『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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『女の居た季節』 短編小説 第一章 『出会い』

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その女と始めて出合ったのは 店に入る前のホンのひと時 自分に与えるささやかな自分自身を開放する時間の最中だった。
夜の帳が降りる頃には 俺は小さいながらもBARのマスターとしての顔に 変わらなければならない。この商売が嫌いな訳ではないけれど 時々 もうそろそろ 朝陽と共に目覚め 夜になると眠る・・・そんな生活も悪くないな・・・・と思う時がある。
けれど 現実問題として 生きていく為には 酔っ払い相手に日々を暮らしていく・・・・今少しそんな生活を続けていかなければ 成らないだろう。
それ故に 少しの間 気に入った店で 気に入った音楽を聴きながら 気に入ったコーヒーを飲み ボンヤリと過ごすこの時間が いつの間にか日課になっていた。
その日も そうして 読みかけの本を片手に その店に訪れ 気ままな時間を過ごしていた。



一瞬 何があったのだろうと 俺は本から眼を上げた。
俺の席から 3つ離れた奥のテーブルで 何か乾いた音がしたのだった。
店内には それ程 多くの客が入っていた訳ではなかったので その乾いた音の方角に 他の客達も いっせいに目を向けた。
次の瞬間 そのテーブルに居た1人の女性は 何かを連れの女性に告げ そのまま去っていった。残された女は 何事も無かった様に 細身の煙草に火を付けて 遠くを見つめていた。
男が絡んだトラブルだろう・・・・。
水商売をしていると そういう感覚だけは 妙に当たる様になる。
というより 人間の昼の顔と夜の顔・・・表と裏が 否応なしに 自分の身体と心に染み付いて感じてしまう様になる。
淋しくもあり 面白い所でもある。
暫くして 女は伝票を手に 俺のテーブルの脇を通り抜け 出口へと向かった。
何気なく俺は彼女を 観察していた。
中肉中背・・・いや・・・少し 痩せ気味かな?
涼しげな目元をした中々の美人だ。叩かれたであろう頬が まだ 少し赤みを帯びていた。
身なりも悪くない。
レジで話す言葉使いも声も 少し乾いた感じで 都会的な雰囲気だ。
『お騒がせしてすみませんでした。』・・・ふん・・・常識も心得ている様だ。
逆に恐縮した店のアルバイターのオロオロした姿が 情けない。
女は 静かに 店を後にした。



俺は一旦 自宅のマンションに戻り シャワーを浴び 今夜の為に用意したつまみの数品を鍋に入れたまま 店へと車を走らせた。
今日は 月中・・・まして 木曜日。客は 余り 期待できないが このご時問勢 女の子を雇うゆとりも無くなった俺の店は 全てを俺が1人で遣らなければならない。
一時期は 数人の女の子も使っていたが これも 案外めんどくさい事が 次から次へと起こる。段々 それにも嫌気が差して 俺1人の色気の無い店になってしまったが 定連さんが付いていてくれるお陰で 細々だが もう 20年近く店を遣ってきた。



店に着いた俺は こもった空気を全て吐き出す様に ドアを開け放った。
隣の店のマスターと 二言三言言葉を交わし 開店準備に取り掛かった・・・・。



そして  その夜・・・その女と 二度目の再会をした。



       『女の居た季節』 短編小説 第一章 『出会い』
by deracine_anjo | 2005-02-16 06:25 | 『女の居た季節』 短編小説