『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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『再会』 短編小説 (7) 『夢』

この頃の俺は 自宅の戻ると 自分のデスクで 一つの設計図に取り掛かっていた。



それは 一軒家の設計図だった。
仕事ではない。基本的に 俺は自宅には仕事を持ち帰らない主義である。
それは 自分の中に 『甘え』が出る様な気がして 自分自身にかせた試練の様なものだった。
自宅にまで仕事を持ち帰る事を始めれば 『時間』の余裕に 自分がだらけてしまいそうだったからだ。
馬鹿げた考えだが 俺の様な 奴には 『戦い』が 必要だった。
それは 玲子が事故にあってから 一段とその想いが強くなった。
一分 一秒を 無駄にせず 大切に生きる・・・・明日があるではなく (今を懸命に生きる)その積み重ねが 未来に繋がる・・・そんな気がしている。
そんな事を ふと考えながら 広げた製図の前で 俺の思考は 又 あの病室で眠る玲子へとココロが浮遊する。
ブラック・コーヒーを一気に飲み干し 取り掛かった。



休日の朝から 俺は不動産屋周りをしていた。
都内より少し離れた郊外で 適当な土地を見つける為だ。
緑や公園が点在する 静かな住宅街・・・それが 俺の探している物件だった。
幾つか候補を見せられ 少し値段的には高いが 気に入った物件が 一つ見つかった。
俺は 近日中に連絡を入れると答え 不動産屋を後にした。
そろそろ 玲子の面会時間だからだ。
気が付くと 何も食べていない事に気が付き 駅前のイタ飯屋で パスタを食べ 急いで玲子の元へ向かった。
ココロが少し今日の空の様に 晴れ渡り 足取りも心なしか 軽やかだ。
今年も暑い夏だ!!
早く玲子に 逢いたい。
あの微笑を 見られる様な気にさえ成っている。



玲子にいつもの様に キスをした後 俺は椅子に座り 玲子の手を握りしめて今日の出来事を報告し始めた。
『実は 今日 此処に来る前に 不動産屋周りをしてきたんだ。玲子の事だ。もう 分かっているかも知れないな。そうだよ。俺達の家を建てる場所を探してきたんだ。まだ 早すぎるって想ったかい?でも いつも俺達 話していたじゃないか。マンション暮らしは便利だけれど やっぱり 子供を育てるには 庭があって 土に親しみ 伸び伸びとした環境で 育てたいって。
だから いつでも玲子が帰ってきて 喜んでくれる事 夢見ながら 俺 取り掛かったん。設計図はもう出来上がったョ。
安心しろ!玲子の希望は チャンとふんだんに取り入れているから。
今度 設計図を持ってくるよ。』
此処まで 一気に話した途端 玲子が反応してくれたような気がした。
心臓が一瞬 早鐘の様に 脈動した。
息を殺して 玲子を見つめていたが 俺の願望だったのだろう。
何の 変化も 起きはしなかった。
一瞬 落胆したが 気を取り直して 俺は 言葉を続けた。
『それで 一箇所 気に入った所を見つけたんだ。俺が設計した家にもピッタリする環境だ。
緑も多いいし 公園もある。図書館だってあったぞ。チョッと値段的には 予算より高めだが俺の実家で 木は安く叩いて調達するから 何とかなる。
あっ!!呆れているんだろう。でも これは 材木屋の息子の特権だ!!
木に関してのプロが 俺達の家にふさわしい木を選んでくれる。
今日 もう一度 病院の帰りに あそこに行って 夜の雰囲気を確かめてくるつもりだ。
それで 気に入ったら 決めてもいいかな?』
玲子が 微笑んで
『裕也が一旦 走り出したら 止まらないの 良く判ってるわ。付き合い始めて6ヶ月で私に ぷろぽーずした時みたいにね。楽しみだわ。私 早く 元気に成らなくちゃね。』
俺には 玲子の声が聴こえた様な気がした。
『あはは。玲子には 全てお見通しだな。そうだよ。俺は 玲子が新しい俺達の家を見て喜んでくれるのを 『夢』に頑張るから 玲子も頑張れ!
俺は 玲子を信じているからな!!』



翌日 俺は 午前中 会社に遅れる事を連絡し 不動産屋と銀行周りに奔走した。
それが終わって 俺は久し振りに実家に電話を入れた。



『ありがとうございます。矢崎材木店です。』
相変わらず威勢のいい お袋の声が 受話器から聴こえてきた。
『俺 裕也。無沙汰してます。』
『やだ 裕也なの?何かあったの?玲子さん 気が付いたの?』
『いや 玲子はまだ 眠ったままだ。それより 今夜 オヤジに話があるんでそっちに行きたいんだが 大丈夫かな?』
『チョッと待ってね・・・・一つ 町内会の会合が有るけど あの人が行かなくたって 構やしないから 大丈夫だよ。で・・・・何時ごろ?』
『8時までには 行けると思う。』
『分かった。夕飯に あんたの好きな物用意して 待ってるからね。』
『ああ 楽しみにしてるよ。お袋の料理・・・じゃあ 後で。』



俺は 信じていた。玲子は目覚めると。
そして 俺達の家に 自分の足で立つ姿を・・・・。


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           『再会』 短編小説 (7) 『夢』
by deracine_anjo | 2005-01-16 12:54 | 『再会』 短編小説