『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
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『微睡みの中で』 短編小説 (3) 『突然の別れ』

『微睡みの中で』 短編小説 (3) 『突然の別れ』_a0021871_1157115.jpg


あれは 私が大学3年の時の事だった。
私の家庭は 本当に 平凡を絵に描いた様な 静かで穏やかな日々を大切に生きてきた家族だった。
サラリーマンの父 専業主婦の母 父の祖母 私に 高校3年 受験を控えた妹の5人家族。祖母は 80歳にして 矍鑠としていて 近所の老人会に 毎日顔を出すのが 日課だった。
休日には 母と祖母の三人で 出掛けては 下手な写真を撮るのが趣味の父。
俳句を嗜むのが 趣味の祖母・・・
それを 嬉しそうに 見守る母。
娘達は それぞれに 友達との付き合いやサークル そして受験を控えていた為 段々と別行動に成ってしまっていたが それでも 出来るだけ 夕食時には 皆で揃ってテーブルを囲み その日の事を 皆それぞれに 話している。
案外 誰も 相手の話など 聴いてはいなかったのかもしれないが 誰が決めた訳でもないのに そんな日々の繰り返しが いつまでも 続くと想っていた。




『紅葉』の季節だった。
早朝から 母はいつもの様に お弁当を作り 私達の朝食の用意をして 三人は出掛けて行った。
寝ぼけた儘 パジャマ姿の私が 三人を送り出したのが・・・・最期の別れになった。
『いってらっしゃい。パパ 車の運転 気を付けてね!サンデードライバー達が 沢山居るんだからね!!おばあちゃま いい俳句 楽しみにしてるからね♪足元だけは 気をつけてね!ママ 朝ごはん ありがと。楽しんできてね~~~。お土産 宜しく♪』
毎回の会話・・・・
『優良ドライバーのパパは 無理はしないから 大丈夫だよ。そんな姿で 女の子がウロウロしてるんじゃないぞ!!じゃあ 行ってくるよ。』
皆が 微笑あって 別れた・・・・・。




久し振りに 何の予定も入ってなかった私は 部屋の掃除をしたり 勉強の邪魔にならない様に 小さな音でお気に入りのCDを聴きながら もうそろそろ 夕飯の買い物にでも 出掛け様かと思って 時計を見た瞬間だった。
電話のベルが鳴った。
嫌な予感がした。急に 心臓が 早鐘の様に打ち始めた。
受話機を取る手が 何故か震えた・・・今でも あの瞬間 は 覚えている。
中々電話に出ない私を 不信がって 妹の朱美も自分の部屋から 出てきた。
『お姉ちゃん 電話!!』
その声に 私は 背中を押される様にして 受話器を取った。
電話の向こうで 男の人が
『長谷部幸一さんの お宅でしょうか?私 ○○県警の藤堂と申します。
実は 大変申し上げ難い事なのですが・・・・・』
私の身体が ゆらりと 揺れた。
『お姉ちゃん どうしたの!!』 遠くで 朱美の叫ぶ声が聴こえた。




相手は 20台後半の若者4人組。
新車の足慣らしに出掛け 少々 お酒も飲んでいた様だった。
帰宅途中の父の車に 登り斜線を大きくはみ出し 猛スピードで 突っ込んだという事らしい。
父の車は ガードレールを飛び超え 谷底へ転落した。
幸いにも 炎上だけは免れたが 現場を見た私達は 怒りに身体が震えて 涙も出なかった。
後日 相手に面会できるチャンスがあった時 私は周りの人間の目の前で その相手を平手打ちで 殴っていた。
出来る事なら 朱美もそうしたかっただろう・・・・・・。
取り合えず神妙な顔をしていたが 彼の瞳の中に 3人の命を奪ったという後悔と懺悔の気持ちを 見つけることが出来なかったからだ。




滞りなく何とか葬儀を終え 相手方の弁護士との話し合いや細かな雑務に
私は追われ 朱美の心の傷に 気が付かなかった。
正直 余裕が 私自身に 無かった・・・・所詮 21の小娘。
両親の庇護の元 のほほんと生きてきて 突然の嵐に飲み込まれ 朱美の事を思いやる事が 出来なかった。
朱美は 受験に 失敗した。
それよりも ココロの バランスを 崩し始めていた・・・・。
男友達と遊び歩き 真夜中に帰ってくるかと思えば 一日でも二日でも 
部屋に閉じ篭もり 食事もまともに摂らない。みるみる・・・・やせ細っていく朱美を 目の当たりにして 私は嫌がる朱美を連れて 『心療内科』の扉を開けた。




今・・・・自分が 直面した事実に 少しだけ 冷静で居られるのも あの辛さを何とか 乗り越えたからだろう・・・・



でも・・・・私は 彼に 抱かれて 今夜だけは 
何も考えずに 眠りたかった・・・・・。


          『微睡みの中で』 短編小説 (3) 『突然の別れ』

 
by deracine_anjo | 2004-09-28 13:15 | 『微睡みの中で』  短編小説