『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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『寂光の愛・・・生命』  (5)

弟と二人で住む為に借りたマンションは 一人では 広すぎる。
けれど 新しい住まいを見つけるには お金は勿論の事 手間と労力 それに ある程度の妥協が必要になる。今の環境に かなり満足している私は 身分不相応とは思いつつ 未だに このマンションを離れないでいる。
その分 贅沢は出来ないけれど これが 私の贅沢なのかもしれない・・・・・。
そう思いながら 休日の一日は 掃除や洗濯 買い物に費やす。
窓を全て開け放ち 5日間篭っていた 澱んだ空気を全て 追い出す様に 全ての窓を大きく開け放ち 掃除機を掛け 薄っすらと埃の被った家具を磨き キッチン周りや洗面所 お風呂場と掃除をしていくうちに 自分自身に付いた汚れも 落ちていくような気がする。
その時 電話のベルが鳴った。
何気に出た電話の相手は 昔付き合っていた男からだった。
『久し振り・・・元気にしてるか?美樹の事だ。休みの日にデートもしないで 掃除でもしているのか?』
馴れ馴れしく話す相手の声に ウンザリして 私は黙って 受話器を置いた。
又 掛けて来られるのも嫌なので 留守番電話にしたが それっきり 電話は鳴らなかった。
彼を愛していると思った季節も あった。
彼の何気ない 言葉に 一喜一憂し 彼の腕に抱かれて眠る幸せを 感じた時もあった。
けれど・・・ある日突然 その幸せは 壊れた。
二股をかけられ 相手の女の人が 私に会いに来て THE END!
その時は 些か 全てが嫌になり 毎日泣いて暮らした。
けれど 元々 気性の荒い弟が 彼に一言 言わなければ 気がすまない・・・というのを 宥めるうちに いつしか 傷が癒えていた。
今となっては 私も 本気で彼を愛していたのか 分からない・・・。
すると 又 電話が鳴った。
留守番電話に切り替わった途端 聴こえてきたのは 同僚の佐々木洋子だった。
慌てて 受話器を取った。



2時間後 私達は 渋谷のお店で会っていた。
土曜日の渋谷は 相変わらずの人混みだが この店は 少し奥まった処にあるお店なので 比較的 静かに話ができるので 気に入って 時々 一人でも ふらりと立ち寄る。
いつもだと 遅れてくる洋子が 珍しく先に お店にやって来ていた。
何だか 普段と少し違う雰囲気に 戸惑っている私に 洋子は
『ゴメンネ、急に 呼び出して。でも 何だか 一番先に 美樹に話したく成っちゃって・・・。』
『何なの?今日は 彼氏とデートじゃなかったの?突然電話してくるから ビックリしちゃった。何かあったの?』
お店の子に ミルクティーを頼んだ後 洋子の次の言葉を 私は 微笑みながら待った。
『あのね・・・私 会社 辞める事にした。・・・って言うより そろそろ 落ち着くことにした・・・な~~んて言うと 私らしくないわよね。出来ちゃった結婚・・・決まったの。』
『本当に!!おめでとう!!いつ?結婚式は?子供は何ヶ月?』
『美樹・・・・本当に 喜んでくれるんだ~~。』
『なんで?凄く 素敵な事じゃないの!!嬉しいわよ。当たり前じゃない!!』
『んっ。ありがと。美樹は いつも 私の話し チャンと聞いてくれてたものね。馬鹿にもしないで。』
『馬鹿になんてしないわよ・・・なんで そんな事?』
『私 会社の中で 色々 陰口言われてるの 知ってたの。軽い女だとか。誰とでも寝る女だとか・・・言われてるの。美樹の耳にだって 入ってたでしょう。』
『洋子・・・』
『でもね・・・私 平気だったの。人に何を言われても・・・。私は唯 幸せに成りたかっただけなの。私の家って 外から見ただけなら普通だけど 内情は 滅茶苦茶で だから 遣り方は 間違っていたのかもしれないけれど 私は 平凡で 穏やかな普通の家庭を 早く手に入れたかったの。
今度 紹介するけど 結婚相手なんて 全然カッコ良くないの。
でも 大切にしてくれるの。暴力なんて・・・・絶対・・・・』
洋子はそれ以上 言葉に成らなかった。それが 何を意味するか・・・私なりに 理解できた。
『今日は 時間あるの?洋子。』
『うん・・・・大丈夫。明日は 相手の親の所に行って 細かい事の打ち合わせとか有るけれど・・・・・。そうだ!美樹 結婚式 出てくれる?』
『呼んでくれるの?勿論 出席させて貰うわ。ありがとう。ほら・・・泣かないの!!』
ハンカチを渡しながら
『じゃあ 夕食は お祝いがてらに チョッと六本木まで 足を伸ばしましょう。あっ!!つわりとか 大丈夫? 食べられない物とかない?』
『ううん。平気。彼と結婚したら 六本木なんて 行けなくなるだろうな~~~。全然 似合わない人だから。』
『ご馳走様。早く 一度 会わせてね。で・・・いつ 辞表を?』
『うん・・・出来るだけ 早めに出すつもり。でも そうすると 美樹に負担 掛かっちゃうね。ゴメンネ。』
『ごめん・・・は もう いいよ。幸せに成る人間が 謝ってばかりなんて おかしいよ!!』



人の幸せな姿を見るのは 心を豊かにしてくれる。
その反面 一人住まいには広すぎる部屋に戻って 誰も迎えてくれない現実を目の前にした瞬間 言いようの無い 孤独感が 私を押し潰しそうに成った。
このマンションに戻ってきた時 見上げた各家の部屋からは 薄明かりが漏れていた。
それは 確実に その部屋で 誰かが居て 誰かと暮らす家庭が あるのだと・・・・否応無しに 私に教えている様だった。
弟と住んでいる時も 部屋の灯りが着いていると 思わず足取りが速くなった事を 思い出す。
私は 漠然と 浦賀先生との話を 思い出して そろそろ 私も 新しい道を 歩き始める季節なのかと・・・・思い始めていた。


『寂光の愛・・・生命』  (5)_a0021871_39419.jpg

by deracine_anjo | 2005-03-08 03:10 | 『寂光の愛・・・生命』 小説