に食事も出来たし 満腹にもなったし 送ります。行きましょう。』



自宅に戻った私は バスにお湯を張りながら 彼との別れ際のkissを 思い出していた。
そして 彼の言葉・・・・。
『僕はまだ まだ 獣医として半人前です。美樹さんも 今の仕事を大事にしている。だから 焦りはしません。けれど 僕の気持ちは 決まっています。あの日の言葉以上に 今は もっと 貴方を愛しています。
もっと 正直に言えば 僕が一人前に成る前に 誰かが さらって行ってしまうんじゃないかと心配しています。
美樹さんの気持ちは どうですか?今夜は 疲れているでしょうから 聞かずに帰ります。でも 今度 お逢いした時に 答えを聞かせて下さい。おやすみなさい。』 
『今日は迎えに来て下さって ありがとうございました。とても 嬉しかった。今考えると ロビーで抱き合った私達を 周りの方 唖然としてましたわね。国際線ならいざ知らず・・・。でも あれが 私の正直な 気持ちです。おやすみなさい。』
『待って下さい。』
彼は 私の全てを包み込む様な 優しさで 抱きしめ 真っ直ぐに
私を見つめ
『心から 愛しています。』
そして 甘い口付けを 交わした・・・・・。



微笑むように 月だけが 私達を 見つめていた。

『寂光の愛・・・生命』 (26)_a0021871_1312111.jpg

by deracine_anjo | 2005-03-29 13:12 | 『寂光の愛・・・生命』 小説