『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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『寂光の愛・・・生命』  (23)

母は予定通りの日に 無事 退院した。
私が杞憂していた事も 昔から店で働いてくれている杜氏さん達の奥さん達が 交代で自宅の事や父母達の面倒を 見て下さっていると康孝から聞かされて ありがたいと思う反面 実の娘が何一つ 出来ない腹立たしさで 私は自分自身に苛立っていた。
尚且つ 母の状態も 順調な回復だと聞きながらも 私は 仕事で ミスを犯してしまう不安定な精神状態に陥ってしまった。
ミスは何とか 挽回出来たが 心が晴れないまま 久し振りに買い物でもして帰ろうと 銀座に足を向けた。
けれど 何を見ても 心が 晴れない。
ボンヤリと歩いていると 遠くから 私を呼ぶ声が聴こえた。
『速水先輩。お久し振りです。お元気でしたか~~~。』
同じ部署だった小野美智子だった。側には 彼氏らしい人が居るにも拘らず 駆け寄ってきて さも 嬉しそうに私の手を 握った。
『小野さん、お久し振りね。お元気そうで 何より。あちらにいらっしゃるのは・・・・彼氏でしょ。今夜は 彼氏に 何か おねだり?』
『あはっ、バレちゃいましたか?実は 今度 結婚退社するので 今日は 婚約指輪の下見なんです。』
『それは おめでとうございます。お式はいつ?』
『6月の花嫁に憧れていたんですけど~~結局 10月なんです。ここだけの話し 出来ちゃった結婚で・・・うふふっ。』
『あら 二重のおめでたね。幸せに成ってね。』
『ありがとうございます。あっ・・・先輩 長谷部常務 御存知でしたよね。
実は 亡くなられたんです。何度か入退院を繰り返して 手術も受けた様なんですけど・・・結局は 全身に癌が転移してしまったらしくて・・・・。』
『それは いつの事?』
『え~~~と・・・2,3ヶ月前だったかな?当時 もう 会社は 大騒ぎでしたよ。』 
『お~~い、美智子~~。』
『すみません、先輩。もう ダンナ気取りで 煩くて。それじゃあ 失礼します。』
小野さんの婚約者が痺れを切らして 彼女を呼んだ為に 詳しい事は それ以上聞く事は 出来ずに 彼女の姿を 呆然と見送った。



私は 携帯を暫く見つめていたが 登録した番号に電話を入れた。
数回のコールで 彼は出た。
『速水です。今晩は。今 お話ししても・・・・』
それ以上 言葉が 続かなかった。
『今 何処ですか?』
『銀座三越です。ごめんなさい。突然 お電話してしまって・・・・。』
『そんな事は どうでもいいです。嬉しいくらいです。今なら 車を飛ばせば 30分で行きます。それまで待てますか?』
『はい・・・。』
『では 待ってて下さい。何処かで お茶を飲んでても構わないですし・・・三越の前で電話を入れますから。それじゃあ。』
暫く 私は切れた電話の音を 聴いていた。
何故 私は 日下部竜司に電話をしたのだろう。
何を こんなに動揺しているのだろう・・・・もう 私には 思考能力が 無くなっていた。
通りすがる人達が 不審げに見て行くのを 感じる。
けれど 私は 流れる涙を止める事も その場から離れる事も出来ずに 只 携帯を強く 握り締めていた。



私は ホテルのラウンジで 日下部竜司と向きあっていた。
三越の前で 彼の姿を見た途端 私は 倒れこむ様に 彼の胸に崩れ落ちた。
一瞬 微かな コロンの香りがした。
そのまま 彼の車に乗せられ 連れてこられたのは 赤坂プリンスだった。
ラウンジに流れる 静かなJAZZ の調べの中 私は 少しづつ 落ち着きを取り戻していた。
『大丈夫ですか?』
静かで 穏やかな声が 長谷部常務の面影に 重なる。
目の前にあったカクテルを 一息に飲み干す私を見つめ 日下部竜司は 
『今夜は 貴方を 一人にする訳には いきません。非常識ですが 部屋を取りました。一晩中でも 貴方の話をお聞きします。どうしても 嫌なら 仕方がありません。お送りします。まだ 僕は 飲んでいませんから。』
『ふしだらな女だと 思わないで下さい。でも 今夜は・・・出来れば 一緒に居てください。』
もう 私には 言葉は 必要なかった。
あの日 偶然に再会してからも 幾度か逢った彼に対して 私は 確実に 好意を感じていた。
それ以上に 今夜 一人で 過ごしたくはなかった。
卑怯かもしれない。
感情に流される 愚かな行為かもしれない。
けれど・・・・私は 彼の胸に飛び込み 癒されたかった。



私は 彼の腕の中で 何度も絶頂感を感じながらも 泣いていた。
その涙を 唇で 優しく受け止めて 彼は 何度も耳元で 囁き続けた。
『美樹さん。貴方の事は 僕が 守るから・・・だから もう 泣かないで。安心して。』
その言葉が 明日になれば 泡沫の夢の如く消えても構わなかった。
私は 彼の胸に 飛び込んだことを 後悔はしない・・・・そう思いながら 
彼の愛撫に 深く 甘く沈んでいった。

『寂光の愛・・・生命』  (23)_a0021871_1392242.jpg

by deracine_anjo | 2005-03-26 01:40 | 『寂光の愛・・・生命』 小説