『名も無き 雑草。・・そして 此処に おります♪』 


by deracine_anjo
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

『驟雨』 短編小説 (2) 『シンガー』 』

『驟雨』 短編小説 (2) 『シンガー』 』_a0021871_1035535.jpg


公園のブランコで 揺れながら歌っているのは
まだ 若い女性だった。
暗い外灯の灯りでは ハッキリとは分からないけれど
一瞬 『外人か?』。。。と思うほど 流暢な英語で歌うその横顔は
彫りの深い透き通る様な肌をした女性だった。
ロックとポップス系しか 知らない僕には
彼女が 何を歌っているのか分からなかったが
もの哀しく ココロを揺さぶるような唄に 僕は 引き込まれていった。
けれど 夜の公園で 傘も差さず歌い続ける女性には
僕の存在は 無かった。
もっと正確に感じたままを言うなら
女性には 目に見えないバリアの様なモノが 彼女を包み込んでいて
誰も その中に入ってはいけない『聖域』のようなものを感じた。



歌が終わった途端 僕は 自分が泣いているのに気が付いた。
一瞬 雨かな?。。。と 思ったが 僕は 傘を差している。
風に飛ばされた雨粒かな。。。とも 思ったが
幾筋も頬を伝うものが 不覚にも 自分が泣いている事を
教えていた。。。
一歩 又 一歩 と 彼女に近づきながら
(彼女が 怖がるのでは?脅えて 大声を出したらどうすればいい?
立ち去った方がいい!!)自分の中で 声がしていた。
なのに 僕の行動は その言葉を無視して
彼女に声まで掛けてしまった。



『こんな雨の夜に 傘も差さず歌っているなんて。。。危ないですよ。
風も引いてしまう。』
我ながら 間の抜けた言葉だ。
彼女からすれば 今一番恐怖を感じているのは 僕に対してじゃないか!!
『僕は 変な人間じゃありません。唯 アナタの歌声に引き寄せられて。。。。』
彼女は 僕の言葉を 閉ざす様に 又 歌い始めた。
何だか 拒絶された事で 自分の行動が馬鹿らしくなり
踵を返して 公園の出口に向かった。
雨は 一段と 強く降り始めていた。。。



マンションに着いて ドアに鍵を差込み ムッとした空気が全身を包み込んだ瞬間 僕は もう一本 傘を握りしめて 部屋を飛び出した。
(僕は 何を 遣っているんだ!!相手は 頭が おかしいんだ!!
だから あんな雨の中 傘も差さず 歌なんて唄ってるんだ!!
関わるのはよせよ。さっさと シャワーでも浴びて 冷たいビール飲みながら野球観戦でもしてろよ!!)
『うるさい!!黙ってろ!!』
思わず 自分に怒鳴りながら公園まで 一気に駆けていた。
公園に辿り着いた時 始めて 彼女が唄っているのは
『ジャズ』だと 気が付いた。
彼女は 誰でも知っているスタンダードナンバーを 唄っていた。
出来る限り彼女を 怖がらせない様に 声を掛けながら
僕は 彼女に近づき 傘を差し出した。



漸く 彼女のバリアの中に入れた様な 錯覚を一瞬 感じた。
『ニャァ~~~♪』



それが 始めて 僕と交わした会話だった。。。。

      
        『驟雨』 短編小説 (2) 『シンガー』 』
by deracine_anjo | 2004-09-10 11:53 | 『驟雨』  短編小説